躾がなってません! | ナノ



「いやだ。そして、いやだ。」

そんな駄々とともに、後ろから腰に回された腕の力がぎゅうと強まった。どうやら離してくれる気はさらさらないらしい。
普通にしていたら、体格的に適う筈もない。かと言ってこんな朝っぱらから能力を使う気にもなれない。第一、出動要請がいつあるかも分からない訳だし。
溜息を吐きながら振り向くと、情けなく眉を下げたキースの顔が目に入る。その様子はさながら飼い主に追い縋る大型犬のようで、なぜだか良心が痛んだ。

「うー、しょうがないだろ仕事なんだから…」
「休めばいい」
「クビになるっての。」
「そうなったら私が君を養うよ」
「は?」

抱き締める腕の強さはそのままに、キースが肩口に顔を埋めてくる。ふわふわの金髪が首筋に触れて、少しくすぐったい。

「キース…?」
「……分かっているんだ、馬鹿なことを言っていると。虎徹君を困らせるだけだと。けれど…」

もごもごと何か言いにくそうにしているので、促すように頭を撫でてやる。すると。

「バーナビー君ばかり君と一緒で、ずるい!そしてずるい!私だって虎徹君といつも一緒にいたい!」

ぎゅうぅっ!
その言葉とともに、覆い被さってくるように一層強く抱き締められる。抱き締められるのは好きだが、流石に、これは、苦しい。

「おいキース、くる、し…!」
「わあっ、す、すまない…!そしてごめんなさい、虎徹君…」

途端慌てて解放してくれるが、手だけは繋いだまま離そうとしないところが、何というかちゃっかりしているなあと思う。そんなところが憎めなくて愛しい、とは言わないけれど。
キースが心配そうに様子を伺ってくるのに、怒ってないよと少し笑ってみせる。すると彼は安心したような顔をして、かと思ったらまた眉を下げた。

「君の恋人は私なのに……」

捨てられた小犬のようなしゅんとした顔で、心底悲しそうにそう言うものだから、思わず吹き出してしまった。
なにこいつ。何で図体でかい男のくせに、こんな。

「わ、笑わないでくれ、虎徹君…」
「くっははっ、お前、最高…っ」
「虎徹君っ」
「あーごめんごめんって。や、なんか…お前がかわいくってな」
「?」
「妬いてくれてたんだろ?……ちょっと、嬉しかった、っつーか。」

ちゅ、と頬にキスしてやると、キースが驚いたように目を丸くした。
その顔、珍しいぞ。…って珍しいのは俺の方か。

「それに、まあ、んな心配しなくても……その、…俺の恋人はお前だけだから、安心し、っわぁあっ!?」
「虎徹君…っ!」

感極まったような感じで情熱的に名を呼ばれ、覆い被さられる。なんか太ももとか撫でられてるし、シャツのボタン外されてるし、これ、やばい、よな?

「ちょっ、お前、どこ触っ…!」
「好きだっ、そして、愛してるー!」
「ちょ、マジで遅刻っ、やぁ…っ!」







その後、必死でロイズに謝る虎徹と、その虎徹に必死に謝るキースの姿が見られたそうな。

「キースのばーか!あほ!」
「すまないっ、申し訳ないっ、そしてごめんなさい!虎徹君っ!」




躾がなってません!

100902



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「空虎♀」とのリクエストでした!あまり♀要素がなくてすみません…体格差はぐは正義!