まだ君のぬくもりが消えない

静かな部屋に、僕が雑誌を捲る音と時計の針が秒針を刻む音だけが耳に届く。あ、それと隣でうつらうつらと舟を漕いでいる苗字が必死に目を擦りながらうんうん唸っている声も微かに聞き取れる。僕はそれを横目で見ながら、またペラっと雑誌を捲る。もう他の皆は自分の部屋に戻って寝ているかもしれない。僕達もそろそろ部屋に戻って休んだほうがいいね。

そう思って苗字の方に顔を向けようとしたら、トンッ、と右肩に軽く重みを感じた。不思議に思って僕は右肩に顔を向けた。



「スー……」

「…………」



小さい寝息を立てながら、僕の右肩に顔を乗せて無防備に眠っている苗字だった。どうやら睡魔には勝てず、そのまま眠ってしまったらしい。いやね、僕としては役得だし、苗字と一緒にここまで起きてて良かったって思ってるよ、うん。でもさ、僕もやっぱり健全な男な訳だし、好きな子が隣で無防備に寝てたら気が気じゃないんだよね。



「……どうしようかな」



正直、これ以上この体制でいると変な気を起こしそうでヤバい。これで手を出そうものならキド達に殺られる。袋叩きなんてもんじゃない。もはや集団リンチだ。一度理性が切れかけて襲いそうになったら総出でフルボッコにされたよ。あの弱々しいマリーと暴力振るいそうにないキサラギちゃんまでそれに加わって……うん、かなり怖かった。今日はちゃんと起こそう。



「苗字〜起きて。もう自分の部屋に戻ってちゃんと布団で寝ないと」

「……う、ん……カノ……?」



僕が肩を軽く揺すれば、まだ浅い眠りだった苗字はすぐに目を開けた。でもまだ寝ぼけているようで、ボーッと僕の顔を見上げていた。すごく可愛い。



「そうだよ。ほら、もう夜遅いから自分の部屋に戻って、ね?」

「うん……あ、私カノに寄り掛かってた?ごめん、重かったでしょ……?」

「全然?ちょっと軽く乗ってただけだし、可愛い寝顔が見られたしね」

「……もう、恥ずかしいなぁ。でも、ありがとうね、カノ」



そんな会話をしてから、苗字は自分の部屋に戻って行った。それを僕は笑って見送って、部屋には僕一人。僕は右肩に軽く触れた。




(まだそのぬくもりを感じたかった、なんて)
(言える訳ないじゃん)
(もうちょっと、寄り掛かってたかったなぁ)







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