こいに落ちた3人の結末は

ノボリがこいに落ちた。

それは数日前の事だった。いつも無表情を崩さないで真面目に仕事をこなしているノボリが、溜め息を吐いたり思い詰めた顔をする事が多くなっていた。ぼくはそんな珍しいノボリを見て、ギアステーションの職務室で仕事している最中に「どうしたの?」と聞いた。するとノボリは、一言こう言ったんだ。



「わたくし、苗字様が好きなのでございます」



それを聞いた時、ぼくは「あぁ、なんだ」と心の中で呟いて、すぐに自分の机の上に乱雑に積み上げられている書類の束に視線を戻して仕事に戻った。ぼくは、ノボリが苗字を好きな事を前から知っていた。そして、それが一目惚れだった事も。だってぼくも苗字を好きだから。ぼくも彼女に一目惚れしたから。ぼくとノボリは双子。だから互いの気持ちの変化や悩みには、けっこう敏感。だから、本来ぼくとノボリは恋のライバル。三角関係。でも、ぼくはノボリに苗字が好きという事実を打ち明けていなかった。だって、苗字が大好きなのと同じくらいノボリも大好きで、大切だから。だから、打ち明けて嫌なムードになりたくなかった。ノボリが苗字に想いを打ち明けられずに遠目に眺めては溜め息を吐いているように、ぼくもノボリに真実を打ち明けずに遠目で苗字を眺めては溜め息を吐く。それで良いんだと思ってた。

でも、それが間違いだったんだと気付いた(ううん、思い知らされたと言った方が正しいのかな?)のは、ノボリがこいに落ちる前日の事だった。苗字も、こいに落ちたんだ。ライモンの中心街にあるライモンデパートへ出掛けてたらしい苗字は、ギアステーションに一枚のメモを残してそのままこいに落ちた。



『もう、耐えられない』



メモに書かれてたのは、その一言だけだった。他には何もない。ぼくは悲しかった。声を上げて泣いた。ノボリも、もしかしたら泣いていたかもしれない。ぼくとノボリは、心から苗字を愛していたのに、彼女はこいに落ちてしまった。そして、それが次の日、ノボリがこいに落ちた理由だった。ぼくは始め意味が分からなかった。苗字がこいに落ちたのに、なんでノボリもこいに落ちたのか。でも、ぼくは気付いてしまった。苗字がこいに落ちた理由と、ノボリがこいに落ちた理由。

一ヶ月くらい前ーーぼくとノボリが苗字に一目惚れする更に数日前ーー、ぼくはクラウドと苗字が執務室に近い廊下で話してる会話の内容をこっそり聞いた事がある。その時は会話しか分からなかったから、後から苗字と話していたという事をクラウド本人の口から聞いたんだ。会話の内容は、確かこうだった。




「苗字って、好きな人とかおるん?」

「えぇ、いますよ」

「へぇ、一体どちらさん?」

「実は…一人じゃないんです。私…好きな人が、二人いるんです」

「え、そうなんか?」

「はい。私…欲張りですよね。でも、二人とも大好きなんです。だから…」





確か、そんな会話。彼女はあの後なんて言ってたんだっけ。全然思い出せない。でも、もう良いや。苗字とノボリがそれぞれこいに落ちた。その理由も分かった。ならもう、それで十分。だからぼくは、二人と同じようにこいに落ちる。だからきっと、3人でハッピーエンド。とっても素敵。

…あぁ、眠いなぁ。そういえば、彼女があの後言った言葉。思い出せそう。クラウドはなんて言ってたっけ。あぁ、確か…。




(一人しか選べないなら私、きっと耐えられない)




by 意味が分かると怖い話






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