5年B組パソオタ先生
ああ、なんて素晴らしい!ジュンは歓喜に沸いた。
1999年のお台場霧事件の電波障害により三日間大惨事となった東京は、その復興の過程で大きな方向転換をすることになる。具体的にはデジタルワールドと現実世界が共に動き出す第一歩となるような流れが加速した。まずは電波障害に対する厳罰化が進み、電波障害に対する対策を講じたライフラインが整備され、公共設備を中心にその設備を行った場合、補助金が下りることになった。あるいは大きな補修工事が行われることになった。
ジュンが教鞭を執るお台場小学校もまたその1つである。新たに設定された避難所としての機能を果たすため、優先的に補修工事が行われ、補助金も下りたことで設備がどんどん導入された。その補助金によってデジタル教育に力を入れ始めたお台場小学校は文部科学省から先駆的な教育を許される数年単位の授業の導入を許可された。その1つがD−ターミナル、東京を中心に張り巡らされたネットワークを通じて、小学校単位ではあるがメールなどの簡易な機能が自由にできる小さなパソコンが支給された。東京にあるいくつかの学校が特待校となり、そのD−ターミナルを活用した授業の成果を発表し合うような形になっていた。やがてそれは次世代のデジタルを活用する提案という形で全国の子供達が発表し合うもくろみがある。お台場小学校としてその指定校になるために全力投球してきたジュンは、いよいよこれからだ、となおさら気合いを入れるのだ。
もともと原作がおかしいのだ。D−ターミナルが支給されてるのに、パソコン部があんな弱小部でいいわけがない。もっともっと活用すべきなのだ。選ばれし子供だって16進法で生まれ続けているのだ。2002年現在、世界中で1000人近くの子供達がデジモンと出会い、世界を救っている。大輔たちは日本における事件を担当したのだ。ほかの子供達だってそうだ。デジタルワールドが現実世界におけるデジタルモンスターの関わる事件などを削除しまくるのはまだ時代が早いから仕方ないにしても、選ばれし子供達のコミュニティネットワークはどんどこ広げるべきなのだ。光子郎とアメリカの大学に在住している小学生が運営しているSNSだけじゃもったいなさ過ぎる。なら、その土台を作ってしまえばいい。ジュンは腕が鳴るわあと笑った。
ジュンはデジタルワールドの信頼を勝ち得て、やりたいことがあるのだ。まずはいろいろとサポートに回らなければならない。
「え、いいんですか!?」
「むしろ渡りに船よ、ありがとね、泉君。だいたいおかしいとは思ってたのよ。デジタルフロンティアっていってるわりに授業でしか活用できてないんだからいただけないわ。そろそろ動こうと思ってたのよ」
「じゃあ、顧問、やってくださるんですね、ありがとうございます!」
「もちろん。でもま、まずはサークルから始めましょう。ルールはきちんと守らないとね。パソコン室を使うんだからちゃんとやってないと先生達もOKなかなか出してくれないと思うしね」
「は、はい!」
「授業でみんなに告知して回るからね、しっかりやってね部長さん」
「がんばります!」
クラブの作成届をもって職員室を去って行った光子郎を見届けて、ジュンは笑った。
そしてお台場デジタルクラブはそれなりの規模となった。
「あら?」
ジュンのパソコンに見知らぬメールが届いた。デジタル部に対する依頼だ。いつだって窓口は顧問であるジュンの役目である。ざっと目を通したジュンはデジタルワールドからの接触だと気づく。さすがに他に人にばれたら困る。認可されているUSBにつなぎ、転送、そして削除。そしてその送り主に、次回からは私物であるパソコンに送ってくれと返信する。相手は快諾してくれた。デジタルワールドには気づかないふりをして、デジタル部の活動に感銘を受けた民間の人に対する反応をする。D−ターミナルを活用したネットワークに関するものだ。
時々、デジタル部はこういったものを行っているのだ。ジュンが選別し、適していると思ったものを部員達に投げる。ジュンはこの案件を世代交代した部長である京に提案することにした。
「はいはーい、どうしたの、ジュンちゃん先生」
「本宮先生でしょ、井之上さん」
「えー」
「えーじゃないの」
「はーい、わかりましたー」
今度はどんな面白いことをさせてもらえるのかと、京は目を輝かせている。ジュンが外部からの依頼だと簡単にまとめたレジュメを渡す。予想通り京は食いついた。
「みんなでグループつくって、最後にプレゼンで優勝したものを提案することにしようかと思ってるのよ。今のみんななら、それくらいの気概でやった方がいい気がするしね」
「ほんとですか?」
「もちろん」
「よーし、これは善は急げね。部員のみんなに説明してきまーす!」
「はいはい、お願いね」
ジュンは部員達のレジュメなど準備するものがまだたくさんあるのだ。ジュンに先にいろいろ動いてもらえるのはありがたい。
「大輔いります?」
「今日来てる?」
「いたらつれてきますね」
「幽霊部員だしね、期待はしてないわ」
「もー、本宮先生の弟ならデジタル部に入るのが筋でしょーに」
「まあまあ、こう言うのは自主的にやるもんで強制するようなものじゃないでしょ」
「本宮先生やさしすぎー。私も本宮先生もいるから、そこらへんの小学生よりできるくせに、サッカーばっか」
「男の子だしねえ」
「でも泉先輩はデジタル部作ったじゃないですか」
「泉君はもともと好きだったしねえ」
納得いかない、という様子でジュンはむくれたまま、職員室をさっていく。今日はサッカー部は休みの日だから大輔はさっさと遊びにいっているか、グラウンドで遊んでいるかのどちらかだ。これは無理矢理つれてこられるな、かわいそうにとジュンは苦笑いした。ジュンがこうして教鞭を執っているせいか、大輔はなにかとパソコンに詳しいと勘違いされる。あながち間違ってないから困りものだ。本人はサッカーみたいに外で遊ぶ方が好きなのだから。おれ、ねーちゃんじゃねえっての、と愚痴っているのは申し訳ない気がする。でも、いずれデジタルワールドに選ばれし子供として選ばれることになるのだ。こういった方面に詳しいことは得はあっても損はない。
さていきますか、とジュンは席を立つ。そしてコンクールは京たちのチームの提案したものが優勝し、依頼人に提案された。そして高評価を得ることになる。そして、そのお礼として依頼人が来るからみんな集まるように、という口実の元、京たちだけ呼び出したジュンはデジタルゲートが開かれるのを見届けた。
「本宮先生、お願いがあります。僕たちがデジタルワールドに言っている間、こっちでサポートしてくれませんか?」
「ええ、いいわよ。大事な生徒なんだもの、しっかり見守っててあげるわ。だから教えてくれる?デジタルワールドってなんなのか」
「はい」
いずれデジタルワールドの研究者として第一人者となる泉光子郎と親交を深めるのは、当然の流れなのだ。
「本宮先生にはパートナーっていないのかな?」
「やっぱ大人だからだめなのかな?」
「さあ?私は君たちしかしらないから、なんともいえないわね」
「姉ちゃんにもいたらいいのにな」
「姉ちゃんじゃなくて先生でしょ、大輔」
「だってここ、学校じゃねーもん」
「もう」
「せっかく姉ちゃんと共通点ができたのにさ、つまんねえ。姉ちゃんにもパートナーいたら、一緒に戦えるのにな」
「ジュンにパートナーかー、オレと一緒でブイモンかな?」
「はいはーい、もっと頭が良さそうなデジモンだと思いまーす」
「機械型デジモンみたいな?」
「あ、ありそう」
「ばりばりのビジネスウーマンとパートナーの機械型デジモン!うーん、いいなあ!」
たしかにマシーン型デジモンは大好きだけどね、とジュンは心の中でつぶやいた。
「うわ、敵だ!」
「姉ちゃん下がって!」
「ああもう、ダークタワー一掃したから本宮先生連れてきたのにー!邪魔しないでよ!」
「そうですよ、先生にどんな世界か教えて回ってるんですから!」
いつになくやる気満々の子供達のやる気に感化される形で、いつになく強化されたアーマー体に一網打尽にされたデジモン達はあっという間にやられてしまったのだった。
「すごいわねえ」
いつだってディスプレイ越しだった弟たちの活躍に、参戦できないことがちょっとだけ悔しいジュンだった。
「みんなお疲れ様」
「姉ちゃん大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫、元気元気。ほら、この通りよ、ありがとね」
ほっとしたように大輔は笑う。やっぱり移動は徒歩じゃなくてデジモンに乗った方がいいかもしれない。そう思ったらしく、ライドラモンに乗ってくれと言われる。今度はどこに行こうか、と京たちは相談しているようだ。こうやって、こう、と初めてデジモンに乗って空を飛ぶ姉のために説明に懸命な大輔にジュンは笑いながら聞き入っていた。どうやら最近カイザーの魔の手から救ったデジモン達の集落があるらしい。そろそろ平和になったから来てほしいと、光子郎が作っている選ばれし子供のネットワークにメールがあったとのこと。これはいかなくては。みんながいざデジモンに乗り込み、飛び立とうとしたときである。
「なんだ?」
「どうしたんだよ、ライドラモン」
「うん?いや、なんか違和感が」
「あ、やっぱアタシが乗ってるからかしら?大丈夫?」
「いや、そうじゃない。二人くらい乗せたってなんてことないさ。そうじゃなくて、もっとなにか、」
ライドラモンは後ろが気になるのかしっぽのあたりを気にしている。ジュンはふと後ろを見た。
「あれ、なんかいる?」
「ん?あ、ほんとだ。いつの間に」
そこには茶色い幼年期のデジモンがいつの間にか、我が物顔でジュンの側を陣取っている。なんだこいつ、と大輔は捕まえようとするが、意外とすばしっこい小さなトリみたいなデジモンは、身軽にちょこまか動き回りいやがって逃げてしまう。ただジュンの側を離れようとしない。
「姉ちゃん、俺達がいない間にこいつ拾った?」
「もー、なにいってるのよ、大輔。やめてよその目。私をなんだと思ってるの」
「クラモンを飼おうとしてた姉ちゃんにだけは言われたくねー」
「ちょっと、どこで聞いたのよその話」
「タケルから」
「えっ、僕いってないよ、大輔君」
「高石くん?」
「ちょ、ほんとにやめてよ、大輔君!」
「いってただろ、本宮先生ってクラゲ好きなのかって」
「あ、いや、その、あはは」
「あんとき、やたらクラゲ飼いたいっていってたの、そのせいかよ。姉ちゃん」
「高石くん、後で職員室に来なさい」
「・・・・・・はい、ごめんなさい」
「それはそれとしてよ、ほんとに知らないからね私。かわいいけど」
「連れて帰っちゃだめだからな。元の場所に返してきなさい」
「だから知らないって!」
結局、ジュンから離れようとしないピナモンをジュンは育てることになったのだった。
「あのね、ガーゴモン。いくら側に居られないからって、眷属の幼年期を派遣するのはどうかと思うわ。説明するの大変だったじゃない」