冗談を言える余裕もない

「い、イゾウ……おかしくない?変じゃない?」

「何言ってる、よく似合ってるぞ名前 。可愛い可愛い妹の着物姿を可愛くないなんて言う奴は俺が風穴開けてやるさ」

「……それはやり過ぎだよイゾウちゃん……」



私は今、白ひげ海賊団16番隊隊長イゾウに着付けをしてもらっている。ワノ国出身のイゾウは普段から着物を着ているため、慣れない、というより初めて着る着物の着方なんて知るはずもない私のために手伝ってくれているのだ。

そもそも、なんで海賊の私が慣れない着物なんかを着ているのかというと、それはかなり個人的な理由だ。ある人物に、綺麗に着飾った私を見て欲しいから。あ、もちろん親父さんや他の皆にも見せるけどね!?化粧なんかもして、イゾウは「妹を綺麗に着飾るのが俺で嬉しいさ」なんて言いながらノリノリでおめかししてるし。凄く活き活きしてるのですが。



「さぁ、出来たよ。早く見せに行きな」

「うぅ……やっぱり恥ずかしい」

「自信持ちな。アイツは素直じゃないが、オヤジやサッチなら確実に喜ぶだろうさ」

「……まぁ、サッチはそうだろうけどさ」



サッチなら、例え私がナースさんとは正反対の幼児体系なちんちくりんでも、女の子が綺麗に着飾ったと聞けば素で喜ぶだろう。あれは無類の女好きだからなぁ。



「でも、こんな可愛い妹を独り占め出来ないのは非常に残念だな」

「……イゾウが言ったら冗談に聞こえない」

「そりゃそうだろうさ。冗談じゃないからな」



そう言って微笑を浮かべるイゾウは、女の私よりもよっぽど綺麗で色っぽかった。まぁ、私みたいなちんちくりんが今更見る目麗しいイゾウに敵う訳ないけどね!?あぁもう泣きたい。



「ほら、もう着くぞ。オヤジにはもう待ってもらってる。着物の件は言ってないけどな」

「……さっすがイゾウちゃん。相変わらず仕事が早いなぁ……」



そう感嘆の声を小さく零すと、イゾウはしっかりと聞いたのか「まぁな」と私の方を振り返ってニヒルな笑みを浮かべた。





「オヤジ、皆。我らが可愛い名前のおめかしが終わったぞ」

「おぅ、イゾウ。おめぇ遅かったじゃねぇか。名前を綺麗にしてやったんだろうなぁ?」

「当たり前さ。皆がびっくりするぐらい綺麗にしてやった」

「マジかよ!楽しみだなぁ!!」

「……?オヤジ、サッチ。これは一体どういう事だよい?」



まだ私は部屋に入らず、イゾウが先に目的の部屋ーー船長室に入ってまだ事情を話していない人に軽く説明した。ぶっちゃけて言うと、着物を着るという事実を話していない事を除けば、説明がいるのはマルコだけだ。そう、私が一番この姿を見せたいのはマルコなのだ。



「ーーという訳だ。さて、そろそろ姫さんに出てきてもらうかねぇ」

「ちょっ、ちょっと待てよいイゾウ!何で他の隊長ーー特にサッチには話して、俺には話してないんだよい!!」

「って、おいマルコ!何で俺だけ名指し!?」

「まぁ、そう怒鳴りなさんな、マルコ。これは名前のお願いだったからねぇ」

「……名前の?」

「あぁ。可愛い可愛い妹の頼みとあれば、断れないからねぇ」



イゾウがそう言えば、マルコはグッと唇をつぐみ押し黙った。それを良い事に、イゾウは私の方に顔を向けて「入って来い」と目で合図してくる。このタイミングで良いのかな?と思いつつ、いつまでもここに居る訳にもいかないので、とりあえず中に入る。



「お、オヤジ、みんな……着替えて来ました!」

「おぉ。名前おめぇ、見違える程別嬪になったじゃねぇか」

「わ、我らが妹ながら可愛い……!サッチお兄ちゃん嬉しい!!イゾウグッジョブ!!」

「おうよ」

「…………(呆然)」

「あ、あの……マルコ?」



周りが可愛いやら何やらと騒ぎ立て捲し立てながら、「妹の可愛い晴れ姿にかんぱーい!」なんて言いながら酒を煽っている。いや、こんな真昼間からガンガンお酒煽ってて良いの!?ほら周りがそんなだからオヤジまでお酒煽ってるじゃん!ナースさん達が必死になって止めてるけどあまり意味を成していない。むしろさらにお酒を煽っている状態だ。



「(それにしても、マルコ一言も喋らないまま動かないな……やっぱり着物なんて似合わない物着ない方が良かったかな……?)」

「(ど、どうするよいコレ……!『馬子にも衣装だな』とか言って平静を装うにも似合い過ぎてんな事言えねぇよい……!)」

「……なぁイゾウ。俺、今マルコが考えてる事が手に取るように分かるんだけど」

「よし正常だサッチ、安心しな。俺も全く同じだからなぁ」





(何でもいいから気の利いた事言え自分!)
(超顰めっ面……やっぱり似合ってないよね)
((あーあ、誤解を生んでるなあれは))






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