That's Life!!! 幕間劇 #1「黒猫の飼い方」



一匹の殺し屋を飼うことになった。
その殺し屋は、一見は普通の街で遊んでいるような生娘なのだけれど、会話をしてみるといろいろと破綻していることに気づく。
人格や生活が破綻している人間とは職業柄、付き合いはあるのだけれどその殺し屋は何かいろいろなものがかけているような気がした。
スティーブンは自分より小柄なアスカを眺めながらしみじみと考える。
ホットパンツにTシャツとパーカー。
足元はコンバースのハイカットスニーカー。
今は懐かしきこれぞニューヨーク街の生娘、という格好をしたその少女は、しがないヘルサレムズ・ロットの殺し屋をしていた。
こんな少女が殺し屋家業を名乗るなど、ヘルサレムズ・ロットも罪深い街だ。
スティーブンは年甲斐もなく、感慨深く思う。
待ち合わせに呼びつけた少女は、カップヌードル片手でやってきた。

「それ、何?」
「3分でご飯って、つくれるんです。」

まったく会話にならない。
ハンバーガーとハンバーガーで体ができているような男をスティーブンは知っているが、彼女の場合はカップヌードルとカップヌードルで身体が形成されているらしい。
詳しく話を聞くと文字が読めないうえに、金もあまりないのでついついカップヌードルばかり食べてしまうようだ。
食に拘りがないのかもしれない。
とはいえ、待ち合わせにカップヌードル片手にやって来る女をスティーブンは初めて見た。

「とりあえず、君に仕事をふるけれどやれるかい?」
「ええ。」

カップヌードルの麺を器用にフォークで巻き取り、頬張りながらアスカは頷いた。

「僕を殺そうして君を雇ったヤツを殺してほしいだ」

その言葉に麺を頬張る手が止まる。

「つまり、わたしの前の雇主を殺せってことですか」
「そうなるね。」

スティーブンは冷たく捨てるように言った。
秘密結社ライブラの『副官』を暗殺しようとした奴等の見え透いた甘い考えをスティーブンはとにかく踏み潰してやりたかった。
自身の雇った殺し屋に殺させる。
暇つぶしにはちょうどいい。

「前の雇主の情報をばらすのは暗殺家業としてはあまり宜しくないことではありますが・・・」

アスカはカップヌードルの麺を頬張りながら考えながら言う。

「わたしはその雇主を裏切って寝返っているわけで・・・」

この女、話しながらカップヌードルの汁まで飲み干した。

「――その仕事、嫌だといったらわたしが殺されるのでしょう?」
「まあね」
「なら、わたしに選択権をあたえないでくださいよ」

アスカは文字の読み書きができない割に言葉を良く知って、頭の回転も速い。
誰が主人かよく理解し、スティーブンがどんな男なのかよく理解しているようで、どちらを敵に回すべきか、本能で察知していた。
スティーブンの影にすっぽり納まってしまうほどの小柄なアスカは、スティーブンを見上げると口角をあげながら言った。

「まずは、防毒ガスマスク、準備して待っていてください」
「え?」

アスカの言葉の意味を理解するのに、スティーブンはそんなに時間はかからなかった。


***


標的クリア。
その連絡をアスカから受けてスティーブンは彼女の元へ向かった。
あれからアスカはスティーブンを殺そうとした元雇主の居るマフィアのアジトへ一人で乗り込んだのだ。
もちろん正面突破というわけではないのだが、少女とも思えるような年頃の子を一人で飛び込ませる訳にもいかず、スティーブンは自分も彼女と一緒に行ってやろうかと言うと、アスカは首を横に振り、呼ぶまで待っていろとアスカは言い残して乗り込んで行った。
カフェで数時間、時間を潰しているとアスカからスティーブンのスマートフォンに連絡が入った。
アジトへ向かうと鼻をつんざくような刺激臭が部屋に充満していた。
アスカが防毒マスクを準備させた理由が分かった。
彼女の能力は自身の血を自在に猛毒へ変質させる能力。
その能力は対象者を無差別であの世へ送ることもできるのだ。
スティーブンは慌てて防毒マスクをつけ、アスカを探す。

「アスカ!」

そこにアスカが居た。
足元には今回標的となっていたマフィアのボスが絶句したまま転がっている。
それは暗殺というより無差別テロに近いやり口だった。
ボス以外の輩も大勢で死んでいる。
スティーブンは呼んでも反応のないアスカの肩に手をかけると、アスカの身体がぐらりとゆれ、床へ倒れこんだ。

「おいおいおい!!!」

ばたりと倒れこんだアスカを見てスティーブンはすべてを理解した。

「君まで毒にやられているじゃないかっ!!!」

自身の毒にアスカは犯され、意識を手放している。
自分の能力で自身も死にそうなる馬鹿みたいな状況を前にしてスティーブンは唖然とした。
アスカを自身のジャケットにくるむとスティーブンは慌ててその場を走って後にした。


***


こんな馬鹿みたいな話があるものか。
自分の能力に殺される能力者が居ていいはずがない。
これではいくつ命があっても足りないじゃないか。
どうやって彼女がこの能力を使って今まで命を繋いでこられたのか、スティーブンには理解ができなかった。
アスカを病院へ放り込むと、そのまま病室に流された。
血液検査を見ると若干の毒性は見られるが安静にすれば問題はないらしい。
すやすやベッドで眠るアスカをスティーブンは溜息混じりに横で眺めた。
こちらの心労や苦労も露と知らず、彼女は夢の中。
アスカの毒という能力はとても強烈な能力だ。
使い方によってはいろいろな使い方ができる。
しかし、使い方をひとつ間違えれば簡単に町ひとつ壊滅させることができるだろう。
その場合は、能力を使った当事者はきっと死ぬ。

「まずは、力の使い方を教えるしかないか」

アスカの気持ちよさそうな寝顔を眺めながらスティーブンは呟くように言った。

「参った。」

とスティーブンは肩を落としてうな垂れた。
いい拾い物と思ったが、とんだ誤算だったのかもしれない。
面倒。
スティーブンの脳裏に浮かぶ二文字。
日々の激務に加えて、こんな危なっかしい能力者を抱えるなんてまっぴら御免だ。
今回は間違いだった、さっさと逃げよう。
スティーブンは決心したように椅子から立ち上がると病室のドアに手をかけた。

「カップヌードル、シーフード味としょうゆ味とカレー味・・・わたしはシーフード味が好きかな・・・」

寝ていたはずのアスカの声に思わずスティーブンは動きを止め、振り返る。
スティーブンの気持ちを知ってか知らぬか恍けた寝言をアスカは言った。
寝言を言いながらすやすや寝息をたてるアスカにスティーブンは溜息を吐いた。

「―――とりあえず、カップヌードル以外の飯、食わすか」

もともと猫背ぎみの背中をますます丸くさせながら、スティーブンはとぼとぼと椅子に座りなおし、アスカが目を覚ますのを静かに待つのだった。










to be continued...




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