それとこれとは話が別!

今、私は人生最大の危機を迎えようとしている。いや、傍から見たら「何をくだらない事で」と思うかもしれないが、私にとっては死活問題なのだ。というか、ぶっちゃけ帰りたい。



「ねぇ。や、やっぱりやめましょうよ、お化け屋敷なんて…!」

「えー?でもカミツレちゃん、ぼく達にライモン遊園地のチケット譲ってくれた。だったらいっぱい楽しまなきゃ!」

「いやいやいや!その考えは否定しませんけど、カミツレさんもわざわざ私を一番苦手なお化け屋敷に行かせるためにそれを譲ってくれたわけでもないでしょう!?」



そう。私に迫っている人生最大の危機とは、ライモンシティにある遊園地の、お化け屋敷。この夏オープンという事で、いつも以上の賑わいを見せる遊園地。しかし今の私には、そんな周りの喧騒も気にならないくらいには、焦っていた。もう、とにかく帰りたいです。



「痛っ!?の、ノボリさん!そんなに手を強く握りしめないで下さいだだだだっ!!?」



丁度私の右隣にさっきから無言のまま立っているノボリさんが、おもむろに私の右手を握り潰さんとばかりにギューっと握り込んできた。その見た目からは想像出来ないくらいぎりぎり握り締める力がその細い腕のどこから出てくるのか。全く、世の中は不思議な事だらけである。まぁノボリさんの場合は単純にお化け屋敷が私と同じで大の苦手で、怖いから握っているのだけれど。



「あーっ!ノボリ苗字の手握ってズルーい!ぼくも握るー!」



そんな私達の様子をノボリさんとは反対側、つまり私の左隣から見ていたらしいクダリさんは、ノボリさんの手を見た瞬間に私の空いた方の手をこれまたノボリさんに負けないくらい力強く握り締めてきた。この双子は力まで一緒なのか!と思わず叫びそうになるのを必死に抑える。でも二人の場合、握り締めてくる理由が明白に違う訳だが。



「ちょっ!ち、違いますよクダリさん!ノボリさんお化け屋敷に入るのが怖いから必死に手を握ってるんですよ!」

「こ、こここ怖くなんてありませんよお化けなんて非科学的なモノがこの世に存在するはずがないのです全く何を言っているのですか苗字様は」

「初っ端から明らかに噛んでる上に冷や汗ダラダラ流しながらノンブレスで全否定する辺りめっちゃ怖がってますねノボリさん!」

「あ、ぼく達の番回ってきたよ」



そう言って満面の笑み(そりゃあもう今日一番の笑顔)で私とノボリさんの腕をグイグイ引っ張り、お化け屋敷の入り口へと歩み入って行く。受け付けも薄暗く、早くも私は涙目だ。横にいるノボリさんの顔をチラッと覗き見ると…気のせいだ。普段は無表情で無愛想で言葉遣いが丁寧な紳士的廃人である格好いいノボリさんが涙目で「南無阿弥陀仏…!」と唱えていたなんて私は信じない…!



「うぅ〜…怖い、早く帰りたいよぉ…!」

「大丈夫だよ苗字!お化け屋敷って言っても出てくるのはゴーストタイプのポケモン!怖がることない!」



そんな事は分かってる。十分分かってるさ。でもやっぱり雰囲気とかあるじゃんか!ゴーストタイプのポケモンには色々曰く付きな噂とかあるじゃんか!この前トウコちゃんにポケモン図鑑見せてもらったけど、可愛い見た目のシャンデラだって誘いポケモンとか言われてるんだぞ!まぁシャンデラ大好きだけどね!



「ほら、ノボリと苗字先行きなよ!」

「うわあ!!ちょ、やめてくださいよクダリさんホント怖いんですよほらなんか向こうに赤く光ってるものが二つぎゃああああああああ!!」

「あはは!ただのゲンガーの目だよ?」

「確かにただの目だったけどむしろ不気味に笑ってるゲンガーが怖いぃぃぃぃぃい!!」



あ、あのゲンガー私達を見ていやらしく笑ってる!質悪いなこのやろう!怯えて泣きそうになって叫んでいる私とノボリさん(むしろノボリさんは叫ぶ事もなく無言で涙を浮かべている)をみて嘲笑っているんだ!いくらポケモン大好きな私でも怒るぞ!まぁここお化け屋敷だから驚かすのが仕事なんだろうけどさ!それでも怖いんだよ!!



「ほら、苗字はポケモン大好きでしょ?ゲンガー以外にもまだまだポケモンたくさん出てくるから楽しみだね!!ノボリも、そのうちシャンデラ出てくる!楽しみ!」

「……だからぁ!!」




(ノボリさん!大丈夫ですか!?)
(心頭滅却すれば火もまた涼し…!!)
(ダメだこりゃあああああ!!)
(ノボリサブウェイマスターなのに情けない!)
(サブウェイマスターは関係ないんじゃ…)






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