なんだこれ。なんだこれ。 正義の壊し屋ワイルドタイガーこと鏑木・T・虎徹は、非常に混乱していた。 その原因は、現在彼が置かれている状況にある。 「ん……、やぁ…おはよう、ワイルド君…。」 「お、おぅ、おはよ…う……?」 目の前には厚い胸板、そして少し見上げた先には精悍な彫りの深い顔立ち。寝起きのせいか、鮮やかなブルーの瞳は柔らかく細められていて、なんとなく男の色気といったものを感じさせる。 スカイハイは一度右手で額を撫で上げてから、ゆっくりとした動作で枕元の時計を確認し、それからまたベッドにその大きな身体を沈めた。 ちなみにこの一連の動作の際、スカイハイの左手はずっと虎徹の腰に回されたままで、それが虎徹の混乱をさらに加速させた。 訳が分からず呆然とする虎徹を、スカイハイはぎゅうと抱き締め直し、擦り寄るようにその髪に鼻を埋める。 「まだ朝の5時だ、もう少し寝ていても罰は当たらないさ。眠い、そして、おやすみ…。」 「……っいやいやいやいや待てっ!寝るな!起きろスカイハーーイ!」 「どうしたんだい…?」 「そりゃこっちのセリフだ!というかまず放せ!」 「それは嫌だな。そして、嫌だ。」 「あーめんどくさい!いいやもう、とりあえず!ここはどこだ?」 「私の家だね。男の一人暮らしだから、少々ごみごみしているのは勘弁してほしいよ。」 「いや、俺の家よりは全然綺麗で……って違う!…あーっと、何で俺が、お前の家に?」 「覚えていないのかい?」 にっこり、そこでスカイハイが微笑む。 虎徹としては嫌な予感しかしない。 「昨晩、ヒーローの皆で親睦会をしたことは覚えているよね?」 「あぁ……そういや、そうだったな。って言っても、結局飲み会みたいになっちまったけど」 こうして話しているとだんだん思い出してきた。そうだ、昨日はあの居酒屋で、皆でわいわい騒いで…。 それで、そこからどうしたっけ? 「皆で騒いでいる内に、君がすっかり酔っ払ってしまってね。こうして連れ帰ってきたという訳なんだ。」 「いやいやいや、なんか色々と流れすっとばしてるぞ!?つーか他の奴らは!?」 「若者たちはおそらくファイヤー君が送っていったよ。他の人たちは自分で帰ったんじゃないかな。」 「じゃないかな、って……何でじゃあ、俺はお前に連れて来られてんの…?」 「ワイルド君があまりにもかわいくて、そして、いやらしかったからね。つい。」 「はぁ!??!!」 「私以外には見せたくなくなってしまった。」 そう言って、スカイハイが腕の力を強める。ぎゅうと力強く抱き締められて、更に密着することになってしまい、虎徹は慌てる。 「お、おい、スカイハイ…っ」 「もう少し、眠らないかい?」 「ねっ寝るっつったって…!」 「よいしょ」 未だ訳の分かっていない虎徹をよそに、スカイハイはずれてしまっていた布団を掛け直し、二人はもふもふの布団に包まれた。 さらに優しくとんとんと背中を叩かれながら眠りを促されると、元々寝つきのいい虎徹の瞼はすぐに重くなってくる。最近ちゃんと休みが取れていなかったというのもあり、混乱から逃げてしまいたいという気持ちもあり、人肌の温かさの心地好さもあり、虎徹が眠りに落ちてしまうのにそう時間は掛からなかった。 安らかな寝顔を眺めながら、スカイハイが幸せそうに笑う。 「おやすみ、ワイルド君。」 そう言ってひっそりと額に口付けたことは、スカイハイ自身しか知らない。 一方その頃、宴会会場では。 「おじさあああああああああん!!!!おじさんはどこだ!おじさあああああああん!!!!」 「虎徹うううぅぅぅぅぅぅ!!!!」 「まさかと思って来てみたら、アンタたちまだ居たのねェ。」 「おいファイヤーエンブレム!虎徹が!虎徹がいなくなっちまった!!」 「タイガーちゃんだったらキングオブヒーローがお持ち帰りしてたわよォ?うっふっふ、今頃何してるのかしらねェ。」 「「………あんのクソ野郎おおぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」」 いらっしゃいませ、おやすみなさい 100707 |