ハチに恋しているんだとハッキリ自覚してからというもの、最初こそは避けたり挙動不審になったり恥ずかしさのあまり逃げ出したりしたが、さすがに一週間経つと慣れてきたからか、最初ほど騒がなくなった。むしろ冷静になったと思う。しかし、いくら個人差があるにしろ、一週間って長くないか?というか、私はこれに慣れるのに一週間もかかったのか。あんまり凄くないな、私。



「ハチ、毒虫見つかった?」

「いや、全然。和葉は?」

「こっちも全然」



だから私は今こうしてハチと一緒に生物委員会の仕事を手伝える訳である。慣れって怖いな。確かに近くに居たらドキドキするし恥ずかしくなるけど、一定の距離を保っているから平気だ。どんなに好きでも幼馴染で友人だからな。いつまでもよそよそしいのはハチに悪いだろう。私も嫌だし。



「本当に逃げ出したのか怪しくなってきたな」

「ほ、本当だって!だから早くジュンコを探そうぜ!」

「だからこうして三十分以上もジュンコを探しているんじゃないか。全く見つかる気配ないけど」

「ぐっ……!!」



私の正論に、ハチは言い返せずに項垂れた。孫兵くんのジュンコは気まぐれだから、居場所が分かるのは常に一緒に居る孫兵くんだけなんじゃないだろうか。さすがに私だって毒蛇の気持ちやよく行く場所なんて分かるはずがない。逆に分かったら凄い。



「あ!竹谷先輩、桐島先輩!」

「お、孫兵!!どうした?」

「ジュンコが見つかりました!!」

「あ、本当だ。良かったな、孫兵くん」

「はい!先輩方ありがとうございました!あと、桐島先輩にも手伝ってもらって……」

「ん、気にしないで。ジュンコ見つかったんだし、良かった良かった」

「はい!本当にありがとうございました!」



そう言いながらジュンコを抱き締めて、孫兵くんは笑顔で走り去って行った。可愛いなぁ、孫兵くん。ちょっとハチが羨ましいな。



「ふぅ。やっと終わったな、ジュンコ探し」

「あぁ。いつもありがとな、和葉」

「……………………っ!?」



そう言って、ハチはいつものように私に「ありがとう」と言いながら笑顔で頭を撫でてくる。一週間経っても、未だにこういうスキンシップは慣れない。好きだと自覚してからは、平気だったのに恥ずかしくて死にそうになる。心臓がバクバク煩いもん。顔も熱いし。だから私はいつもこの瞬間は顔を俯けるしかない。そんな私に、ハチはいつも不思議そうに首を傾げながら私に尋ねる。



「大丈夫か?和葉。具合悪いのか?」

「っ、平気…ハチはこの後どうする?」

「俺?この後は他の動物達に餌やったり遊んだりするけど」

「……私も一緒にいて良い?」

「あぁ、良いよ」



ハチから了承を得て、私達は生物委員会が管理している動物小屋に向かった。動物小屋にはたくさんの動物達がいる。私も何回か遊びに訪れた事がある。基本的に動物は何でも好きだから、委員会を手伝った後の楽しみの一つになっている。何より、動物達に囲まれながら一緒になって戯れているハチの笑顔を見るのが、この一週間の楽しみになっていた。

しかし同時に、動物達に何とも言えない羨ましさを感じていた。動物達に、あんなに良い笑顔を見せている。動物達が、ハチをあんな笑顔にさせている。良いなぁ。私にも、あんな笑顔を見せてくれないか。手伝った後の笑顔や言葉ももちろん嬉しい。だけど、私にだけ、その笑顔を見せてくれないか。私が、ハチを笑顔に出来ないか。委員会の手伝いなんて、誰にでも出来るし、誰にでも頼める。別に私じゃなくても良い。



「本当に動物好きだな、ハチ」

「あぁ。でも、それは和葉もだろ?」

「……まぁ、そうだけどさ」

「この子猫なんて可愛いだろ?」

「うわぁ……小さい。可愛いなぁ」



そう言うのと同時に、ハチが満面の笑顔で私の目の前に持って来たのは、まだ生まれて間もない小さな白猫だった。思わず顔が綻ぶ。その小さい子猫の頬に顔を寄せて、頬擦りする。子猫は「ニャア」と声を上げ、自ら頬擦りしてきた。か、可愛い……!!



「可愛いな、この白猫!」

「あはは!だろ?気に入ったか?」

「うん!」

「良かった。また明日も来るか?」

「……うん!!」



動物達に嫉妬なんて、まだまだ子供だな、私。だって、子猫のお陰で、またハチの笑顔を見れる口実が出来たんだから。でも、やっぱり私にだけ夢中になったりしないだろうか。




(この子猫、名前まだないの?)
(あぁ、一緒に決めるか?)
(……!!うん、一緒に決めよう!!)




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