16話

七つの大罪という言葉がある。

4世紀のエジプトの修道士エヴァグリオス・ポンティコスの著作に8つの「枢要罪」として現れたのが起源である。多少の変遷があり、7つに落ち着いた。厳しさの順序によると「暴食」、「色欲」、「強欲」、「嫉妬」、「憤怒」、「怠惰」、「傲慢」である。

現在のキリスト教でも言及されることがあるこの言葉は、デジタルワールドにおいて別の意味をもつのだ。ジュンももちろんその名を知っていた。セキュリティシステムの末端でなくても知っている。デジモンがパートナーとして現われる誰もが注意すべきデジモンの勢力として学校で習うからだ。

デジタルワールドには、悪魔・暗黒系のデジモン達の頂点に立つ七体の魔王型デジモンの総称であり、七つの大罪をモチーフにしている一大勢力があるのだ。その名は七大魔王。

数あるウィルス種の中でも最強の魔王型デジモン達を総称して呼ぶ。1体1体が他の魔王型デジモン達とは一線を画す力を誇っている。

数少ないロイヤルナイツと対抗できるデジモン達でもある。 ただしロイヤルナイツのように統制されていないうえに、七大魔王同士が協力することは有り得ない。

全員が『七つの大罪』を1つずつ司っている。

ロイヤルナイツ並に人気のあるデジモン達でもある。

メンツは以下の通りだ。


デーモン。司る大罪は憤怒。名前の由来は『デーモン(悪魔)』全七大魔王中、最も悪魔のような姿をしている。必殺技はフレイムインフェルノ、地獄の業火で敵を焼き尽くす。得意技はケイオスフレア。巨大な爆炎だ。

ダークウィルスという特殊能力があり、0と1の配列を操りデータを改ざんし、感情に影響を与えるウィルスを操る。

ベルゼブモン。三つ眼を持った人型の魔王。 司る大罪は暴食。名前の由来は『ベルゼブブ』 。群れることを嫌う孤高のデジモンでひたすらに強さを追い求める。バイク「ベヒーモス」と愛銃「ベレンヘーナ」を装備。 翼の生えたブラストモードが存在する。

必殺技はダブルインパクト。ベレンヘーナの弾丸で敵を吹き飛ばす。得意技はダーククロウ。鍛え抜かれた爪で敵を切り裂く。そしてカオスフレア 。ブラストモード時の必殺技。魔法陣を描き、そこからレーザーを放つ。

ルーチェモン フォールダウンモード
。一対の白い翼と黒い翼を計12枚持つ最高位堕天使型の魔王デジモン。 司る大罪は傲慢。名前の由来は『ルシフェル』

デジタルワールドにおける天使の階級は翼の数によって決まるがルーチェモンはその中での最高位に属する。 ちなみに次点は10枚のセラフィモン。進化前はワクチン種の天使型ルーチェモン。ルーチェモンフォールダウンモードは七大魔王唯一の完全体であるが、七大魔王中最強とも言われている。

さらに究極体のサタンモードも存在する。 この時は悪魔というよりは竜に近い姿をしている。

必殺技 はグランドクロス 。ルーチェモンの必殺技。10の属性を持つ十字型の波動を放つ。 威力はセラフィモンの必殺技「セブンヘブンズ」を超えるといわれている。得意技のデットオアアライブは光と闇の力で作った檻に対象を幽閉する。対象は50%の確率で即死し、もう50%の確率で大ダメージを受ける。パラダイスロストは高速のパンチで敵をなぎ倒し、上に蹴り上げ、上に回り込みあしを掴み抑えたまま落とす。


リリスモンは唯一の女性型魔王デジモンだ。司る大罪は色欲。名前の由来は『リリス』。妖艶な雰囲気を出していて、様々な悪魔デジモンをしもべにしている。

必殺技はファントムペイン。対象を腐食させデータを破壊する吐息を放つ。ナザルネイルという触れたものを腐食させる爪で攻撃する技ももつ。

リヴァイアモンはワニのような姿をした魔王型デジモン。 司る大罪は嫉妬。名前の由来は『リヴァイアサン』

デジタルワールドを飲み込むほどの顎を持つといわれ、竜帝エグザモンを除けば最もでかい。必殺技はロストルム 。巨大な顎で丸ごと飲み込む。


バルバモンは老人のような姿をした魔王デジモン。 司る大罪は強欲。名前の由来は『バルバトス』。でかい鼻が特徴的。魔法使いのような感じでもある。 必殺技はパンデモニウムロスト 。ダークエリアより召喚した闇のエネルギー波で対象を焼き払う。ベリアルヴァンデモンの「パンデモニウムフレイム」と同じ原理だが威力は桁違いに高い。デスルアー は手に持つ杖を使って対象を堕落させてしまう技だ。

そして。

ジュンの目の前で魔獣のような姿で暴れ狂う『レイジモード』のパートナーが最後の七大魔王だ。巨大なぬいぐるみのような姿をした『スリープモード』 の2つの姿を持つ魔王デジモン。 司る大罪は怠惰。

普段は鎖によって力を抑えており、1000年に一度目覚める。そして鎖を破壊しレイジモードになる。 七大魔王の中では最後に発見され、その力は計り知れない。

必殺技はランプランツス 自分を縛る鎖から闇の炎を放つ技。そして、ギフトオブ・ダークネス。全てのエネルギーを解放し、魔爪で対象をズタズタに引き裂く技。

今、まさに都市エリアのスパイラルマウンテンにおいて、大暴れしているのは。

「ベルフェモン、レイジモード……。じゃあ、あの紋章はもしかして七大魔王の……?」

ジュンは呟く。

咆哮は一瞬にしてムゲンドラモンの配下たちを焼き、完全体以下のデジモンたちを葬り去った。そしてアポカリモンに取り込まれるはずの魂はベルフェモンに取り込まれ、さらなる強化を促す。目に入るもの全てを破壊していくベルフェモンは容赦がなかった。ダークタワーであろうが、都市機能であろうが、なにもかもを塵芥にしていく。ベルフェモンの通ったあとには何も残らない。あたり一帯を空爆にあった戦争地帯の惨状に変えたベルフェモンは勝ち誇るように咆哮した。

「ベルフェモン」

ジュンが名前を呼ぶと唸りを上げながらも咆哮はやみ、辺りを見渡し始める。ジュンはすっかり大穴があいてしまい、今にも崩れ落ちそうなほど崩壊してしまった地下最深部にて立ち上がる。

「ここよ、わかる?」

デジヴァイスを掲げながら手を振るジュンに、ベルフェモンは振り向いた。そして、視線の先にジュンがいることに気づいて、目を細めたのだった。

がりがりがり、と無理やり穴に手を突っ込み、乗れとばかりに差し伸べてくるベルフェモンにジュンは瞬き数回、うなずいた。

鋭い爪を避けながら黒い指にしがみつき、手の甲をのぼり、腕のあたりに到達するとベルフェモンは肩にのせた。

「た、高くない……?」

ひきつるジュンにベルフェモンは無言のまま笑うだけだ。

「それにしても、すっかり綺麗になったわね、ダークタワー。これならみんなまた進化できるかも」

ジュンの呟きにベルフェモンはうなずく。その風圧に吹き飛ばされそうになり、必死でしがみついた。

ダークタワーがなくなり、進化の妨害がなくなったことで再び世界に鮮やかな光の柱が2本、空から地上に向けて降り注ぐ。ジュンとベルフェモンはそちらに向かい、飛行を始める。おそらく、グランクワガーモンとウォーグレイモンがいるはずだ。ベルフェモンの前世が動力源となっていた一帯は完全に停止し、他のエリアはベルフェモンが大暴れしたせいで進化制限が解除されている。これでようやく全力で戦うことができるというものだ。

「みんなー、大丈夫?」

ジュンの軽すぎる言葉に死にかけた遼と賢は抗議の声を上げる。ジュンはごめんごめんと謝りながらベルフェモンの凶悪な姿に絶句する仲間たちに合流することができたのだった。




ダークタワーによる進化制限がなくなり、グランクワガーモンとウォーグレイモンは今までの鬱憤を晴らすような快進撃を見せた。

「おのれ、あと少しだというのにじゃましやがって!!」

とうとうお出まししたのは、都市エリアの支配者であり、ダークマスターズの最後の一人であるムゲンドラモンだった。

全身が100%フルメタルのデジタルワールド最強のデジモン。数々のサイボーグ系デジモンのパーツを組み合わせて造られており、今まで製造されてきたサイボーグ系デジモンはムゲンドラモンを完成させるための試作型だったと思われる。他のデジモンを圧倒するほどのパワーと、桁違いの処理能力を誇る頭脳を持つが、自らの意思は持ち合わせていない純粋な機械デジモンである。そのかわり本体中枢にある電脳核(デジコア)に、何者かによって悪の意思が宿ったプログラムを植えつけられており、悪意に満ちた電脳核からは無限のパワーが供給されている。必殺技は2砲のキャノンから発射される超弩級のエネルギー波『∞(ムゲン)キャノン』。

ウォーグレイモンいわく、連戦を重ねたせいで疲弊し、光による進化の力を借りてようやく倒すことが出来たムゲンドラモンを孤立無援にした状態で追い詰めている。アポカリモンにより生まれたダークマスターズは、スパイラルマウンテンから力を得ていたようだ。7分の1の力をベルフェモンに奪われたムゲンドラモンは、ベルフェモンが大暴れして動力源炉を破壊した上、完全体以下の手下をすべて自分の力に吸収したせいでさらなる弱体化を強いられてしまったのだ。

ウォーグレイモンが知るより精彩をかき、力のブレが大きくなっているムゲンドラモン。こちらは選ばれし子供の数こそ少ないが全員激しい戦いを切り抜けてきた究極体。皮肉にも少数部隊ゆえに休みをこまめに重ね、戦いが多かったために彼らは急速に成長していた。かつてより早い段階でスパイラルマウンテンに突入したおかげで究極体としての長さはあまり変わらないのだ。

真っ向勝負による激突となった。攻撃のかなめはやはりウォーグレイモンであり、唯一のワクチン種ゆえにここが落ちたら総崩れになる。グランクワガーモンもベルフェモンも支援なり援護なり重ねながら、ムゲンドラモンの強烈な一撃を耐えながらカウンターをしかけた。

「パラライズアタック!」

その刹那、ムゲンドラモンの装甲から見た事がない砲台が出現し、ウォーグレイモンたちにおそいかかる。ベルフェモンがその巨体を生かして小柄なウォーグレイモンを庇う。ベルフェモンはうめきを上げた。

「ベルフェモン、大丈夫?!」

ジュンがデジヴァイスを確認すると異常状態と書かれている。どうやらマヒさせられたようだ。一定ターンの間行動できなくなったらしい。

「まずは貴様からだ!」

「ベルフェモン!ジュン!」

「私達はいいから、秋山くんたちは避けて攻撃に集中して!」

∞キャノンの標的からはのがれられない。巨大な砲台がベルフェモンの巨大に向けられ、フルチャージしたエネルギーが一斉に火を吹いた。


ムゲンドラモンの必殺技はベルフェモンの向こう側の虚空すら破壊してしまいそうな威力だった。もろに直撃してしまったベルフェモンの体が大きく揺れる。こちらも防御力無視の貫通攻撃なようで、ベルフェモンは唸り声をあげた。しっぽの方から光の粒子に分解され、空中に立ち上り始めているのがわかる。途中で体の崩壊は止まったが苦しそうだ。

「ベルフェモン!」

ジュンはたまらず叫ぶ。しがみつくパートナーにベルフェモンは目を細めた。そして辛うじて受け切った満身創痍状態のまま、大きく翼を広げるのだ。

「ギフトオブダークネス」

構わずベルフェモンは防御力無視の貫通技を放った。この攻撃の前には装甲など意味をなさない。圧倒的な攻撃がムゲンドラモンの目を抉りとった。ムゲンドラモンのエネルギー砲が充填し終わるまえの強烈な一撃だ。これにより標準を合わせずらくなったムゲンドラモンはトドメの一撃をうち損ない、盛大に誤爆した。
先程欠損した体の一部が蘇生していく。ジュンは息を吐いた。どうやらムゲンドラモンの構成データはベルフェモンとよく似ているようで、屠った目のパーツ分回復することが出来たようである。これで少しは持ち直したのか、ベルフェモンはムゲンドラモンを睨んだまま飛翔する。

「グランクワガーモン、頼むよ!」

「うん、まかせて!ディメンションシザー!」

好機とばかりにグランクワガーモンが頭部パーツを空間ごと切り裂いた。0と1の粒子が虚空に消えていく。完全に視野を失い、全盲となったムゲンドラモンが最期の一撃を喰らわせようと雄叫びをあげる。

そうはさせるか、と立ちはだかったのはウォーグレイモンと遼だった。

「よし、今だウォーグレイモン!ベルフェモンとグランクワガーモンが作ってくれた隙を逃すなよ!」

「うん!任せて、遼!」

高いエネルギーが迸る。ウォーグレイモンが身体を回転させて突撃する。

「ブレイブトルネード!」

両腕に備えた『ドラモンキラー』はドラモン系デジモンに対して絶大な力を発揮する。回転しながらムゲンドラモンの四肢や大砲の支えなど弱点となりうる部分をウォーグレイモンは八つ裂きにする。砲台は傾き、マシーンはあらぬ方向にエネルギーを照射する。出口が落ちてきた部品に塞がれたエネルギーは出口を失い、ムゲンドラモンに逆流する。ムゲンドラモンの砲台が消し飛んだ。

断末魔が響き渡るが、ムゲンドラモンの執念に燃える闘志はまだ衰えない。

「これで終わりだ!ガイアフォース!!」

特大のエネルギー体がムゲンドラモン目掛けてぶち込まれたのだった。

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