1999年大晦日から前日譚ははじまった。僕らのウォーゲームで倒したはずの敵の復活を感知したゲンナイさんに集められた子供たちは、すべてが巻き戻った世界であの夏と同じはじまりを迎える。違うのは、選ばれし子供たちに倒された記憶を保持したまま復活したため、迎撃の準備が整っていたデビモンにより、すでにファイル島は支配されていたということだ。幼年期に逆戻りしたデジモンたちと合流するまえに一網打尽にされ、亜空間に幽閉された。命からがら逃げ延びたアグモンは、太一が直前まで興じていたチャットで仲良くなっていた秋山遼という少年にSOSを出す。そして、冒険は始まった。


秋山遼シリーズと呼ばれるOVAシリーズは、ウォーゲームで倒した敵の復活により、一乗寺賢という新しいキャラクターを投入して行われた。太一たちとの交流も描かれ、一乗寺が新しいデジモンアドベンチャーシリーズの一角を担うことはファンの誰もが予想したことである。年齢はタケルや光と同じだったからだ。ただし、選ばれし子供ではない兄、治との不仲が度々描かれ、兄弟のすれ違いが影を落とす描写がある。しかもOVAシリーズの最新作では宿命の敵であるミレニアモンの戦いに巻き込まれた秋山遼が行方不明となり、帰りを待ちわびる太一や賢が描かれた。


そして、デジモンアドベンチャーシリーズ待望の続編が2000年4月公開が告知される。しかし、その始まりはファンが危惧していた通り、先代の選ばれし子供たちが行方不明という予告から始まる。お台場小学校が初めて舞台となった第一話は、1年前に太一の卒業をきっかけにサッカー部を辞めた光子郎がパソコン部の立ち上げを決意するところから始まった。規定の人数を集めないとダメだと生徒会から突き返され、部員集めに奔走した彼は、光やミミ、サッカー部の後輩である大輔に声をかける。無印を視聴していたファンは、本宮という名前で既に察しがついていた。お台場編のみの登場ながら、女の子版光子郎として太一のデジタルワールド帰還を手助けしたり、光とテイルモンの邂逅を援護したりする裏方の活躍が目立った本宮の弟であると。基本的に裏方に徹するジュンの家族の描写は少ない。しかし、サッカー部の彼らがジュンと会話する時には光と同級生の弟がいることはよく話題に上がっていたからだ。大輔は顔が広かった。実際、パソコン部の残りのメンバーはだいたい大輔が連れてきたようなものである。幼馴染の京と伊織は大輔の友達だったから。やがて、秋山遼の行方不明のあと、選ばれし子供たちの間でなんだかぎくしゃくしだすことが大輔目線で語られ、2002年4月、タケルが転校してくるところで1話が終わる。光を巡る三角関係を茶化す京の視点でパソコン部の活動は行われるが、あるメールを受信した光とタケルが急用を思い出したからと一緒に帰ってしまう。いよいよ二人の仲を疑う大輔はジュンに3年前の秘密について聞こうとするがいつまでたっても帰ってこない。さすがにおかしいと京の家に電話するがいないと帰ってくる。翌日、光とタケルが休みだと判明、事態は一気に動き出す。パソコン部に集った大輔たちはみんなに連絡を入れるが、帰っていないというのだ。そんな時、突然飛び込んできた新しいデザインのデジヴァイス。そして開かれるデジタルゲート。新たな冒険が幕を開けるのだ。


デジタルワールドは、デジモンカイザーという少年によって支配されていた。同じデザインのデジヴァイスを持っているために、デジモンカイザーの仲間だと勘違いされた大輔たちはレジスタンスのデジモン達に幽閉されてしまう。途方に暮れる彼らは、大輔のデジヴァイスが反応していることに気付く。その洞窟の奥で彼らは失われた遺跡を発見する。そこには、デジメンタルと呼ばれる封印された古の力を持つ種族の末裔が眠っていた。デジモンカイザーによって操られるデジモンたちにレジスタンスは壊滅状態となり、それを助けてくれたのはブイモンというデジモンだった。


大輔を誰かと間違える奇妙な挙動は目立つものの、ブイモンはずいぶんと強いデジモンだった。大輔のパートナーであると言い張るが、それにしては戦闘慣れしている。初心者である大輔たちにデジタルワールドのことを教えるナビゲータ役が必要とはいえ、ずいぶんと頼りになる存在だった。仲間がいるという遺跡を目指し、ホークモン、アルマジモン、というパートナーを出会いながら、彼らはかつてファイル島と呼ばれていたこのエリアの奪還を目指すことになる。そしてレジスタンスと交流を深める中で知っていくのだ。3000年ほど前に選ばれし子供と呼ばれる人間とパートナーとなるデジモンがいて、世界を救ってくれたこと。彼らが成し遂げたこと。それを今、大輔たちがすべきことなのだと。様々なデジメンタルを入手していく中で、大輔たちはファイル島の奪還に成功する。はじまりの街を隔離する結界に入ることができた大輔たちは、ようやくゲンナイと接触。そこで驚愕の真実をすることになる。


「どうなっちゃうんだろ、気になるなあ」


タカトは次回に続くと表示されたテレビを前に、ため息をついた。デジモンアドベンチャーだと、大人も楽しめる冒険ものという感じだった。02はデジモンと子供たちの関係が結構クローズアップされる、ちょっとテイストが変わった冒険ものという感じだ。時間帯が子供たち向けから中高生向けに変更になったこと、監督が変わったこともあるのだろう。デジモンアドベンチャーはすでに完結している、と監督は明言している。デジモンアドベンチャー02はパラレルワールドのひとつであり、あるかもしれない未来のひとつと明言されている。実際、OVAの設定を盛り込んだために、デジモンアドベンチャーとの矛盾がちらほらあり、監督も明言を避けている。ミレニアモンという時間を操るデジモンの存在がこの2つの作品の関係の謎を呼んでいた。


「ブイモンが遼たちと知りあいだったなんてすごいなあ」


今度の休みはもう一回1話から確認しなくちゃ。ブイモンの意味深な発言はネットでも結構話題になっていた。タカトも気になっていた。今回、秋山遼が最後の冒険で連れていたパートナーのデジモンに進化できることが判明したため、問い詰められたブイモンはみんなと知りあいだと告白したのだ。言えなかったのは、信じたくなかったから。デジモンカイザーが同じ選ばれし子供である一乗寺賢であり、彼は秋山遼を救うためにミレニアモンを創ろうとしていることまで明かされた。


このタイミングで02のデジメンタルがカードゲームに投入された。それに伴い、アニメに登場していないアーマー進化も公開された。その中に、本宮ジュンにほれ込み、ヴァンデモン勢力から寝返ったことで実質パートナーとなっているガーゴモンがあったことがファンを驚かせた。ブイモンに光のデジメンタルを使うとガーゴモンに進化するのだ。大輔が光を好きなことと絡ませたネタかとネットでは騒がれた。問題は公開されたガーゴモンの設定が少々不吉だったことだ。選ばれし子供たちは賢と知りあいである。だから邪魔となる先代の子供たちや協力者が真っ先に狙われ囚われの身となっていることが明かされた。大輔はそのなかにジュンがいない、行方不明であると聞いてショックを受ける。今まで気丈に振る舞っていた大輔が初めて泣き崩れた回だった。ようやくジュンと大輔の関係が詳細に語られる回となった。なにかのフラグではないかとネットではもっぱらの噂である。


大輔や太一にあこがれてゴーグルをつけるタカトは、大輔たちに頑張れと応援メッセージを送ると賞品がもらえるという告知を目にしてハガキを捜す。いらないハガキの行方を両親から聞き出した。デジモン公式サイトでは定期的にオリジナルデジモンの募集を行っている。大賞に選ばれればアニメに登場するかもしれない。チラシにあーでもない、こーでもない、と必死でデザインを考える。ようやく出来上がったデザインを清書して、余っているハガキに何枚も何枚も書いてポストに投函した。当たりますよーに!ポストの前でお願いするタカトは、結果を待ちわびた。


学校帰り、タカトはどこかで見たことがある女性に足を止める。高校生くらいのお姉さんだ。フレームの無い眼鏡をしており、ふんわりとパーマがあたっている。学校用の革鞄にパソコンなどが入っている手提げを抱えている。じっと見つめているタカトに気付いたのか、彼女は困った顔をして、こんにちは、とあいさつした。


「ねえ、ここってどこかわかる?」

「ここですか?新宿です」

「新宿?!そ、そっか、そうよね。ありがとう」

「もしかして、道に迷いました?ボク、案内しますよ?」

「ほんとに?ありがとう。お台場高校に行きたいんだけど、あるかな?」

「え?」

「え?アタシ、変なこと言った?」

「い、いえ、なんでもないです。えっと、住所聞いてもいいですか?」

「そう?えっとね、たしか……東京都新宿区…」


お姉さんはきょとんとしているが、タカトは驚くしかない。だってそれはデジモンアドベンチャー02に出てくる高校の名前であって、この辺りにあるのは別の高校だ。もしかして、間違えてるのかな、と思った。ここらへんじゃない人で、デジモンが大好きで、ほんとにここらへんにその高校があると思っているとか。ありそうだ。だってお姉さんはあまりにも本宮ジュンさんと似すぎている。大輔の回想に出てきたジュンさんがテレビから飛び出してきたみたいな、そんな感じがする。成りきっているのかもしれない。タカトは何でもないですって言いながら、案内してあげることにした。


「ここです、その学校」

「・・・・・・ちょっと待って」


ジュンさんによく似たお姉さんは、パソコンを広げた。ネットで調べているみたいだ。


「ほんとだ。ありがとう、ここまで案内してくれて」


はあ、と大きくため息をついたお姉さんは、がっくりと肩を落とした。


「なんかお腹すいちゃった。どっかに美味しいお店ってない?」

「あ、それなら!」


デジモンアドベンチャーを知ってる人なら、足を止めてしまいそうな、ジュンさんにほんとうによく似たお姉さんである。うちのパン屋さんに来てくれたらちょっと嬉しい。タカトはパン屋に案内した。そっか、ここって君の家なんだね、とお姉さんは笑ってくれた。一緒に写真撮っていいですかってお願いしたら、きょとんとした顔で、いいわよ?と応じてくれた。デジカメもってるし使う?といってくれた。


「現像お願いしたら明日には出来るそうだから、ここに来てくれたら渡すよ」


それはビジネスホテルだった。やっぱりここまで来てるみたいだ。


「はい!」


お勧めのパンをいくつか買って、お姉さんは帰っていった。翌日、ビジネスホテルを尋ねたタカトはお姉さんに写真をわけてもらった。


「ありがとうございます!あ、そういえば、名前」

「そういえば自己紹介まだだったね、アタシとしたことが。アタシは本宮。本宮ジュンっていうの、よろしくね」

「え、ほんとにジュンさんっていうんですか?」

「それってどういうこと?」

「え?あ、いえ、なんでもないです!」

「へんなの。なら、見る?学生証だけど」


お姉さんが胸ポケットから差し出した学生証には、本宮ジュンと書いてある。それはお台場高校と書いてあり、高校の住所も昨日行った高校だ。よくできたアイテムだ。なんだか納得してないねってお姉さんは不思議そうに財布から保険証を取り出した。タカトに渡す。さすがに保険証に本宮ジュンと書いてあり、僕らのウォーゲームで明かされた夏付近の誕生日が記入され、先週明かされた血液型まで一致しているとなればタカトは、このお姉さんが本宮ジュンさんだと思うしかない。同姓同名の別人にしてはずいぶんと似すぎている。


「ほ、ほんとにジュンさんだった……!僕は松田タカトです!」

「ま、松田君?えっと、私のこと知ってるの?」

「タカトでいいです!」

「え、あ、うん、わかったわ。タカト君ね。よかったら、話を聞かせてくれないかな?」


わかりました、とうなずいたタカトは、いつも遊んでいる友達にデジモンのカードを持って家に来るよう電話する。そして、ジュンさんを家に案内する。タカトの部屋にはデジモンアドベンチャーシリーズで発売されたグッズやポスターが飾ってあるのだ。もちろんその中にはジュンがうつっているものもある。ガーゴモンのフィギュアもある。キャラソンだって収録されている。それを目にしたジュンさんは、だんだん顔を赤くしていた。恥ずかしそうだ。なにこれ、と震えるジュンさん。そして、やってくるタカトの友達。タカト達のやっているカードゲームを見せられたジュンさんは、いよいよ頭が痛くなってきたのか、座り込んでしまった。


「ねえ、ひとつ聞いてもいい?ほんとに、アニメでやってるの?」

「はい、大人気なんですよ!今度、映画もやるんだよね。02組の」

「どんな話なんだろーな、ウォレスってやつが出るらしいけど」

「そ、そうなんだ」

「このカードゲーム、流行ってるんだよね?」

「流行ってますよ、すっごく!」

「大会もやってるよなー。今はオメガモンとアポカリモンがすっごく強いんだっけ?」

「ディアボロモンじゃなかった?」

「うーん、アーマー進化もすっごく強いよね。マグナモンとダークタワーの組み合わせが進化を妨害しちゃうから」

「そ、そうなんだ」

「ほんとにジュンさん、大輔の姉ちゃんによく似てるけど、ほんとにそうなの?」

「アニメだとジュンさん行方不明だってゲンナイさん言ってたぜ?」

「………ねえ、よかったら、そのアニメ見せてもらってもいいかな?」


思い詰めた様子で問いかけるジュンさんに、タカト達はうなずくしかなかった。ビデオを借りてビジネスホテルに引き返したジュンさんが泣きはらした目で訪ねてきたのは、2日後のことだ。


ジュンさんは、どうしてここにいるんですか?」

「わからないのよ」

「わからない?」

「前後の記憶が飛んでるの」

「どれくらいですか?」

「賢君からプログラミングの件で質問があるってチャットのお誘いがあった時かな。交流があったのよ、賢君とは。世界大会レベルのパソコン部ってあんまりないからね、うちの高校によく顔を出してたし、選ばれし子供でもあったしね。それから先がいまいち思い出せないの」

「あの、ほら、あの時みたいにデジタルワールドにアクセスするってできないんですか?」

「何度もやってるんだけどね、ダメなの。やっぱり世界が違うからかしら」

「そうなんだ」

「ええ、そうなの」

「ガーゴモンは?」

「だめ、パソコンにあったプログラムがぜんぶ消去されちゃってるの。バックアップは部室と私の部屋にあるし、USBが見つからないから、どうしようもないわ。きっとガーゴモンも私のこと捜してると思うから、なんとか会いたいんだけど、どうしようもなくてね」

はあ、とため息をついたジュンさんに、タカト達は顔を見合わせた。

「僕たちで良かったら、力になりますよ!」

「え、ほんと?」

「とーぜん!だって大輔たちが可哀想だもんなあ!」

「そうだよね、このままだとジュンさんもカワイソウだよ」

「ありがとう、みんな」


ジュンさんは笑った。


やがて、タカトの送ったハガキが当選しました、という発表がアニメで告知される。そして、ほんの少し違うタカト達のデジモン達との日々は始まりを告げるのだ。
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