「もしもし」

「もしもし、ルキ?。アイリだけど」

「なによ、突然」

「ねえ、×月×日ってまだ空いてる?」

「なんで」

「ルキの誕生日でしょ?実はね、このあいだ言ってた、幕張メッセのイベントのチケット、抽選で当たったんだ。ルキ、この大会出たがってたでしょ?一緒に行かない?」

「なんでもっと早く電話くれなかったの、アイリのバカ。もう先約はいってるんだけど」

「あっちゃー、遅かったか。アタシも知ったのついさっきなんだもん、ごめんねー。申し込みしたのお兄ちゃんだったからさー、ビックリさせたくて内緒にしてたんだってー。いらないよね、そんなサプライズ」

「だめ、許さない」

「またまたそんな殺生な」

「優勝しなきゃ許さないんだからね」

「ふふん、当たり前でしょ。デジモンクイーンがいなきゃこっちのもんよ」


ルキはアタシのデッキ、メチャクチャメタるからね、やりにくいことこの上ないんだもん、とアイリは電話越しに笑った。メタるに決まってるじゃない、とルキは思う。アイリが使うデジモンデックは環境を制したトップを主軸にしたものしかないのだ。アニメシリーズが変わるごとに変化するルールや環境、新しく登場するデジモンカード。その看板デジモンはたいていとんでもない性能を誇っており、アイリは例にもれずそのカードを使う。勝って当たり前のデックしか使わない。アイリ曰く、勝つのが楽しいんじゃないという。資金に余裕があるお兄ちゃんからおこぼれに預かっているアイリは、高額レートで取引されているカードをいくつも所有しているトップランカーでもあった。勝利を求めるためなら効率を最優先するようなテイマーなのだ。デジモンといえば進化が醍醐味のゲームである。でも、新規のデジモンから究極体に進化してもカード能力が見合ってないせいで、進化させる意義が見いだせないと言い出した。そのうち、デジモンが進化すらしないデックを組むだろう。進化を阻害するダークエリアとそのフィールドを守る性能に長けたマグナモンデックから、厨性能をもつウィルス種のインペリアルドラモンデックに鞍替えしたばかりのアイリである。はやいとこ、メタデックを組まないと負け越しになってしまう。


でも、デジモンクイーンであるルキが認める数少ないアイリとのデジモンカード大会を蹴ってまで、優先したいものが今のルキにはあった。タカトからお花見をしようって誘われたのだ。結局、ルキのお母さんと仲良くさせたいタカトとゆかいな仲間たちの入れ知恵だったので、ルキのお誕生会はルキのお家でタカトたちに囲まれて、という形で終わった。パラサイモンに憑依されたロコモンが騒動起こすし、ルキはパラサイモンに操られてタカトにいろいろ迷惑かけるし、歌は聞かれるしで散々だった。幕張メッセにいけばよかったと後悔するのは別の話だ。


ネットで調べてみたら、幕張メッセで行われた最大規模のデジモンカード大会の結果がのっていた。小学生の部は、アイリは堂々の優勝を飾っていた。優勝者デックは公式サイトに一覧が掲載されるのが通例だ。ざっと目を通したルキは、半年ほど公式大会から遠ざかっていたブランクを感じる羽目になった。レナモンとルキの関係はずいぶんと良好になったし、ルキ自身いい方向に変化した期間ではあるけれど、こうしてライバルが活躍しているのを見るとやっぱり悔しいと思うのが世の常だ。久しぶりにカードバトルに復帰するのもありかもしれない。幸い、1年ほど行方不明になっていた元トップランカーが帰ってきたとネットの一部では話題になっていたから、刺激を受ける機会は事欠かないだろう。


久しぶりにゲームとしてのデジモンカードに触れることにしたルキは、アイリとデッキ調整も兼ねたカードバトルがしたくなって電話してみた。


「もしもし、アイリですけど」

「もしもし、ルキだけど」

「どうしたの?」

「サイトみた。優勝したんだ?」

「あ、見てくれたんだ?ありがとー。記念にブイドラモンもらったんだけどさ、ワンダースワンデータ消えやすいじゃない?どうしろっていうのよ、もう!」

「ならちょうだい」

「やーにきまってるでしょ!何言ってんの、ルキ」

「今、どこを拠点にしてるの?」

「そーねえ、あんま変わんないよ。お兄ちゃんたちに混ぜてもらってるから、大学のサークルとか、あそこのカードショップとか。今日、暇?」

「丁度、デッキ調整したとこ」

「ほうほう、そりゃ楽しみだね!いつものカードショップで待ってるよ、ルキ」

「言われなくても」


いつもの格好で、ルキは出掛けた。


「ねえ、ルキってさ、好きな子いるの?」

「な、なんでそんなこと聞くのよ」

「最近付き合いわるいし?」

「別にそんなんじゃない」

「嘘いうのはこの口かあー」

「ふぁみふんのよ、ひゃめなはい」

「あはは、ルキってさ、最近可愛くなったよね。女は秘密の数だけ美しくなるって誰かさんが言ってたし、もしかしてと思ったんだー。ねえねえ、教えてよ、デジモンクイーンのお眼鏡にかなったのって誰?」

「・・・・・・アイリは淀橋小学校だし、知ってると思う」

「うむ?確かにアタシは淀橋小だけど、え、もしかしてうちのクラスメイトなの!?」

「ああもう、うるさい。そうだって言ってるでしょ。わざわざ口に出さないで」

「協力しろってこと?おっけー、いいよ!まっかせなさい!」

「ばか、そこまで言ってない」


今度はルキが、真っ赤な顔してなにをまあ、とにやにやしているアイリを攻撃する番だった。で、だれだれ?と目を輝かせるアイリに、意中の男の子を初めて明かしたルキ。てんで共通点が見いだせないのか、ぽかんとしているアイリである。アイリはデジモンの出来事に一切かかわっていないから、知らないのは無理もない。でも、説明する気はないので、聞きたそうな話題はことごとく却下した。友達のトモダチに協力してもらうとか?と仲良しの男友達をあげられるが、ルキの知ってるラインナップしかない。ジェンはともかく他の二人は絶対にばらすからダメだと却下もした。そしたら、アイリが真顔で言ったのだ。


「いいよ、マジで協力してあげる。今度、勉強会しようよ、アタシの家で。その代り、松田君と李君、つれてきてね、絶対よ」


この時初めて、ルキはアイリの想い人がジェンだとしることになる。

数週間後、初めての三連休の日、ルキは一足早くアイリの家にやってきた。


「いらっしゃい、ルキちゃん。今日はがんばってね、私は買い物行ってくるから留守番ヨロシク」


にこにこしているおばさんに出迎えられてぎょっとするのは無理もない。


「な、何考えてるの、アイリ!」

「だって家族に内緒で男の子家にあげてるのバレたら、吹っ飛ばされるんだもん。ルキだって、松田君の印象が最悪になるっていやでしょ?だから事前にOKもらっただけだよ、あたりまえじゃん。アタシは今度男友達連れてくるからねって言っただけだよ。一緒に宿題する約束してるからって」

「お兄ちゃんはないてたけどねー」

「そんなんだから未だに彼女出来ないんだよ、お兄ちゃんは」

「あらあら。じゃ、そういうことだから、あとはよろしくね」


おばさんは買い物かごをぶら下げて、自転車にのって近くのスーパーに行ってしまった。


「どこまで言ったの?」

「どこまでって?」

「おばさんにどこまで説明したの?」

「え?アタシはジェンが好きだし、できれば付き合いたいって思ってるって。でもジェンはアタシのことなんて、ただのクラスメイトとしか思っていないし、なんとも思ってない感じでさ、だから協力してほしいのって」

「時々アイリのぶっとびぶりが羨ましくなるわ」

「結構ノリノリで協力してくれるんだよね、うちの家族。はい、お膳立てはしたよ。だから、あとは頑張ってね、ルキ」

「・・・・・・ありがと」


30分後、遠慮がちなチャイムの後、男子二人がやってきたのだった。ルキとアイリが出迎えると、ほんとにここが集合場所であってるのかなあ?って不安そうな顔をしていた男の子二人はほっとした反面びっくりした様子である。なんでそんな顔してるんだと聞いたルキに、二人は言う。


「まさかルキとアイリさんがトモダチだったなんて、びっくりしたよ」

「っていうか、アイリさん、デジモンやってたんだね」


ジェンとタカトの言葉に、今度はルキが驚く番だった。ルキがアイリと出会ったのはカードバトルができるフリースペースがあるショップである。ふらりと立ち寄ったその店で、なんとなくパックを買っていたら珍しい女の子テイマーが男の子たち相手に連続切りしていたから人だかりが出来ていたのだ。だからデジモンありきのトモダチである。てっきりタカトたちとデジモンつながりで友達なんだろうって思っていたから、ホントにただのクラスメイトという関係だったとしってなおのことびっくりなのだ。もしかして、アイリも意外とルキのように学校では猫かぶってるのかもしれない、といまっさらながらに気付いた。


「デジモンの大会位調べなさいよ。住所とか出てるでしょ」

「だってまさかアイリさんが出てるなんて思わないよ」

「うん、だって、うん」


あははとアイリは笑っている。リビングに案内したアイリは、タカト達からパンとか受け取って、奥にあるリビングでコップとか調達しに向かう。


「お母さん、今買い物出掛けてていないの。だから、ゆっくりしててね」


しばらくして、オレンジジュースとかパンとか並んだテーブルに宿題並べて、タカトたちはアイリを出迎えた。じとめなのはルキだ。タカト達から聞くアイリの印象はずいぶんと違ったようだ。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -