空は碧く、深緑の草原は遠く遠くまで続き、白い綿帽子を作るように羊たちは歩む。
この草原はどこまで続くのだろう。
長く続く山脈は白い雲がかかり、雪化粧で頂上が覆われている。
この空はどこまで続くのだろう。
冷たい風に背中を押されて思わず、煤けた外套を深く羽織りなおす。
この風はどこまで吹き渡るのだろう。
深く被った麦藁帽子越しに覗く世界はとても眩い。
羊たちの先を歩む父が手を上げて―――を呼ぶ。
もう冬が近い。
冬支度を始める季節だ。



That's Life!!!


ブレングリード流血闘術
39式 血楔防壁陣

クラウスが放った幾重の十字架が血界の眷属の動きを封じる。

エスメラルダ式血凍道
絶対零度の槍

封じた隙を狙いスティーブンが上から攻撃を放つ、が甘い。
血界の眷属はひと払いで、それらをなぎ払うと、眷属の黒い影がつつつと地面を走り、二人を切り裂く。
足を止めてはだめだ。
スティーブンは悟る。
攻撃を止めてはだめだ。
クラウスは悟る。
止めたのなら殺される。
クラウスとスティーブンは血界の眷属を前に本能で悟り、背中が震え上がるのを必死で抑え込んだ。

「―――っふんっ!!」

32式 電速刺尖撃

クラウスの攻撃を血界の眷属は口角をあげて、受け構える。
ブレングリード流血闘術32式の攻撃を血界の眷属は全身で受け止めると瞬時に再生し、鋭い爪で眷属はクラウスの首元を狙う。

絶対零度の盾

眷属の攻撃を阻むようにスティーブンは、防ぎきる。
一見、均衡を保っているように見える戦闘も、少しずつ二人は圧され、時が過ぎれば過ぎるほど、彼らの死期が近づいていく。
血界の眷属を封じる手立てが無い牙狩りの戦闘は、自身らの命を削るだけ。
退けることしか出来ないというのに、なぜ、牙狩りは血界の眷属と戦うのだろうか。
病院で着替えた二人のシャツが血に染まっていく。
たとえ、血みどろになって地面に這いつくばることになろうとも、二人に退くという選択肢はない。
今も、昔も。
どうして、なぜ。
スティーブンは自問自答するが、答えは最初から己の中にずっとあった。
答えとは、彼らの目の前に助けを求める人が居るから、それだけだ。
時には一人、時には数十人、数百人、数千人。
助けを言葉にして求められなかったとしても、守る必要があると思うから『牙狩り』は、不滅の存在に抗おうとする。
感謝の言葉もいらなければ、労いの言葉もいらない。
金も必要なければ、名誉も必要ない。
人界を人知れず守るということは、そういうことだった。

――『助けて』って言っちゃうじゃないですか

と言いったアスカをスティーブンは思い出す。
彼女を心底守りたいと思った。
生れ落ち、ただ生きてきたアスカが『諸悪』であると、世界が位置づけるのであれば、スティーブンはそれを否定したいと思う。
その衝動や感情に理由などない。
眷属の影が走る。
鎌。
首狩り鎌によく似た眷族の爪がスティーブンの腹を切り裂く。
食いしばった口の中が鉄臭い。
ぽたぽたと地面に血の後を作りながら、スティーブンは攻撃を繰り出す。

「死ぬぞ。牙狩り。」

血界の眷属はにたりと笑う。
彼の手の中でアスカの心臓は静かに脈を打ち、溢れるように血を流していた。
影が走る。

エスメラルダ式血凍道―――

血界の眷属が間合いの中に飛び込む。
自身の懐中に飛び込まれ、スティーブンは怯んだ。
一瞬の隙。
血界の眷属が笑う。
彼にとって牙狩りの陳腐な命など興味はなかった。

「―――アスカ!!」

黒い影はスティーブンを飛び越え、電撃のようにアスカの元へ飛ぶ。
影はまるで炎のように燃えたぎりアスカの整った鼻筋、顎、首元、胸を撫でるようになぞっていった。
大切なものを愛でるようにアスカを撫であげていく。
望みを叶えるために、己を縛る鎖を解く鍵を取り戻すために、アリシア・ベンジャミンともう一度、巡り合うために。
そのために、膨大な魔力をもった器が必要だ。
血界の眷属にはアスカがどうしても必要だった。

「・・・わたしに触れていいのは、綺麗な手をした人だけよ」

アスカの青い硝子玉のような瞳が血界の眷属を睨む。
その視線は己の運命と宿命を真っ向から拒絶する眼差しだった。
人形が意思を持って主を否定しようとしている。
青い瞳に映る自身の姿に血界の眷属は可笑しくなり、腹を抱えて笑いこけた。
牙を露にして笑うその声は、世界の歪で聞こえる音に似ている。

「―――この俺に刺し違えてでも牙を向く気か。偽者。いいや血界の眷属!!!」

地面から無数の腕が生え、眷属の足を掴み、腕を掴み、首を掴み、髪を掴む。
その手は屍喰いの手だった。
彼らは死の底から這い上がる死者だった。
アスカの血界の眷属としての唯一の能力。

死者の行進

白衣を着たゾンビが血界の眷属の動きを封じ、彼の首に腕に足に食らいつく。
その数は数十。
しかし、屍喰いに捕らわれながらも血界の眷属は声をあげて笑った。

「はははは。お前がここで重ねてきた死体共か!」

黒い影はまるで炎のように燃え広がると、体に纏わりつく屍喰いを焼き殺し、一瞬にして払いのけた。
その姿は鬼や化物に違いないが、アスカは青い瞳を見開いて怖気づくことなく、鬼と対峙する。
血界の眷属が自身の望みによってアスカを求めるのであれば、アスカも同じように自身の望みのために彼と向かい合う。

「わたしの心臓を返して。」

その心臓はわたしのものだ。
アスカの青い瞳が赤く染まる。











第二十三話 「Where there's a will, there's a way.#1(決意あるところ道はあり)」
to be continued...







Grimoire .
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -