Jetzt ist es soweit






Jetzt ist es soweit




ジュンがかつて勤めていた会社では、デジタルワールド向けのシステムを開発するときは、新規のシステムを開発することはとても少ない。むしろ、すでにあるシステムを再構築して、能力や効率を上昇させるシステムにするプロジェクトがほとんどだった。このようなプロジェクトの場合、すでにあるシステムを調べる作業が必ず存在する。その会社で新米だったジュンが割り当てられていたのは、ほとんどその作業だった。なにせ、デジタルワールドのエージェントから依頼されるシステムは、そのほとんどがエージェントが生まれる前につくられたものばかりであり、どうしてこうなっているのか説明できない。エージェントが担当することになったときには、すでにそのシステムは存在していて、使い方は分かるが、どうやって動いているのかわからない状況なのだ。システム全体について知っている人がいないのだ。それなのに、そんなブラックボックスを丸投げされて、ランクアップしたシステムにしてくれ、なんて無茶苦茶な依頼など、悲しいことに日常茶飯事だった。だから、新しい選ばれし子供たちの前に出現した、のちにD-3とよばれることになる新規のデジヴァイスを前にしたとき、真っ先にジュンは言ったのだ。


「ちょっとD-3貸してくれる?大輔」

「えっ、なんでだよ」

「バカいわないの、ちょっとくらい待ちなさい。どういう機能が搭載されてるかわかんないのよ?そんなおっそろしいモンもたせて、大事な弟を特攻させる馬鹿がどこにいるのよ」

「姉ちゃん・・・・・・わかったよ。そのかわり、終わったらすぐ返してくれよな?変な改造しないでくれよ?」

「なによ、その目は」

「だって姉ちゃん、ほっといたらディーターミナルの時みたいに、勝手に何か仕込むからこえーんだよ」

「しっつれいねー、アタシはアンタを思ってやったげてるだけなのよ?感謝しなさいよね」

「やっぱオレも横で見てる」

「どうせほっといてもディーターミナルは魔改造されてたわよ。それが光子郎くんか、京ちゃんにかわるだけじゃないの」

「そ、それはそうだけど!だって姉ちゃんぜってー言わねえじゃん。大事なこといっつも教えてくれないから怖いんだよ!」

「聞かないアンタが悪いのよ」

「知らないのに聞きようがないだろ、姉ちゃんのバカやろー」

「わかんないなら聞けばいいのよ。大事なこと教えてくれないのはお互い様でしょ?」


にやにや笑いながら、ジュンはUSB端子で接続された大輔のD-3のプログラムを起動させ、ノートパソコンにコピーした。かつて膨大な数のシステムの調査をこなした経験だけは、今も生きている。やることはいつも同じだ。まずはシステムの機能はこうで、このように使われている、という調査をする。「だれが」「なんのために」「なにをする」システムなのか調べて、地図をつくる。プログラムの詳細を調べたり、データを整理したりはしない。それは必要に迫られた時にすればいい。ちなみに初期のデジヴァイスは、バージョンアップする人間の労力を度外視した、無茶苦茶なソースが特徴である。それを知っているジュンは、d-3のプログラム構造を見た時、ある違和感に気が付いた。必死でキーボードを叩いた。傍らにはルーズリーフとボールペン。データの構造を実際に書き起こしながら、翻訳に躍起になる。内部構造を解説してくれる文章が添付されていたことに動揺しつつ、作業を進める。プログラム全体がどういうつくりになっているのか、それぞれのアプリとどう連動しているのか眺めていたジュンは、ひたすらスクロールし続けた。構造がわかれば勝ったも同然だ。


「ねえ、大輔。これ、どうやってゲットしたか、もっかい教えてくれる?」

「え?えーっと、いきなりパソコンから飛び出してきたんだ」

「もうちょっと詳しく」

「パソコン室に突然デジタルゲートが現れて、太一先輩たちが来てたんだよ。そんで、みんなパソコン室に集まってて。太一先輩がデジタルワールドにいったっていうから、オレも助けに行きたいって言ってたら、いきなりパソコンから飛び出てきたんだ」

「これが?」

「おう。オレの手の中に飛び込んできたんだ」

「色はついてた?」

「もうこんな色してたぜ」

「ふうん、なるほど。ところで大輔、大輔と京ちゃん、伊織くん以外には、まだこれもってる子はいないのよね?」

「おう」

「なら、明日、アタシもお台場小学校に行くわ。太一君たちも来るんでしょ?どのみち、アンタのこれがないとデジタルワールドは行き来できないみたいだしみんな集まってからの方が早いかもね。大事な話をするから、居残りするんじゃないわよ」

「えっ、なんで今教えてくれないんだよ」

「だって、二度手間だもの。あ、そうそう、これ預かっとくわね。アンタのことだから、誰にも言わずにデジタルワールド突っ込んでいきそうだから」

「返してくれるっていったじゃねーか、返せよー!」

「だーめ。アタシのパソコンからデジタルゲート開こうとしたでしょ。ふざけんじゃないわよ、人の気も知らないで」

「だってブイモンが心配なんだよ。それに今日別れたデジモン達、怪我してたしさあ、やっぱ心配で。ガーゴモンなら手伝ってくれるかなって思ったのにー」

「バカねえ、ならなんでもっと早くアタシに言わないのよ、バカ大輔。今度連れて帰ってくればいいじゃないの。怪我したデジモン達、まとめてパソコンに突っ込んであげるわ。そーだ、明日はみんなまとめて連れてきなさいな。デジバンクの拡張も済んだし、京ちゃんや光子郎くんのパソコンも合わせればそれなりの避難所にはなるはずよ」



え、と目をまばたきした大輔は、しばらくジュンの言葉を理解するまで時間がかかった。大輔の前には、ジュンがゲームのコンクールに送るために組み上げているプログラムが展開している。でも、これ、といいかけた大輔に、ジュンは笑うのだ。やっと完成したのよ、感謝しなさいよねーって笑うのだ。時間差でぱっと顔が明るくなる。さんきゅー、ありがとな、姉ちゃん!とぐりぐりイガグリ頭をなでながら、ジュンはうなずいた。この笑顔がみたくて頑張ってきたようなものだ。京たちに知らせてくる、と早速ディーターミナルでメールをうちはじめた大輔を見送り、こっそりため息である。ジュンがパソコン部において作り上げてきたプログラムは、すべてこの日のためにあるといっても過言ではない。目のくまはようやくとれてくれるだろう。毎日、夜遅くまでパソコンに向き合っているジュンに気後れして、今まで言い出せなかった大輔には申し訳ないことをしてしまったが、これでチャラにしてほしいものだ。最後の仕上げを春休みにつぎ込んでようやく出来上がったデジファームもどき。デジタルワールドの支援もなしで組み上げるにはもうこれが限界だった。新たな選ばれし子供へのお祝いには、相応のものが必要なのだ。ましてそれが、最愛の弟ならなおさら。



次の日、遠路はるばるお台場小学校にやってきたジュンは、パソコン室に顔を出した。もう大体のメンバーはそろっている。大輔のD-3から抜き取られたプログラムは、ジュンが責任を持って光子郎とハーバード小学生の元に送信し、すでにすべてのプログラムが解析されている。これで安心して大輔をデジタルワールドに向かわせることができる。あとは危機意識を持たせるために、発破をかけるだけである。はい、かえすわ、と大輔にD-3を返す。何か変な機能ついかしてねーだろーなって大輔はつぶやくが、こづくだけで済ませてやった。勝手に一人でデジタルワールドに行こうとした件は、みんなからこっぴどく叱られたようで、反省しているようだから、今回ばかりは不問としよう。そのかわり、脅しをかけることにしたジュンである。みんなが聞く体勢になったのを見届けて、口をひらいた。


「とりあえず、聞いてくれる?デジモンカイザーって選ばれし子供よ。しかも光が丘テロ事件で選ばれた子みたいだから、太一君たちのこと知ってるかもしれない。だから、注意してね」


ぎょっとする子供たちを見渡して、ジュンはいうのだ。


「プログラムってのはね、大抵、変更箇所の履歴がどっかしらにあるのよ。調べてみたら、みつけたわ。大輔のデジヴァイスの初期プログラムは、太一くんのデジヴァイスと構造が全く同じなの。みんな知ってると思うけど、アタシの持ってるデータって、太一君の紋章データをダウンロードした状態のデジヴァイスよね。それと同じ構造をしてるってことは、大輔のデジヴァイスの原型は、紋章をダウンロードしたデジヴァイスを魔改造したものってことになるわけ。その紋章のデータを引っ張り出してみたんだけど、このカタチ、みたことある?」


ノートパソコンを向けてみるが、みんな首を振る。そりゃそうだ、優しさの紋章を知っている人間なんてここには誰もいやしない。


「紋章は持ち主しか扱えないし、それ自体、光が丘テロ事件の時に造られたものでしょ?ダークマスターズに襲われたゲンナイさんが、道中でいくつか失くしたって話だし、あとで本人のところに渡ったのかもしれないわ。とりあえず、どうやってカイザーがデジタルワールドに来たのかはっきりしたわね。そもそも招き入れたのはデジタルワールドなんだから、悪用されちゃどうしようもないわ」

「じゃあ、ゲンナイさんと連絡が取れない理由って、まさか」

「ゲンナイさんはカイザーの正体を知ってるってことか」

「私たちに知られたら困るってことね、だから邪魔してるんだわ」

「ダークタワーを建てたのも、オレたちが来るのを見越してってことか、くそっ」

「選ばれし子供ならじいさんの隠れ家のパスワードもアドレスも知ってるってことじゃねーか。大丈夫かな」

「大丈夫ですよ、きっと。D-3が何よりの証拠です」

「そうよ。それに、アーマー進化って、きっとゲンナイさんたちが付けてくれたものだもの」

「問題はそのD-3自体がカイザーの後追いでしかないってことね。3年前でさえ、デジタルゲートを自由に行き来するなんてプログラムをよこさなかったデジタルワールドが、太一君たちもならともかく、D-3にだけその機能を付けるとは思えないわ。そもそもD-3のソースコードはきれいすぎるのよ。ご丁寧に履歴まで残すなんてありえないもの。元がカイザーの初期デジヴァイスみたいだし、きっとオリジナルはカイザーが持ってるんだわ。気を付けた方がいいわよ、みんな。こんなプログラム作り上げられるなんて、天才どころの話じゃないわ」

「まじかよ」

「くそ、せめてゲンナイさんと連絡がとれたら!」

「オレたちは見守ることしかできないのか・・・・・・」

「なあ、光子郎。ジュンさん」

「どうしたんです?太一さん」

「なんか質問でも?」

「一度だけ、デジタルワールドに行けたんだ。大輔が勇気のデジメンタルをゲットして、ブイモンと出会った日だけ。それから、どんだけ頑張ってもゲートが開かないんだ。なんでだと思う?」

「ホメオスタシスが想定してた事態の収拾には、それで十分なはずだったのよ、きっと。残念ながら状況はもっと早いスピードで悪化の一途をたどってるけどね」

「僕の想像なんですが、太一さんがデジタルワールドにやってくること自体が、勇気のデジメンタルの出現条件だったんじゃないでしょうか。ジュンさんの言うとおり、D-3の見た目はきっとカイザーの持つデジヴァイスと同じはずです。もし、大輔君たちだけでデジタルワールドに迷い込んでしまうと、最悪、カイザーの仲間と間違われて、大変なことになってたと思いますよ。でも、僕たちがいれば話は別です。みんな、僕たちのことを選ばれし子供だと知ってる。だから、間違われることはまずない」

「それに、今のところ、対抗手段はアーマー進化だけなわけでしょ?もし先回りされて破壊されたり、エネルギーバンクにでもされたらたまったもんじゃないしね。それに、去年、紋章を四聖獣の復活に使ったから、もうどこにも紋章はないんでしょ?なら、勇気の紋章の性質をもつのは、世界でただ一人、太一君だけなわけだ。最高のセキュリティ・ギミックじゃないの」

「だからデジメンタルに勇気の紋章があったのか」

「心配しなくても、勇気の紋章は今も昔も太一くんだけのものよ。デジメンタルにあるのは、ただの目印。どうも「炎」の性質があるデジメンタルに、あとから勇気の紋章を付けただけっぽいのよねえ、ソースを読むかぎりでは」


どこかほっとした様子の太一に笑みをこぼして、ジュンはチビモンたちのところにむかった。


「まあ、難しい話はこの辺にしとくとして、そういえば挨拶がまだだったわね。はじめまして、アタシは本宮ジュンよ。そこの大輔はアタシの弟なの、よろしくね」

「オレ、チビモン!だいしゅけがいってた【ねーちゃん】ってジュンのことなのか!よろしくな!」

「ええ、よろしくね、チビモン。大輔のこと頼んだわよ。なんかあったら許さないからね」

「いわれなくたって大丈夫だい!大輔はオレのパートナーだからな、なにがあったって守るさ!」

「それならいいわ。いっとくけど大輔を泣かしていいのはアタシだけだからね」

「ちょ、ねーちゃん、それどういう意味だよ!」


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