堕罪
第六話 伊賀の里・下





これは薬師六丸の昔話。
まだ幼き頃の話。

「・・・六丸よ。」

六丸の母は呼ぶ。
病気がちの母も元は忍びだった。
父は居ない。
すでに戦で討死していた。
兄は居たが、兄の元服の儀のときに仲間に殺されてしまった。
六丸の家族は床にふせる母だけ。
しかし、食い物と金には六丸は困ったことはなった。
何日かに一度、里の代表達が何故だか分からぬ、食い物と金を六丸たちに授けに来たからだ。
深いことを考えず、六丸はそれを受け取り続けた。
横で母親の表情が曇っているのにもしらずに。

「母上。」

床に伏せる母親の死も近い。
六丸にも母親にもそれは痛いほど、分かっている。

「お前に黙っていたことがある。」
「・・・何んです?」
「お前には兄、厳丸の下に一人、姉が居るのだ。」
「母上、その話は昔から聴いております。まだ母上の腹の中に居た時に、流産なされてしまったのでしょう。」

いやと言うほど、六丸は母親から流産してしまった姉のことを聞かされていた。
死んだ兄のため、姉のために強くなれよと。
しかし母親は首を横に降った。

「六丸。よくおきき。お前の姉は生きておる。今もなお。」
「・・・母上?」
「流産した水子など我が薬師家にはおらん。生まれてまもなく、お前の姉を私は・・・・・・捨てたのだ。」

と言うと母親は声を上げて泣き始めた。
自分のしてしまったことを悔やんでいるのか、
それは六丸には分からない。

「母上、姉上はどこにおられるのですか、是非とも、この六丸はあいとう御座います。」

「六丸よ。」

皮膚しかない母親の手が六丸の頭を撫でた。
いつしか、六丸にも涙が浮かんでいた。

「お前の姉上は、霊山のふもと。神殿におる。」

六丸は思わず、息を飲んだ。
霊山のふもとの神殿に住まう女。
それが何を意味しているか分かっているから。

「霊山の鬼の生贄になったのだよ・・・・・・」

「・・・お前の姉上は姫なのだ。」

永遠に報われぬ女。
それが姫だ。
自分の身近な存在に姫がいたとは、六丸は夢にも思っていなかった。
そして同時に六丸はその自分の姉と会ってみたいと思った。
しかし、姫に合うのは容易なことではない。
ましては、元服前の子どもだとなおのこと。

「母上、六丸。姉上にあいとう御座います。」

母親の青白い顔が微笑んだ。

「ならば、六丸。強くなれ。この里一番に強くれば、神殿に仕える役職を貰える。強くなれば、姉にあえるぞ。」

六丸は涙を溜めながら笑った。
そして決意する。
この里の誰よりも強くなり、元服の儀を迎える、と。
兄上のように仲間に返り討ちにはされない、と。

「母上。必ずしや、この六丸。強くなって見せます。」

しかしそれから七年後、
六丸は元服の儀を向え、無事に元服を迎えたが、
里一番と認められたのは親友・四柳アスカであり、
神殿に仕えることも六丸は認められなかった。





   * * *






アスカの愛情は何のために存在し、誰に向けていたものだったのか。
今の彼女には分からなくなっていた。
目の前に居るひのえはアスカの知らない人間に変異し、
目の前にある現実も、紙芝居のように思えてならない。
他人とはこいうものなのだろうか。
現とは。

「お願いだから・・・アスカ・・・お願いだから・・・」

ひのえは声に出して泣き出す。
たった数歩の二人の距離がとても遠いように思えてならない。

「わたしにもう一度、夢をみさせて。」

輪廻。
めぐる魂。
肉体は死ねど、
魂は永年に螺旋上を回り続ける。
終わりの無い、尽きることの無い、
魂。

「もう一度、わたしに人生をやり直させて。」

ひのえの言っていることの意味がだんだんと明快になってゆく。
アスカの頭の中が整理されてゆくからでもあった。
土の臭いが鼻をつく。
血の臭いが鼻をつく。
臭い。
アスカはふと頭の遠くで思った。
ひのえがアスカの懐の中へ飛び込んできた。
硬直したままのアスカはただ、ひのえの身体を受け止めることしかできない。
いっぽ、脚を引くとひのえの身体がアスカの懐から離れてゆく。
それと同時にアスカが帯びていた小太刀がひのえによって抜かれていった。
月光に輝く小太刀。
アスカの頭の中では、すさまじい速さで事を理解しようと働くが、身体が追いつかない。
硬直したまま動かない。
ああ。
なんとかしなければ。
ひのえが小太刀をアスカにかざす。

「貴女の愛情はわたしを縛り付けていた・・・・・・」

ああ。
動け、身体よ。
ここで動かずして、
姫を守れるはずがないだろう。

「・・・でもね、アスカ。わたしも貴女を縛り付けていたのよ。」

小太刀の刃先はアスカに向くのではなく、
ひのえの胸に向く。

「貴女を離したくなかった。自由を知るアスカをわたしは離したくなかった。」

指先が冷たい。
どんどんと冷たくなってゆく。
アスカは自分の身体が自分の物と思えなくなっていた。
もはや、現も、己の身体さえ、自分のもでは無い。

「ずっと傍にいて、わたしに跪いて、わたしの言うことを聞いていて欲しかった。」

小太刀の刃先には毒が塗ってある。
忍びの道具には大抵、毒が塗ってあるはずだ。
殺し損ねたときのために。
猛毒が塗りこまれている。

「でもそれは、貴女を滅ぼしてしまう。アスカを殺してしまう。」
「・・・姫。小太刀をお返し下さい。」

やっとの思いで搾り出した言葉はこんなにも安易なもの。
もっと言うべきことがあっただろうに。
アスカは悔やむことしかできない。

「アスカ、アスカ、アスカ、アスカ、アスカ」

ひのえは泣く。
啼く。
まるで子が親を求めるように。
まるで小鳥が仲間を求めるように。

「貴女はあの里にはいてはいけない。伊賀の里は狂っている。」

小太刀の刃先は吸い込まれるようにひのえの胸を貫いた。
小さくひのえの口からは呻き声が零れる。
しかし、アスカは動けずにその一部始終を遠くで見つめることしかできない。
まるで眺めるように。
ひのえの綺麗な着物はみるみるうちに紅い鮮血により、変色してゆく。
鮮やかな紅が目に沁みる。
ひのえの小さな身体は地面に吸い込まれるように倒れていった。
そして這うように広がる紅。

「・・・・・・アスカ、・・・アスカ・・・・・・」

胸を刺されただけで人は、即死はできない。
その時のために刃先には毒が塗ってある。
ひのえの仄暗い瞳がこちらを向いた。
次第に毒はひのえの身体に回り、動きは弱くなる。
声も弱々しくなる。
彼女の死が目の前にあった。
でもアスカは動けない。
死に行く愛しき人を遠めで、眺めることことしかできない。
人はなんと、非情なる動物なのだろうか。
愛していたのに。
愛おしく思っていたのに。

「・・・・・・姫。何故。」

零れ出す言葉は情けないものばかり。
それでも回転の速い頭の中にはもはや、答えは出ていた。
もう、答えが。

「・・・・・・アスカ・・・・・・アスカ・・・」

アスカの名を呼びながらひのえは絶命していった。
月が昇る。
満月が。
地面に這うように広がる紅がこんなにも目に沁みるとは。
目に沁みてこの紅は離れることはないだろう。





   * * *





人間はしょせん、非道なるものであり、
非情であり、利己的なものである。
紅い
紅い
紅い
姫の紅。
目の前のすべてが現のものだと思えず、
すべてが紙芝居の絵に思えてならない。
これは、現実なものではない。
と誰かが言う。
私の愛はなんだったのか。
私の愛情はこんなにも儚きものだったのか。
姫の望みが今、叶った。
命を絶つこと。
それが彼女の望みだった。
望みが叶ったのだ。
すばらしき、こと。
私は血みどろになった姫の亡骸を抱かかえた。
こんなにも姫は重たかったのだろうか。
もはや、流す涙すらない。
私が姫を殺したのだから。
そう、
私が姫を殺したのだ。
姫を守ろうとした。
守れると思った。
しかし、結果がどうあれ、
私は頭が求めたとおり、姫を殺したのだ。
罪深き、
罪深き、
ああ。
それでも、
私は貴女が愛おしくてしょうがない。
静かに。
静かに私はひのえに唇を重ねた。
とても冷たい口付けだった。





   * * *





闇が深い森。
夜の森は死の森でしかない。
先ほど、六丸は里の上忍三人が斬られていたのを見届けた。
すべて小太刀により斬り裂かれていた。
アスカの仕業だ。
しかも本気で闘った跡。
六丸はすぐに察しがついた。
それは親友故か。
四柳アスカは昔から血の気が多い忍びであった。
つねに優秀であり、彼女の才能は秀でていた。
天才。
その名が相応しい。
親友であり、なによりも大切な仲間。
それゆえに愛おしいと思った瞬間が幾度となく、六丸を襲ったことか。
しかし、それと同時に憎悪も沸いていった。
この女さえ居なければ。
この女さえ忍びでなければ、
自分が里一番であり、
神殿に仕えることも出来ただろうに。
いっそうのこと、元服の儀のときに殺しあえたのなら、こんな感情も生まれなかっただろうに、と。
ましては今、
アスカは里の宝を連れて逃げている。
里の宝は六丸の宝でも合った。
なぜならば、
なぜならば、

「―――・・・姫!!!」

悲鳴にも似た声が六丸の口から零れた。
森の中に浮かび上がるそれ。
姫の骸。
ひのえの骸。
月光に照らされ、なんと美しいことか。
六丸はゆらゆらとその骸の隣で跪いた。
その瞳には涙が浮かんでいた。
浮かんだ涙は六丸の頬を流れてゆく。
無理も無い。
その骸は、
ひのえの骸は、
薬師六丸の姉の骸。
夢焦がれていた姉の骸。

「・・・姉上・・・―――」

六丸はひのえの骸を抱かかえたまま泣いた。
おいおいと、
長身であり、筋肉質である、鍛えられた体の持ち主とは思えないほど。
泣く。
ずっと会いたいと思っていた。
しかし、会えずに居た。
姉でありながらも、姫とはそのような存在だったから。
だから神殿に仕えたいと思った。
叶わない思いでもあった。
そして親友の手前、そのようなこと、口にも出せなかった。
六丸の目にひのえの胸に刺さる小太刀が映る。
見覚えのある小太刀だった。
仲間を切り裂いた小太刀。
血を浴び、月光を浴びて輝く小太刀。
親友、アスカの小太刀。

「・・・アスカ・・・」

涙で声が震えているのではない。
怒りで六丸の声が震えていた。
アイツは、
アイツは、
ぎしりと六丸の節々が鳴った。
そして六丸はひのえの身体から小太刀を引き抜く。
骸からは紅い血が溢れ出した。

「許さない。許すものか。殺してやる。殺す。殺す。アイツなど死ねばいい。生きていていいはずが無い。」

今の彼に取り憑くのは憎悪。
六丸は思う。
アスカはいつも、自分から奪ってゆく。
強さも、地位も、神殿に仕えることさえも。
そして、
姉上さえも。
アスカは奪い去っていった。
許せるはずがない。
もはや、姉上を殺した今。
アスカを許せるはずも無い。

「うぉおおおおおおおぉぉぉおおお!!!!」

彼は叫んだ。
憎しみを、憎しみを、憎しみを。
人は鬼になれる。
修羅の道は誰の下にもあるのだから。





   * * *





自分の背後で爆風が起きたのに気づいた時は、すでにアスカは森を抜けようとしたあたりだった。
爆煙が上がり、森が焼ける。
その辺りはひのえを殺した辺りだ、とアスカは確認する。
もはや、考えることはなにもない。
ただアスカは、走り逃げた。
地面を踏み外してアスカは倒れこむ。
起き上がる力すらもう残っていない。
ここで死ぬのか。
アスカは自分を悟る。
それもいい。
しかしアスカはきっと、ひのえと同じ場所にはゆけぬと思った。
アスカは人を殺しすぎている。
もはや自分は鬼と同じ。
死んで向う場所は修羅たちが集う場所。
地獄だろう。
と思うとアスカの意識はどんどんと遠のいていった。
死ぬのが近い。
早く、己の命よ、尽きよ。
誰かの足音が近づく。
敵かもしれない。
アスカは唯一、自由に動く瞳で辺りを見回した。
しかし、目が霞む。

「おい、お前。死ぬのか?」

子どもの声。
しかし、冷たい声。

「蘭丸君!何をしているの!?」

遠のく意識の中、アスカは耳を凝らす。

「濃姫様ー!ここに死にぞこないが・・・・・・―――」

アスカの意識がぱたりとそこで途絶える。
彼女が織田信長の妻、濃姫の姿を見たかは分からない。





   * * *





気がついた時、私は牢獄にいました。
どこぞの牢獄かは分かりません。
でも私は両腕を紐で固く結ばれ、自由の利かない身体でした。





 * * *





身体が異様に痛む。
アスカは牢獄の中で思った。
まだ自分は生きている。
まだ生き延びている。
生きるべき人ではないのに。

「お前が伊賀の忍びか。」

その声に心臓が強く脈打った。
そこに第六天魔王・織田信長が居るのだから。
その後ろにはその妻、濃姫が。
伊賀の里がもっとも敵視している相手がそこに居る。

「・・・織田、信長・・・」





   * * *





その時、私の心の中には憎しみしかありませんでした。
誰に対しての憎しみか。
己に対しての憎しみがありました。
姫を守れなかった憎しみ。
殺めてしまった憎しみ。
しかしそれ以上に、不可解な憎しみがあったのです。
理不尽なものでもあります。
その時の私は酷く、里を憎んでいたのです。
伊賀の里を酷く、憎んでおりました。
あの里さえなければ、姫は。
ひのえは死なずに済んだのだと。
私の理不尽な怒りと憎しみは里へと向ったのです。





   * * *





「信長様。」

アスカは口を開く。
彼が求めているものが分かったから。
今、アスカが信長の求めているものを差し出せば、生きながらえる。
生き続けることができる。
先ほどまで死ねばいいと思っていた人間には、考えられない思想がアスカに生まれていた。





   * * *





その日。
私は里を売りました。
敵対していた織田軍に伊賀の里の情報すべてを流したのです。
そして、
その代わりに、私は自分の命を守った。
私の力はその程度なのです。
自分の命しか守れない、その程度の力しかなかったのです。





   * * *





「貴女のお陰で我が軍は順調に進軍できるわ。伊賀攻めが楽になった。」

まだアスカは牢獄から出されていない。
しかし、そんな中、濃姫はアスカの元にやって来た。
そして声を掛ける。
山中で倒れたアスカを助けたのは濃姫だった。
見つめたのは蘭丸であったが、蘭丸はそのような野垂れ死にする相手を愛でるはずもなく、濃姫がアスカを助けるように命じたのだ。
しかし、その助けた相手が自ら自分の国を売るようなことをするとは、濃姫も思っていなかった。

「国を売ったのね。裏切り者。」

死んだような瞳を浮かべるアスカを見つめながら、濃姫は吐き捨てた。
アスカは今やただの裏切り者でしかない。
だが、ぼろぼろになったアスカを見る限り、自分の郷土でいい思いをしてきたとは思えなかった。
自分の生まれ故郷を恨むほど、アスカはひどい仕打ちを受けてきたに違いない。

「・・・・有難う御座います。」
「・・・?」

アスカは静かに口を開いた。

「何が?」

濃姫は素直に聞きなおす。

「貴女が私を救って下さった。それに・・・・・・」

猫の様な大きなアスカの瞳が濃姫を射抜く。

「信長公に私の命を取らぬように頼んだのは、濃姫様でございましょう?」

アスカの言ったとおり、
織田信長はアスカの密告を受けた後、アスカをすぐさま斬首しようとした。
しかし濃姫がそれを止めた。
慈悲というべきか。
とにかく、濃姫はアスカをこの場で殺してはいけないと思った。

「その通りよ。」

春とはいえ、牢獄はとても冷え込む。
アスカは悴んだ手を濃姫に差し出した。

「私の命はもはや伊賀の国にはこざいません。」
差し出されたアスカの手を濃姫は掴んだ。
なんと痛ましい子なのだろうか。
濃姫は胸が痛くて我慢ならなかった。

「・・・・・・私の命は」

濃姫はアスカこそ、この織田軍に必要な人材だと思う。
修羅の如く闘え、
そして何よりも主に忠実であり続けることのできる、この女が必要なのだ。

「私の命は織田信長様の物。私の命は、織田軍と共に。」





   * * *





私はもっとも愛した人を、
私の手で追い詰め、殺めてしまった。
罪深き私はそれだけでなく、
敵対していた織田軍に故郷の情報を売り、
主従をも結んだ。
咎められて当然のことを私はしてきたのです。
私によって伊賀の情報を得た織田軍は勢いづき、伊賀の里は簡単に落ちてゆきました。
里に居た忍びたちの過半数が死に、もう過半数は里を逃げ出しました。
しかし、織田信長の支配は生き延びた忍びをも探し出し、斬首の刑に処するように仕向けました。
伊賀の里は滅んだのです。
ほんの僅か生き延びた忍びを残して。
私が滅ぼしたようなもの。
憎い、憎い、里を私は滅ぼしたのです。





   * * *





アスカの三味線が鳴った。
俺は静かにアスカの話しを聴き続けた。
どれくらい、時間が経ったのだろうか。
分からない。
ただ、明かりをとっていた蝋燭が半分以上、減っていた。

「私は利己的主義者なのです。それ故、」

アスカの三味線の持つ手に力が入る。
三味線の弦がアスカの爪と肉の間に食い込むのが分かった。
溢れ出すように流れ出す紅。
流れ出した血がアスカの手を汚して言った。
しかし、それを俺はアスカの涙のように思えた。
アスカの瞳は涙を知らない。
もはや、涙は枯れてしまっている。
その涙の代わりに、指先から血を流しているのだと悟る。

「それ故、慶次様。」

アスカの猫の様な瞳がこちらを向いた。
大きく、瞳は揺れている。
ああ。
彼女はこんなにも弱い人間だったのか。
きっと本人ですら気づいていないだろう。
自分は弱い人間だったとは。
俺はアスカを抱きしめた。
自分の懐にしまうように。

「・・・・・・・私は愛しい人を自ら、殺めてしまった。」

俺の心も、
アスカの心も、
別のものを見続けている。
別の人を想い続けている。
しかし、
このような気持ちになれるのは、
きっと俺たちに似たような『痛み』があるからだろう。
アスカの手から三味線が軋んだ音を零しながら離れてゆく。

「・・・慶次様。」

俺の胸の中でアスカは呟く。
俺の中で。
彼女の声は泣いていた。

「私は貴方が嫌いです。」

それでいい。
アスカの言葉に納得する。
アンタは俺を嫌っていればいい。
きっと俺の存在がアンタの心を掻き回しているのだろう。

「俺もアンタが嫌いだ。」

アスカも俺の心を掻き回している。
それはお互い様だ。
互いの心を掻き回して、
互いの心の傷を穿り回している。
とんだ悪趣味だ。
そう想いつつも、
俺はアスカを離す気にならず、
俺は強くアスカを抱きしめた。
この弱々しい身体を。
まるでそれは自分の痛みを抱いているようだった。







続く

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