That's Life!!! エピローグ「陽の当たる場所へ」


秘密結社ライブラの新人歓迎会は主役が大遅刻するという波乱の幕開けこそしたが、歓迎会は滞りなく、ただの宴会に変わり果てていた。
普段、なかなか顔を合わさないメンバーも多く、宴会となれば構成員たちは思い思いに酒を酌み交わし、日ごろの苦労を労いつつ他愛も無い会話を飽きるまで繰り返す。
ライブラの副官、スティーブン・A・スターフェイズは他のメンバーと同じく、酒を煽りながら他愛も無い会話をしていた。
すると暗がりに隠れながらこそこそとする構成員の姿が目に入る。
その構成員は辺りをきょろきょろ見回しながら、誰も気づいてないと分かると会場のドアをそっと開け、出て行ってしまう。
スティーブンはその構成員の動きに呆気にとられて、退出した構成員の後を追った。
スティーブンが後に追われていることに気づいていないのか構成員は、軽快な足取りで廊下を歩いている。
宴会会場が入る建物から出るために、最後のドアに構成員が手をかけた時、スティーブンは後ろから回りこんで、足を挙げて構成員を遮った。

「どこいくのさ」

宴会会場からこそこそと退出しようとしていたのは、今日の催し会の主役であるアスカだった。
アスカはスティーブンに罰が悪そうな表情を浮かべると口を尖らせた。

「その脚ぐせの悪さ、どうにかした方がいいですよ」
「ああ、よく言われる。特に女の子にね」

口角をあげて笑うスティーブンにアスカは大きな溜息を吐いた。

「どうも、こういう賑やかな場所は苦手なんです」

と言うアスカは本気のようで、スティーブンは思わずドアを遮る足を下ろしてしまいそうになるが、心の中で厭々と首を横に振って思いとどまった。

「君、僕のこと避けてるでしょ」

図星だったのか、アスカの身体が一瞬たじろぐ。
その姿が面白くないスティーブンはますます意地が悪くなって、アスカを壁に追いやると逃げられないように上から見下ろした。

「僕はね、君のためにあの一件の後、凄く仕事をしたんだよ」

労ってよと言わんばかりにスティーブンは言った。
ぐぐぐとスティーブンはアスカに擦り寄る。

「それに、あの『続き』は、どうなったの?」

とスティーブンが言うと突然、アスカの顔から湯気でも出るのではないかというほどに紅潮した。
そのまま顔を覆ってふひゃふひゃと床にへたり込んでしまう。

「お、覚えてたんですかっー!」
「そりゃそうだよ。そのために頑張ってきたんだもの」

顔を真っ赤にさせながら動揺するアスカに対して、スティーブンは呆れたように言った。
へたり込んだままのアスカに目線を合わせるようにスティーブンも大きな体を折り曲げてしゃがみ込む。
アスカは心底恥ずかしがると顔を隠す癖がある。
スティーブンはその姿が堪らなく愛らしくて、口元を緩めながらアスカの顔を覆い隠す手を剥がした。
1ヶ月以上ぶりに触れるアスカの手はとても温かい。
スティーブンは嬉しそうにその小さな手と自分の手を絡ませる。

「で、その続きはいつするの?今晩?」

真っ赤なアスカの表情と彼女の潤んだ瞳がとても艶っぽくみせた。

「あれは、あの時、ああ言わないと―――」
「じゃあ、君は嘘をついたってこと?」
「―――嘘なんかついて――・・・」

スティーブンは思わずアスカの口を自身の唇で塞いだ。
小さな身体で一生懸命スティーブンに応えようとするアスカが嬉しくて、スティーブンはますますアスカを求めるように唇を交わす。
気がどうにかなりそうなのは彼も彼女も一緒で、無理やり唇を離すとアスカと目が合った。
衝動的にキスをしてしまったばかりに、アスカに顔を叩かれるなり、怒鳴られると思ったスティーブンだったが、健気なアスカの表情に自分の卑しい気持ちや動揺が気恥ずかしくなって、自身の顔を隠すようにスティーブンはアスカをぎゅっと抱きしめた。


***


歓迎会会場からアスカを連れ出して自宅へ連れてきたはいいものの、どうアスカを扱っていいか迷うスティーブンが居た。
スティーブンは渋い表情を浮かべながら洗面台の鏡に向かう。
普段の行為前の自分の振る舞いを思い起こせば思い起こすほど、動きがぎくしゃくとしてしまい、まるで自分は女の扱い方を忘れてしまったのか、と鏡越しの自身にスティーブンは問いかけた。
アスカの青い瞳に見つめられると余裕も何もかもふっとんで、まるで少年時代に戻ったように気持ちが舞い上がってしまいそうになる。
洗面台の鏡をじっと睨んでいると後ろからアスカが覗き込んでいた。
シャワーを浴び終えたアスカにとても色気を感じる。
そんなスティーブンの気などアスカは理解しておらず、喉を鳴らすように笑った。

「スティーブンさん今、とっても怖い顔していましたよ」
「うん、知ってる」
「疲れているんですかね」
「そうだと思うよ」

主に君に気を張って疲れているんだけれどね。
と言葉にしないで心の中でスティーブンは呟く。
アスカと初めて出会った日からずっとスティーブンは、アスカという女ばかりに、気を揉んできたことに気がついた。
出会ったばかりのアスカは、自身の能力の使い方もままならなければ、日常生活すら破綻していた。
放っておけば、自分の命すら簡単に諦めてしまいそうなアスカをスティーブンは近くでよく見てきた。
そんな命の量り方をするのは自分のような男だけでいいし、彼女のような透明無垢な存在はそんな考えとは遠縁でなくてならない。
そう思えば思うほどスティーブンは、アスカのことが気がかりになってしまってしょうがなかった。
それがすべての始まりだった。
スティーブンはアスカを自身の寝室のベッドに引き込むとアスカを後ろから抱きしめた。
血の通った温もりがそこにある。

「今から俺が君にすること、分かる?」
「わかります。約束ですからね」
「約束だからするの?」

思わず不安げな表情を浮かべるスティーブンにアスカは鼻歌を唄うように続けた。

「貴方だから約束したんです」

と言ってアスカはにっこりと笑う。
アスカの笑顔にスティーブンの今までのすべてが報われた気がした。
そしてその笑顔にスティーブンは願う。
彼女と彼女がこれから歩む未来が少しでも幸せなものになればいいと。
そして、そこに少しでも自分が関わる存在で居たいと。
それがスティーブン・A・スターフェイズのささやかな願いであり、彼が生まれて初めて願った自身の幸福だった。









END
20171217




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