ライブラの他に副業をアスカは探していた。
しかし彼女にできることはとても少なく、拳銃で人間や異界人を撃ったり自身の能力である毒で他人を眠らせたり溶かしたり毒殺したりするしか能が無いアスカは、結局のところ自身が生きていた行き方しか、金を稼ぐ方法をしらない。
モロスと言う存在が居た当時、彼の仲介でいくつも暗殺業をこなしてきたが、有能な仲介役が居なくなった今は、自分で仕事を探さなければならなかった。
きっとアスカがライブラ以外の仕事をしようとしていることをスティーブンに知られたらこっぴどく叱られるだろうし、レオナルドが知れば絶対に止められるだろう。
だが、これまで有能な殺し屋だったアスカに仕事の誘いは少なくなく、労働環境はどれも劣悪なものであるけれど仕事としては充分なほどアスカの手元に飛び込んできた。
異界人が集まる地区の裏路地にフリーランスの暗殺業を生業にする者たちが集まる仕事の斡旋所がある。
アスカはそこで報酬金の勘定をしていた。

「おい、仲介人。最初の言い値と報酬金額が違う」
「ああん?」
「悪いけれど、文字は読めないけれど金勘定はできるんだ。さっさと出しなよ」

と言うと異界人の仲介人はアスカに足りない方集金額を分のゼーロを差し出した。

「ったく世知辛いねえ」

と戯言を呟く異界人を尻目にアスカは、慣れた手つきで金勘定を続ける。
きっかり提示された報酬金額があることを確認するとアスカは札束をポケットに突っ込むんだ。

「ねえちゃん、その怪我、病院いったほうがいいぜ」

とその始終を眺めながら嫌味臭く異界人はアスカに言った。
暗がりの中に佇むアスカの白い肌は傷だらけで、頬にも青い痣や擦り傷があった。


That's Life!!! 番外編 「ソファの上で君と眠る」


呼び鈴が鳴ったのでインターホンに出るとテレビ画面の向こうに仏頂面を浮かべるアスカが居た。
スティーブンは慌ててアスカを向かい入れるべく、玄関を開いた。
アスカの方から連絡もなしに来るのは初めてでとても驚いたが、さらに玄関ドアの前に立つアスカの姿を見えて、スティーブンはますます驚いた。
いつだかマフィアの報復に合ったといって大怪我を負ったアスカであったが、今の彼女の姿はそれと同等ぐらいの怪我を負っていた。
また報復にあったのか、とアスカを向か入れながらスティーブンは問いかけるのだが、アスカは機嫌が悪そうに首を振った。
ならどうして、彼女がこんなに怪我を負う必要があるのかスティーブンは思案するが、思い当たる節はどこにもなかった。
時間はとうに深夜0時を過ぎていて、スティーブンは自宅に持ち帰った仕事の残務処理をいつものダイニングソファ辺りを散らかしながらおこなっていた時だった。
目をまん丸にして驚いているスティーブンを尻目にアスカは、ずんずんと家に上がり込みソファの上の書類をどかして、書類の代わりにソファの上でまるで猫のように丸くなって寝だした。

「待て待て!」

スティーブンは慌ててアスカの両脇を抱きかかええて、起き上がらせた。

「血で書類が汚れる!」
「いいじゃないですか、別に」
「馬鹿いうな!手当が先だろう」

とご機嫌斜めな愛らしい猫に溜息をついて、スティーブンは救急箱を取り出した。
アスカを宥めながらソファに座らせるとスティーブンも同じソファに腰かけ、救急箱から消毒液とガーゼを取り出した。

「どこで怪我してきたんだ。」
「転んだんです」
「嘘つけ」

と口を尖らせるアスカにスティーブンは消毒液つきのガーゼを傷口にあてた。
ひゃっと小さな悲鳴がアスカの口から零れた。

「またどこかで喧嘩でも買ってきたのかい」

アスカは首を横に振る。

「まさか――」
「暗殺業を再開したんです」

と仏頂面を下げたまま言ったアスカにスティーブンは唖然とし、頭を抱えた。
ただでさえ、ライブラ構成員はその命を狙われやすい、またアスカは血界の眷属にも存在を狙われやすい。
そんな人間がなぜわざわざ危険の中に足を突っ込むのか、スティーブンは理解できなかった。

「ライブラの給料は、歩合制だが君はそれなりに貰っているだろ?」

アスカの給料査定に色をつけたのは、誰でもないスティーブン本人だ。
スティーブンの言葉が面白くないのかアスカは口を尖らせたままそっぽを向いてしまうので、また消毒液つきのガーゼを傷口に押し当てた。

「―――っ。わたしの住んでいるアパート、ひどい地上げにあって家賃が数倍にあがったんです。」

だから副業を探して、もとしていた暗殺業を再開した、とアスカは言った。
それはとても危険なことだった。
アスカの能力は暗殺業に特化しているかもしれないが、それは諸刃の剣。
能力を使えば使うほど、アスカの命が危うくなる。

「お金が必要なら俺に言えばいいのに」
「それは嫌です」

とアスカは青い瞳を尖らせながらスティーブンを睨んだ。
アスカの意思は堅い。

「―――分かったよ。何か危ないことになったら必ず助けを呼ぶこと。俺を呼ぶこと」
「ええ」
「怪我をしたのなら、ブラッドベリ総合病院へ行くか、俺の所にくること」
「ええ」

スティーブンはアスカの傷口を一通り消毒するとガーゼを当てて包帯を巻き始めた。
あまり強く締めると怪我が痛むのでゆっくりと優しく、スティーブンはアスカに包帯を巻いていく。

「君が傷つくのを見たくない」

とはっきりとアスカにスティーブンは言ってやりたがったが、その言葉を喉の奥に飲み込んだ。
それは、このヘルサレムズ・ロットで生活している以上、アスカとスティーブンがライブラに属している以上、叶わない願いなのだとスティーブンは良く理解していたからだ。
だからせめて、アスカが怪我をした時くらいは、こうやって包帯を自分の手で巻いてやりたいと強く思う。
包帯を巻き終えるとアスカは、無言のまま白いふわふわのブランケットを首まで覆うとスティーブンの座る横で丸まって眠りだした。
その姿はまるで、自由気ままな黒猫だった。

「貴方の顔を見られて安心しました」

救急箱を片付けていると寝ていたはずのアスカが顔を隠しながら呟いた。
こんな可愛いことを言ってくれる日もあるものだとスティーブンは、嬉しくなってアスカの顔を覗き込むが、アスカはますますブランケットに顔を埋めて顔を隠してしまった。
スティーブンは、頬を緩ませながらアスカの黒い髪をひとしきり撫でると、手元にあった書類を手に取って仕事を再開させる。
時刻は深夜2時。
大あくびを浮かべるスティーブンがそのままソファの上で眠ってしまうのは、すぐのこと。
二人は同じソファの上で夜を共にした。









「ソファの上で君と眠る」 了
20171229



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