TRI TAMARS





1999年10月某日、下校途中に行きつけの書店により、取り置きをお願いしている受付でVジャンプを受け取ったタカト。ゼロマルと太一の冒険を楽しんだあと、これからのデジモンアドベンチャーのネタバレを見て、新規カードに目を輝かせていた。その目に飛び込んできたのは、デジタルモンスターデザインコンテスト。きた、とタカトは思った。


「お、どーした、タカト。なんかいい情報載ってる?」


覗き込んでくるカード仲間にタカトはその紙面を見せた。


「デザインコンテストだって!入賞したらカードにしてもらえたり、アニメに出してもらえたりするんだって!」

「なっ、ま、まじかよ、どこどこ!?」

「僕たちが考えたデジモンが公式になるってこと!?すごいね!」

「みんなで応募しようよ!」

「さんせー!俺家にあるハガキ探してみる!」

「僕ももちろんやるよ!誰のデジモンが採用されるか競争だね!」

「うん!」

「あ、カードデザインは結果発表まで内緒にしようぜ!もちろん名前もな!」

「いーね、やる気出てきた!今日から頑張って考えないと!」

「締め切りはいつまでだ?」

「えーっと、12月まで?」

「うっわ、2か月しかねーじゃん!よーし、かっこいいデジモン作るぞー!」

「まずは被らないように今いるデジモン調べないとね」

「あ、そっか、そーだな。逆に進化先考えるってのもありだよな、たしか去年のコンテストの優勝デジモンってあのデジモンの進化先だろ?」


さんきゅー、タカト、とばんばん肩をたたかれ、みんなでがんばろうね、と2人に笑いかける。力強くうなずいた2人はカードショップに行くのを切り上げて、デジモンのデザインや設定を考えることにしたようだ。ちょっと早いお別れである。ばいばーい、と手を振り、タカトも松田ベーカリーの看板が目印の自宅に帰ったのだった。ただいまと言うなり階段を駆け上がっていくタカトに、おやつは?と珍しそうに聞いてくるお母さんの声。あとでー!とタカトは返し、ドアを閉めた。


「・・・・・・ギルモンってどんなデザインだっけ」


ずっとずっと待ちわびていたデジモンコンテストである。やっとデジモンテイマーズが始まる布石が目に前にフラグとして現れた。うれしくてたまらないが、タカトの表情はどこか焦りも浮かんでいた。デジモンテイマーズはアニメ監督のシナリオ構成の都合上、年表や設定までがっつり作ってあるため、いつなにが起こるのか予測することは簡単だった。問題はタカトがもっている知識は情報として口にするのは簡単だが、それを再現するだけの画力が致命的になかったことである。お絵かき教室とか図画工作とかがんばってみたけど、どうにもそういった才能はカードゲームをする才能と膨大な知識と11歳の少年の精神を並列させる才能に塗りつぶされてしまったらしい。どれだけがんばってもスプーレベルの画力しか身につかなかったのだ。これから2か月かけて書き上げるギルモンがタカトにとってかけがえのない相棒であり、大事な友達となることを願いながらタカトは11年もたってしまい、ぼんやりとしか思い出せなくなってしまった細部のデザインを思い出そうと必死で足掻いた。

アグモンの黄色、ブイモンの青、だからギルモンは赤色だったのは覚えている。恐竜みたいなデザインで、鬣があって、大きな鼻の穴があって、黒の模様があった気がする。爪は白色で、こう、足はわりとがっつりしてて、腹は白でタカトは炎を吐いているところをハガキいっぱいに描いていたはずだ。そして、そうそう、デジタルハザードの模様。核の施設に記されている、あのよくわからないけどかっこいいデザインのマーク。パソコンで調べようかと思いかけて、ちがう、あれはたしかクレヨンか色鉛筆あたりで書いてたはず、と思い返す。下書きの時点で納得がいかず、あーでもない、こーでもないといいながら書きなぐる。一日、一週間、一月、と経過するにつれて、だんだん似てはきたけども中国の遊園地に居そうなクオリティから抜け出せない。2人がとっくに第1弾をポストに投函して、数打ちゃ当たるの精神で書きなぐっているのを聞いて、タカトはますます焦る。もちろんタカトはギルモン以外書く気はなかった。うっかり別のデジモンに浮気してそっちを具現化されたらそっちが困る。

でもなんか違う、から抜け出せない。

そうこうしているうちに締め切り日が近づいてしまい、タカトはとうとう開き直った。ギルモン難しいなら幼年期を書けばいいんじゃないかと。だいたい成長期で結構な大きさであるギルモンは現実世界での生活も一苦労だし、デジモンはモンスターのスタンスなのがデジモンテイマーズである。頑張って育てるから幼年期からのほうが現実世界では向いてるんじゃないかと思ったのだ。そっちのほうがデジモン連れてるとばれて巻き込まれにくくなるかもしれないし。そのときのタカトには名案に思えた。ギギモンとジャリモンを正確に書けるのかといわれればNOだが、まだなんとなく面影がわかるくらいのクオリティは出せた。これで採用されなかったら盛大に何も始まらないので笑ってしまう。あとは野となれ山となれだ。

そして、ある日の夜。

渾身の作品が紛失してしまい、よかった、と思いながらタカトはもう1枚のはがきをポストに投函したのだった。

そして半年後、Vジャンを真っ先に購入したタカトはみんなで近くの広場で結果をみた。


「おおおおおっ!採用されてるー!」

「あ、俺のも!」

「僕のもあった!」

「あれ、タカト、幼年期かいたのか?」

「うん、成長期がなんかうまく書けなくて」

「それが逆によかったんじゃないかな、幼年期って意外と応募する人すくなかったとか」

「ねらい目か!なるほど、やるじゃんタカト


2人は順調に将来のパートナーをデザインして、入賞を勝ち取っていた。そして、ハンドルネームが公開されている中、テイマーズの主要キャラとおぼしき子供たちの入賞作品がたくさんならんでいる。この町の入賞者多すぎない?とちょっと思ったタカトだが、次のページにくぎ付けになる。


「えええええっ!?」

「うっわ、どうしたんだよ、タカト?!」

「なんか新情報でもあったの?」

「デジアド終わるんだって!」

「えっ」

「最終回ってこと?続編は?」

「ない。最終回。次はVテイマーがアニメ化だって!!」

「えっVテイマーが!?」

「太一とゼロアニメになんの?!こっちの太一って俺たちみたいな世界の人の設定だよな、たしか」

「そうだったはずだよ、たしかデジワーと一緒で」

「えええええっ!?うれしいけどまじか、まじでか、デジアド面白かったのに終わっちゃうのか・・・・・・」


うれしいけど、さみしい、が同居する二人よりも動揺が走ったのはタカトだった。2人はのんきに今回採用されたデジモンは太一たちの敵になるのか、味方になるのか、モブになるのか、という話題になる。もしくは発表されているゲームで登場する新しい育成枠だろうかとタカトは信じられないと何度も読み返すが、今月号の表紙はついにアニメ化、とカラーでキャラデザが公開されている現実。デジモン02が放映されないってどういうことだ。これからデジモンテイマーズの時間軸が始まるというのに!デジモン02の放映時期という裏設定があるのに!そしてはたと我に返る。・・・・・・もしかして、triに行く流れ?むしろ今の今までその可能性をみじんも考えていなかった自分が笑えて来るレベルの事実だ。よく考えてみたらこないだみんなで見に行った僕らのウォーゲームに京と遼さんいなかったじゃないか!いや遼さんはいたらおかしいからしれっと存在抹消されるかもしれないけど!

ってことは、もしかして、02のパートナーデジモンたちが敵になる可能性もあるってことだろうか。悪夢のような光景である。できることなら仲間にしたいと願いつつ、タカトはパートナーとの邂逅を待ちわびた。

数週間後、某会社から入賞の記念として新作デジヴァイスをが送られてくる。なんか知ってる入手方法じゃないけれど、タカトの知ってるデザインだ。そして同封されているジャリモンに目を丸くする。あれ?幼年期にあるまじきステータスと能力あるんだけどなんだこれ。そして添付されたデジモンの設定はタカトが申請したものだ。非力だけど自分より大きいやつに向かう性質があり、熱を帯びた泡で攻撃する。ギギモンからだと戦闘本能に目覚めてテイマーも手を焼く獰猛な面が顕著になるはずだからこっちのほうがいいと踏んだが正解だった。どうせ数時間で進化してしまうのだ、今のうちになつかせなくては。

うちにあるパンをありったけ用意して、タカトはさっそくカードをスキャンした。データを読み込んでデジモン化するからきっと幼年期の姿で顕現するはずだ。

デジタマが孵り、ジャリモンが現れる。警戒するようにこちらを見つめ、とたたたたーっと突撃してきた。よしよしと抱えあげ、じたじた暴れる体を抱っこする。あったかい。すんすんにおいをかぎ、こちらを見上げてくる。あー、という口にはびっしりと歯が生えている。噛みつかれたらやけどしそうだ。タカトはにおいにつられてるんだと気づいて、パンを差し出す。デジモンには肉とゲームではおなじみだけど、肉の味を覚えちゃったらめんどくさい予感しかしないから、パンを主食にしてしまおう。今のうちに刷り込むのだ。そのうちジャリモンは落ち着いてきたのかパンを食べたあと、うつらうつらしはじめる。そして寝てしまった。

その日から、タカトはジャリモンのうちになつかせてしまおうと、学校以外のすべてがジャリモン一色になった。なんだか他二人も似たような状況のようで、なかなか遊ぶ機会がこない。タカトはランドセルの中に入ってプリントを燃やしたがる(どうやらタカトが学校に行くのが嫌らしい)ので、結局専用のカバンに入れて持ち運ぶ羽目になった。耐熱性のアイテムの購入でお小遣いの貯蓄がとんでいく。

タカトー!」

かまえとばかりに突撃してくるジャリモンをなでくり、なでくりしながら、そのあったかい体を抱っこする。幼年期は弱い。でも、デジヴァイスの中にいる敵を倒せばたまに技を取得できることを知ったタカトは、だいぶ慣れてきたのを確認して、特訓を始めることにした。幼年期スタートだ、寿命はないみたいだけど進化には結構条件がいる。炎と格闘の経験値をためるのはなかなか難しい。しつけの項目が×で埋め尽くされ、甘やかすの項目に〇が乱舞するのだ。正規の進化は無理にしてもせめていうことを聞いてくれる関係を保ったまま進化させていきたい。もともとデジモンに甘すぎるほど甘くて、なにか要望すれば瞬時にかなえてしまうダメテイマーの鏡みたいなタカトを主人と認めているかはちょっと怪しいジャリモンである。


タカトー!」


学校から帰るとジャリモンはギギモンに進化していた。


「ジャリモン、ギギモンになった!タカトがいってたギギモンって今のギギモン??」

「うん、そうだよ、ギギモン!おめでとう!」


さあ、問題はここからだ。時間経過でジャリモンはギギモンに進化する。ここまでは確定路線。


「がんばって強くなろうね!」

「ギギモン勝ったらタカトうれしい?」

「うん、うれしいよ。ギギモンも勝つの好きでしょ?」

「ん、好き!」


抱っこしろと両足をくっつけてくるギギモンを抱っこする。ウィルスの本能で戦闘が好きだと判断したタカトは、もともとでれでれで甘やかしてきた。バトルで勝てば褒め、負ければ次は頑張ろうと抱っこし、いろんな要求にはすぐ答えた。なんでもかなえてくれる存在だと認識されてる気配がするが、もともとデジモンの育成方針はこんな感じだったので育成に失敗すればそれまでだ。幼年期スタートで技はできうる限り覚えさせ、手数を増やし、弱さはカードの強さというバックアップで補助してきた。おかげでデジモンカードを買ったり、強いカードをもとめて大会に出るための遠征費を稼いだりでお金がたまらない。いつの間にかギギモンというカードがデジヴァイスから吐き出されたのが気になる。もしかして進化経路ができるたびにカードが創造されるんだろうか。

さて、これからどうしようか。これ以上大きくなったら家じゃ飼えなくなる。やっぱりあの広場かなあと思いつつ、タカトは外に出ようと夕暮れの街を見る。


「特訓?」

「うーうん、今日はギギモンの攻撃見てみよう。ジャリモンよりおっきくなったから、できること、できないこと、変わってるかもしれないし」

「わかった!ギギモンがんばる!」

「うん、がんばれ!よーし、じゃあいこっか」

「ん!」


定位置のバックに飛び込み、ギギモンはちょっと顔だけ出す。今まではすっぽり入ると手足がないから登れなかったのだ。


目指すは近くの河川敷である。まさか、どっかの誰かさんがあのデジヴァイスで一般のカードをスキャンし、実体化した成長期のデジモンを倒すはめになるとは思いもしないのだ。





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