That's Life!!! 幕間劇 #4「まごこを君に」


アスカは、着替えるために病室でぼろぼろの血みどろになったTシャツを脱いでいた。
左胸に大穴を開けられ、心臓を抜き取られたのに、彼女の身体は何事も無かったかのように傷一つ残っていない。
アスカは生きている。
左胸を空っぽにしたまま。
生きているとは何なのだろうか。
心臓が無くても動く人を生きていると言ってよいのかは、定かではないが、アスカの肌は青白く、まるで死人のようだった。
ぼおっと考え事をしながらアスカは真新しい白いTシャツに袖を通す。
すると病室のドアが開けられた。

「スティーブンさん」

Tシャツに頭を通しながらアスカは間抜けな声で入ってきたスティーブンに声をかける。
ずんずんとアスカの元へ歩み寄るとスティーブンは、無言のままアスカをベッド脇まで追いやった。
スティーブンの影にすっぽり入り込んでしまうほど小さいアスカは、スティーブンを見上げる。
見上げた彼の表情はとても硬く、赤い瞳はアスカを見下ろすが、視線はとても冷たく、少し怖さすら感じてしまうほどだった。

「どうしたんですか」

視線の冷たさに怯えながらもアスカは健気に声をかける。
アスカが見上げるスティーブンの瞳の奥は、今までに見たことないほど熱を帯びていた。
しかし、それと対照的に表情はとても強張っている。

「・・・怒っているんですか」

と恐る恐るアスカは口を開いたとき、それを噤むようにスティーブンはアスカの口を自身の口で塞いだ。
突然、重ねられた唇にアスカは驚いたように目を見開く。
慌ててそれから逃れようともがくが、ベッド脇で身体を抱きかかえられたうえに、頭をスティーブンの大きな手で抑えられて逃れることができなかった。
それどころか、ますます彼の唇は熱を帯びてアスカの中へ割って入る。
まるで唇に食らいつくかのようにスティーブンは深く深く唇を交わした。
アスカを抱きしめるスティーブンの体も、重ねる唇も、絡みつく舌も、アスカの冷たい体ではまるで強い酒のようで、アスカは思わず眩んでしまう。
ベッドがぎしりと鳴く。
スティーブンはアスカをベッドに乗せると唇をアスカの頬へ耳裏へ首筋へとのばす。

「ひっ・・・んっ・・・」

熱い熱い唇をあてがわれてアスカは思わず、彼の中で悶えてしまう。

「・・・スティーブン、さ、ん」

スティーブンは無言のまま。
スティーブンの右手がアスカの腹を撫でて、Tシャツの中へ、下から上へ手を入れて弄り始めた。
その手の動きにアスカは慌てたようにスティーブンから逃れようと首を厭々と振るのだが、それもまた唇を塞がれて抑え付けられた。
Tシャツの中に入れられた右手はアスカのスポーツブラジャーの下から忍び込み、微かな膨らみを作る左胸へ伸びた。
感触を確かめるようにアスカの左胸をスティーブンはさわさわと撫でる。
スティーブンに身体を撫でられるとアスカの身体の奥に、何者か分からないものが宿るような気がして、思わずたじろいでしまう。
この感覚が快楽だとか快感だというのなら、きっとそうだろう。
アスカは正常に働く微かな理性でそう思った。
と同時にこれでは駄目だと確信する。
アスカはスティーブンの唇から逃れようと必死にもがく。
どちらのものかも分からない淫らな糸が二人を繋いだ。

「―――スティーブンさん!」

アスカが声を張り上げた。
するとスティーブンはアスカの左胸に手を添えたまま、まるで母親に怒られた子どもように顔を彼女の胸中に埋めて表情を隠した。
ベッドに半身を預けながらアスカは、スティーブンに組み敷かれている。
その間もスティーブンは無言まま。
アスカは天井をぼうっと眺めると、自由になった手でスティーブンの頭をわさわさと撫でた。

「どうしたんですか。怖いものにでも追いかけられたんですか」

ほとんど襲われるように組み敷かれているのにも関わらず、アスカは自分の上に乗るスティーブンに優しく声をかける。
すると埋めていた顔を少しだけあげ、スティーブンはアスカを見つめた。
その瞳は彼の左頬の傷とは対照的に、ひどく揺れて怯えているようにも見えた。

「――アスカ」

初めてスティーブンが口を開く。

「君が壊れて居なくなってしまうかと思った」

スティーブンはアスカの左胸を優しく撫でた。
その手は慈愛に満ちていた。

「僕は君を傷つけて泣かせているばかりだ」

と言うとスティーブンは身を乗り出してアスカの首元に顔を埋め、アスカを抱きしめた。
強く、抱きしめた。

「なに馬鹿げたこといっているんですか」

アスカは溜息をつくと身体を起き上がらせた。
彼女が起き上がったことでスティーブンはずるずると下に垂れ下がり、仕舞には床に膝を着いてしまう。
それをアスカはベッドに腰掛けながら上からスティーブンを見下ろした。
そしてわさわさとスティーブンの頭をアスカは撫でる。

「いじけ虫にでもなっちゃったんですか」

と言うとアスカはからからと笑って見せた。
スティーブンの赤い瞳がアスカを見上げる。
視線が交わる。
アスカはとても穏やかな眼差しを浮かべてスティーブンの左頬の傷を撫でた。

「わたしは決めたんです。宿命から抗おうって。だから、わたしは大丈夫。」

部屋の隅で顔を埋めて震えていた自分を思い出す。
暗闇の中ですべてを諦めて身を委ねていた自分を思い出す。
自身の存在理由を確かめることなく過ごした日々を思い出す。

「貴方が居たからわたしは、足元を見るだけじゃなくて、前を向けたんです」

と言うとアスカは恥ずかしそうにしながらベッドから降りて、病室のドアへ手をかけた。
振り向きざまにアスカはスティーブンの名前を呼ぶ。
とても澄んだその声がスティーブンは堪らなく好きだなと感じた。

「研究所から戻ったら、続き、しましょ」

と言うとアスカはスティーブンを置いて病室を後にした。
ドアの摺りガラス越しに見えたアスカの姿はまるで恥ずかしがって小走りで逃げていく少女のようだった。
病室に残されたスティーブンは、アスカのベッドの上にうな垂れるように仰向けに寝転び、紅潮する顔を腕で隠した。









to be continued...




Grimoire .
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -