Grimoire
幕間劇 痛くて気持ちいいこと





足元で這い蹲って自らの生き血をすする吸血鬼・アスカにアーカードが口角を上げる。
どんなものよりも妖艶でどんなものよりも美しい女が、自分の足元で舌を出して、床を舐め取る姿はアーカードの気を高揚させる。
椅子に座りながらアーカードはアスカが床を舐める姿をただ見つめ、あざ笑った。
所詮、吸血鬼は吸血鬼なのだ。
それ以下もそれ以上も存在しない。
アスカの舌がアーカードの靴へ脹脛へと伸びてゆく。
彼女は一滴の血も逃すつもりは無いらしい。
ちろちろと伸びる舌はとても淫猥だ。
舌は上へ上へ伸びてゆく。
アスカの蒼い瞳がアーカードを見つめた。
その瞳はとても挑発的であり、自堕落的な行為をしているのにも関わらず、自尊心に満ちている瞳だった。
アーカードはアスカの細い首筋を掴み、締め付ける。
ぐぐぐと締める首。
アスカは身を後ろにそらし、喘ぐ。

「くっ・・・うっ・・・ああっ!」

そのアスカの喘ぎ声にアーカードは口角を上げる。
それは喘ぎながらもアスカはアーカードを睨み続けていたからだ。
なんて強い女なのだ。
アーカードは楽しくてしょうがない。
それは玩具を手に入れた子どもと同じ感情だった。
アスカの視界が反転する。
アーカードの背に天井が見える。
彼がアスカを床へ押し倒したのだ。
そして馬乗りになる。

「・・・アスカ。」

名を呼ぶアーカードの声色は優しい。
首を絞める。
身体を反らし、指先を足先を痙攣させる彼女はなんと美しいのだろう。
なんと綺麗なのだろう。

「・・・っ・・・あぐっ・・・あっ」
「お前は誰の物だ。」

アーカードは問う。
喘ぐばかりでアスカは答えない。

「お前の身体は誰の物だ。」

目を細めてアスカはアーカードを睨む。
アーカードは首を絞める手を緩めた。

「お前の唇は誰の物だ。」

紅く熟れた唇を指で撫でる。
艶やかなその唇から漏れる熱の篭った吐息。
睨みつけるアスカの眼差しとは正反対にアスカの身体はとても淫猥だ。
その身体を、瞳を、アスカをアーカードは上から見下ろした。

「・・・貴様の物ではないのは、確かだよ。アーカード。」

口角をあげてアスカは答える。
それでこそお前だ。
それでこそ何よりも気高く強いアスカだ。
くくくとアーカードは子どものようにはしゃいだ。
もう一度、アーカードはアスカの首を絞める。
ぐぐぐと締める。
アスカは喘ぐがアーカードは何一つ気にすることなく、アスカの手を持ち、近くにあったナイフでアスカの白い肌につきたてた。
紅く線が白い肌に引かれたと思ったらそこからゆっくりと血が流れ始める。
流れた血はみるみるうちにアスカの白い肌を紅く染めていった。
その血を見てアーカードはまた嬉しそうに笑う。

「・・・アあ、カあ・・・ド。」

血に染まる腕をアーカードは引き寄せると長くて赤い舌でそれを舐めた。
傷口からどくどくと溢れる血をアーカードは一滴も逃すまいと舐めるが、視線はアスカから離すことは無かった。
その姿はまるで自分が血を吸血していることをアスカに見せびらかせているようである。
アスカの胸が首を締め付けられ、腕を傷つけられ、そこから血を舐め取られているのにも関わらず、心と身体が高鳴ったのを知った。
血を舐めている。
吸血している。
血を。
アーカードは熱い吐息をアスカに吐き捨てた。
口元はアスカの血で紅い。
吐息も血の気で満ちていた。
アスカが堕ちた、とアーカードは思った。
彼女を締めていた手を緩めた。
するとアスカはゆらゆらと上半身を起こして、アーカードと向き合い視線を交わした。
アーカードは口角を上げる。
アスカは悔しそうな表情を浮かべ、下唇を噛み締めるが、まつ毛が影を作る瞳を閉じ、ちろちろと舌を出して、アーカードの口元にべったりとつけていた己の血を舐めた。
はあはあと熱い吐息を吐きながらアスカは舐める。
唇が重なり合うか合わないかをアスカは舐める。
アーカードの下唇を、上唇を、頬を舐める。
処女の様に初心な女を服従させる快感がアーカードを気持ちよくさせた。

「ああ、アスカ。」

一握り本気で握り締めてしまえば、壊れてしまいそうなほど弱い女。
そこまで弱くなってしまったお前。
アーカードはもう一度、アスカの首を持ってアスカを床へ倒した。
そして今度こそ覆いかぶさるようにして、唇を奪った。
簡単に奪えてしまった唇。
ふっくらとした唇を無理やりこじ開けて、舌でアスカの歯茎をなぞり奥歯を、喉を穿りまわす。
アスカの血を流し続ける腕の指先が、ひくひくと痙攣する。
その傷口に指を押し当てれば床に血の滴が落ちるほど、血液は流れていった。

「はあ、っあ・・・ううんっ・・・」

息絶え絶えにアスカはアーカードの唇の隙間から喘ぐ。
その二人の姿はまるで捕獲者と捕食者のよう。
暫くアーカードがアスカの口を穿り回していると、アスカが答えるように舌を絡め始めた。
そしてアスカの舌が味を占めたようにアーカードの口の中を穿り回す。
その行動にアーカードは口角を上げて喜び、彼女の思うままにさせてやった。
アスカはアーカードの中に残るアスカ自身の味に酔っていた。
唇が離れてゆく。
血か唾液か分からないものが糸のように伸びて、切れた。
床の上に淫らに倒れているアスカをアーカードは見下ろし、ただ眺めた。
アスカがにいっと笑った。
その笑みにアーカードの先ほどの高揚感が沈んでいく。
まるで玩具に飽きてしまった子供の様な気分だった。

「・・・お前の心は誰の物だ。」

アーカードは静かに問う。

「貴様の物ではないのは確かだよ。」

気が滅入ったような表情を浮かべるアーカードと反対に、満足げなアスカの表情。
アスカはアーカードの気に気づいているのか、腕を伸ばし、アーカードの唇を撫でた。
いつの間にか、傷ついた腕の血は止まり、元の白い肌に戻っていた。

「吸血鬼は群れるのを嫌う。」

蒼い瞳。
青い海のように蒼い瞳。

「私はインテグラルやセラスのようにお前の物にはならない。」

その瞳は血のように紅いアーカードと正反対の瞳だった。

「私は私の物だ。」








END

この小説は『夢の在処』へ投稿したものです。 Grimoire
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