That's Life!!!





秘密結社ライブラ。
人ならざる者から人類を守り世界の均衡を保とうとする秘密結社のひとつ。
クラウス・V・ラインヘルツという男がリーダーをしており、どうやらアスカはそのメンバーの一員になったらしい。
らしい、というのはスティーブン・A・スターフェイズの私設部隊に属するため、クラウスの命令は聞く必要はなく、アスカの直属の上司は、自分を殺しに来た暗殺者のために雇用契約書を作成しているスティーブンという男だという。

「ね、君。親族とかいるのかい?」

アスカは首を横にふった。

「分かりません。大崩落以前の記憶がさだかじゃないんです。」

と言うとスティーブンの瞳が輝いたのをアスカは見落とさなかった。
スティーブンは口角を上げ、瞳を輝かせながら作成した資料を渡す。
即席で作った雇用契約書だ。

「これが君と僕との雇用契約書さ。読んでみて、納得したら下にサインをちょうだい。」

だめです、とアスカは契約書をつき返した。
思いも知らない拒否反応に瞳をまん丸にしてスティーブンは驚いて見せた。

「わたし、その、読めないんです。文字。あと、書けない」

NY大崩落の混乱の中、ヘムサレムズ・ロットには崩落前の記憶がないなんて人間は山ほど居る。
そのため記憶がないというアスカは、指して珍しくない。
また、文字の読み書きができなくてもヘルサレムズ・ロットでは、何不自由なく生活できてしまう。
だが、それを改めて口で人間に説明するとなると、アスカは少し恥ずかしくなってしまい俯いてみせた。

「契約書、僕が読み上げてもいいけど、騙しているかもよ?」
「騙しているようなら、わたしは貴方を殺します」

殺せなかったけれどね。
とスティーブンは鼻で笑って見せた。
アスカが見るにこのスティーブンという男は、先ほどからすこぶる上機嫌のようだ。

「まあいい。僕は君と仕事相手として契約を結びたいんだ。アンフェアなことはしないさ」

信頼関係ってのは、どんな仕事でも重要だからねと、喉を鳴らしながら言う。

「君の仕事は、僕の命令を忠実に遂行すること」

と言うとスティーブンは満足げに笑みを作ってみせる。

「今度は、僕たちのために殺しをやってよ」

この男の笑みには、いつも殺気や殺意がどこかに込められていて、隠すにも隠しきれていないように思えた。

「よろしくね。アスカ。」

暗殺者の日雇い労働者から正規雇用となっただけのこと。
親族もいないし、必要な教養すら危うい。
使い捨てのコマにするのに自分はピッタリなのだろうと、満面な笑みを浮かべるスティーブンを見つめながらアスカは思うのだった。


***


それがほんの数ヶ月前の話。
スティーブンから渡された携帯電話が鳴ったのに気づいて、アスカはパーカーのポケットから携帯電話を取り出し、受話器をとった。
電話の相手はアスカの予想どおりスティーブンだった。

「被疑者は予定通りアスカの方にいったよ。後はよろしく。」

被疑者と呼ばれる男は、つい数時間前までスティーブンと同属の男だったらしい。
ライブラを裏切り、情報を高値で売り捌いていたそうだ。

クラウスなら見逃すかもしれないけれど、僕は甘くない。

口角をあげて笑みを作ったスティーブンの顔を思い出す。
アスカはスティーブンとの電話を切ると、夜も深いはずなのに賑わい続ける街の雑踏を睨みつけた。
男が必死の形相でかけてくる。
被疑者だ。
余程、必死なのだろう。
雑踏の人ごみを腕でかけ割って無理やりにでも通ろうとしている。
アスカは一口大きく息を吸うと自身の左指に右手の爪を立てた。
指からうっすらと血が滲む。

「ねえ、お兄さん」

すれ違い様に左手で被疑者の腕を掴みながら呼び止める。
しかし、男はアスカの手を振り払って、必死の形相のまま走り去っていった。
それでいい。
アスカの能力を発揮するには充分だった。
致命的な毒。
それがアスカの能力だった。
雑踏をかけ割わる被疑者の身体が何かに躓くように、頭から地面に倒れこんだ。
あまりにも突然のことで雑踏の人ごみに大きな穴が空く。
少し離れたところからアスカは静かにその始終を眺めていた。
辺りは何が起きているか誰も気づいていない。

「触って、ごめんね」

倒れこんだ被疑者は絶命しているだろう。
アスカはくるりと被疑者に背を向けて、自身の血でぬれた左手をパーカーのポケットにつっこんだ。
辺りが騒ぎ出している。
ヘルサレムズ・ロットの街では死は日常茶飯事だ。
アスカはたとえ警察が動いたとしても足がつかない自信があった。
きっと警察は被疑者が毒物で死んだとも結論づけることはできないだろう。
携帯を取り出して再ダイヤルを押す。
電話の相手は自身の雇い主、スティーブンしかいない。

「もしもし。対象クリアしました。」

ご苦労様だとか、次も宜しくだとか、スティーブンは電話越しにいってくるのだが、アスカは上の空で電話を切った。
アスカが気になるのはただひとつ。
給料どおりの仕事ができたかどうか。
それだけ。

「お腹がすいた」

アスカの腹の虫が鳴いた。









第二話 「If you can't beat 'em, join 'em.(長いものには巻かれろ)」
to be continued...





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