「おやおや、ずいぶんと未来に生きる勢力を暗黒勢力は引き入れたのですね。同士討ちを強要するとはえげつないことをする」
「同士討ち?」
「あのデジモンたちはですね、ジュエルビーモン。あなたの進化前であるスティングモンにハッカーがプログラムを植え付けたことで誕生したデジモンたちなのですよ」
「人間が!?」
「なにをおどろいているのです?人間と共存するということは、千差万別な人間やデジモンの関わりが生まれるということだ。一概に非難することは相応しくない」
「でも......あまり聞こえは良くない」
「まあ、たしかにそうですね。許容するかどうかはまた別の話だ。多様性はその許容と拒絶は個人に任されていますからね。ただ彼らの存在を罪とするのはまた違う」
「アスタモンは難しい話ばかりするな」
「なにぶん性根がひねくれているものでしてね、不快に思われたなら申し訳ありません」
「参考までに、聞かせてよ。あいつらは未来ではどんなことをしてるんだ?」
「さあ......詳しくはわかりかねますが、多くのビルが立ち上る未来都市をイメージしたエリアがありましてね。サイボーグ、マシーン型デジモンによって支配されているわけですが、都市の上空には空中秘蜜基地「ローヤルベース」が浮遊し、地上では秘蜜戦闘部隊「ローヤルコマンド」が生息しているデジモンたちを監視していると言います。なにが目的かはわかりませんが、セキュリティシステムのような、守護デジモンのような役目を担っているのではないでしょうか。いかんせん、未来のデジタルワールドは今よりも遥かにデジモンの数が多いものでね」
「ふうん、そうか」
ジュエルビーモンは呟くとメガドラモン、ギガドラモンたちがこちらの居場所を特定している理由だと思われる浮遊要塞を見上げた。
「アスタモン、ウォーグレイモン、あとは頼んだよ。僕がここは引き受ける」
「おや、よろしいので?」
その言葉を聞いた賢はあわてて振り返った。
「なにいってるんだよ、ジュエルビーモン!一緒にいこうよ!」
「ダメだよ、賢」
「なんで!危ないよ!」
「アスタモンが監視するのが本業だっていうようなやつらだ。放っておいたら挟み撃ちにされてやられちゃうよ」
「そうかもしれないけど……じ、じゃあ僕も残る!」
「賢?!」
「僕はジュエルビーモンのパートナーだよ!ひとりになんかさせるわけないじゃない!」
言い合いをする2人に気づいたのか、浮遊要塞からハッチがあいた。
「あいつは……!」
機械化したハチたちだった。
ワプスモンは謎の“空中秘密基地「ローヤルベース」”を守るサイボーグ型デジモンである。頭部の触角パーツは索敵能力が高く、基地に近づくデジモンを警戒して常に周辺をパトロールしており、近づくだけで襲い掛かって来る。肩の推進器と背中のスタビライザーにより、上下前後左右と、あらゆる方向に急速に移動が可能で、近づいて来る敵をディフェンスして、強力なレーザー砲で追い払ってしまう。必殺技は大口径のレーザー砲を連射して放つ『ターボスティンガー』と、大型のデジモンをも一撃で仕留めてしまう『ベアバスター』。尚、この技はエネルギーを貯めてから放つため、素早い敵には当たり難く、主に地上の敵に対して有効である
「仕方ありませんね、助太刀しますよ。ウォーグレイモン、遼とジュンの救出をよろしくお願いします」
「絶対おいついてこいよ!」
「いわれなくても。ではまた会いましょうか」
ウォーグレイモンがゲートの向こうに消えたことを確認したジュエルビーモンは飛行を始める。エネルギーを発射するまでにタイムラグがあるならば、随一の素早さを誇るジュエルビーモンの敵ではない。背中に賢をのせてジュエルビーモンは戦闘体勢に入る。
「さて、まずは通用するかどうかですね」
アスタモンが腕の飾りを掲げながらなにか呪文を唱え始めると足元に魔法陣が形成される。禍々しい光を放ちながら相棒のマシンガンが包まれていった。
「オーロサルモン!」
自我を持った弾丸達が聞くにたえない呪詛の咆哮をしながらワプスモンたちにおそいかかる。
「……これは」
軍勢にかこまれていたジュエルビーモンは被弾したところから瞬く間に石化していくワプスモンたちに絶句する。
「なるほど、こういうやり方ならばデーモンズシャウトもなかなかに使い勝手がよくなる。継承スキルも馬鹿にできないものだ」
アスタモンは笑いながら新たなるコレクションをダークエリアに繋がる扉を真下に展開することで一気に回収する。銃弾を補充しながらジュエルビーモンに笑った。
「凄いのは凄いけど、空中戦に一人だけ地上からはやっぱり不利だよ、アスタモン」
ジュエルビーモンが仕留め損ねたワプスモンの飛行能力があるパーツを一刀両断する。
「ありがとうございます、たしかにそうだ」
アスタモンは笑いながら新たなる魔術を発動させる。
「さあ来なさい、我が眷属」
亜空間から召喚されたデジモンが翼を広げる。アスタモンは颯爽とのりこみ、ジュエルビーモンを追った。
アスタモンとジュエルビーモンは空中要塞目掛けて進軍を試みる。
「見れば見るほどおっきいね」
「街ひとつを監視しなければなりませんからね」
「未来のデジタルワールドにいるのはわかったけど、一体どうやって?暗黒勢力は過去から来てるってゲンナイさんはいってたが」
「未来のデジタルワールドから何らかの攻撃がされていると考えるのが正解かもしれません。ジュエルビーモン、空中要塞を攻略して情報を持ち帰りましょうか。さいわいここにはプログラムに詳しい一乗寺賢がいるのだから」
「えっ、僕?」
「できるよね?賢なんだから」
「う、うん、がんばるよ、僕」
「その意気です。ついでに気合いを入れましょうか、いよいよ本命のご登場ですよ」
アスタモンの視線の先には途方もなく大きなデジモンがこちらを見下ろしていた。
「キャノンビーモン、完全体です」
「完全体って、僕達と同じというわけか」
「ええ、そうです」
アスタモンは詳細を話し始めた。
キャノンビーモンは謎の“空中秘密基地「ローヤルベース」”を守る超大型デジモンである。空中の基地は360°が危険にさらされるが、上部の巨大な武器コンテナから放つ一斉砲撃の弾幕で広範囲をカバーしてしまう。また、堅固な装甲を持つ敵であっても必殺技の大口径レーザー砲『ニトロスティンガー』で撃ち抜いてしまう。計り知れない武器の搭載量を誇るコンテナから撃ち出される『スカイロケット∞(ムゲン)』は、警戒が解除されるまで怒涛の如く続く。
「離れれば危害は加えないでしょうが、要塞のデータを持ち帰りたいワタクシたちには無理な相談です」
「やるしかないな、いくよ賢」
「うん!」
ジュエルビーモンが空を舞った。
「さて、ワタクシもお相手すると致しましょうか」
アスタモンは笑いながら振り返った。迫り来る空中要塞のハッチがあいて、すさまじい殺気が向けられていることに気づいたからである。
「ロードナイトモンの部下じゃないだけましというものですね。かねがね噂は聞いておりましたが、初めまして、タイガーヴェスパモン」
アスタモンの声に相手は答えない。そいつは謎の“空中秘蜜基地「ローヤルベース」”を守るサイボーグ型デジモン。タイガーヴェスパモンは見た目の細く鋭いシルエットからは想像が出来ないほど驚異的なスタミナを誇り、戦闘中に決して動きを止めることはない。中でもトップ0.08%というエリート中のエリートは、“秘蜜部隊「ローヤルコマンド」”となり、コードネームを与えられる。単独での戦闘能力がずば抜けていることから“タイガー”のコードネームを持ち、“秘蜜武器「ローヤルマイスター」”を虎の牙の如く2刀流で扱う。必殺技は2刀流「ローヤルマイスター」で敵を突き刺す『マッハスティンガーV(ビクトリー)』。
ウォーグレイモンと同じ、究極体である。
はやく片付けてジュエルビーモンの助太刀をしなくてはと考えていたアスタモンだったが、反対側のハッチがあく音がしたものだから顔色を変えるのだ。もう一体、タイガーヴェスパモンが出撃準備を始めていたからである。
「ジュエルビーモン、キャノンビーモンは陽動です。本命は次だ、気をつけて」
優しさの紋章が輝きを放つ。それはまるで月光のようだった。ジュエルビーモンが白く輝く。降り注ぐ光に照らされるジュエルビーモンは、黒い空に銀紙でも張ったようなまさに明るい月だった。高い所で冴えた光を放っている。白い月は徐々に明るく冴えてきた。少しずつ色を薄くして空の中に消えた。
それはクワガーモン系デジモンの究極形態。昆虫型デジモンの中でもとりわけ邪悪な存在であり、デジタルワールドでグランクワガーモンに出会ってしまった場合は、自らを呪うしかない。普段はデジタルワールドの森林の奥深くに生息しており、夜間しか活動しないため“深き森の悪魔”と呼ばれている。また、ヘラクルカブテリモンの最大のライバルであり、この両者の間にはいつ果てるともない戦いが続いている。必殺技は周囲の空間ごと切り裂いてしまう『ディメンションシザー』。
凶暴なだけのグランクワガーモンとは対照的にウイルス種としての誇りを重んじる性格をしており、ブラックウォーグレイモン等といった似た思想のデジモン達とは同盟を結び、互いに信じる正義の為に戦っているとされている。
両腕に装備している爪「グランキラー」は、あらゆる物質を容易く斬り裂き、その傷を深くして最終的には敵の息の根を止める。
「グランクワガーモン」
賢は新たな相棒の姿をしっかり目に焼きつける。進化の光に照らされて
グランクワガーモンの装甲に仄かな冷たい明かりを灯す。ひっくり返した宝石箱のようにきらめいていた。
濃い灰青色の陰りを帯びた光だ。相対するタイガーヴェスパモンは大きな岩のように孤独に沈黙している。
月の光が賢の左の頬だけに当たって、左の顔だけしかないようだ。澄み切った月が暗くにごった燭の火に打ち勝って、一面に青みがかった光を浴びる。月明かりに狐火のようにポツポツと浮かんで、まるで夢のともし火の海だ。
「マッハスティンガービクトリー!」
機械的な音声が攻撃を宣言した。
「ディメンションシザー」
二本の閃光が横に真っ二つに切られた。さしこんでくる光は様々な事物の影を長くのばし、まるで薄めた墨でも塗ったようにほんのりと淡く染めていた。月を隠している雲の端が、内から洩れ出る輝きに光を噴き出しているかのように見える。
体液が舞った。光を微かに映して、この世のものとは思えぬ底光りをする。月の夜の明るさのように万象に影を失わせ、その隈どりが浮き上がって見えるように思える。
澄み切った月が、暗く濁った燭の火に打ち勝ったように、いちめんに青みがかった光を浴びる。
アスタモンはそれが血しぶきだと悟る時間はあまりかからなかった。視線の先にあるグランクワガーモンは大きな雲母の板か何かのように黒く、そうして光って、音を立ててふるえていた。光を受けて割れて散ったガラスのように神秘的に装甲が光る。
周囲の空間は真っ二つにわれた。空中要塞が断面を見せる。タイガーヴェスパモンはもろとも両断されて機能を停止し、大爆発を起こしたのだった。
成長期に戻ってしまったワームモンをかかえて、賢は半分になってしまった空中要塞に侵入した。大爆発の末に森のエリアに墜落したため、あたりは瓦礫ばかりになっている。
「ありましたね、これが情報機関だ」
賢たちはそのデータを再生してみることにした。治には及ばないながらもありあわせの機械で代用しながら賢はノートパソコンをつくりあげ、中になにがはいっているのか調べあげ始めた。
「どうやらビンゴのようですね」
「このよくわからないレリーフの絵が?」
不思議そうなワームモンと賢にアスタモンはうなずいた。
「これはダークマスターズにより奪われた前の選ばれし子供たちの冒険の記録なのですよ。今、この世界はかつての敵が復活している訳だから予言の書となりうる。そして、ここにある画像をワタクシは初めて見ました」
「えっ」
「なんだって?!」
アスタモンはここです、と指でディスプレイをなぞる。デジ文字を日本語に直しながら読み上げた。
「ミレニアモン......ですか」
アスタモンは目を細めた。
「それが太一さんたちが倒した敵なの?」
「いや、違いますね。 アポカリモン、それが今回のデジタルワールドの危機の黒幕のはずでした。にも関わらず記述が変わっている。つまり、前の子供たちの敵もミレニアモンというやつだったようだ」
アスタモンの言いたいことがわかったようで、賢は顔色を悪くする。歴史が変わっているのだ。
アポカリモン、名前の由来は恐らくアポカリプス(黙示録)から。予言の書の正式名称がデジモンアポカリプスというのだから、間違いなさそうだ。
正十二面体の上方の一面に人間の様な上半身(本体)を乗せ、残りの各面に小さな五角錐台を載せ、それぞれにDNAのような二重螺旋状の触手を付加させた形状をしている。
進化の過程で消えていったデジモン達の無念や辛く悲しい気持ちなどの怨念の集合体がデジモンの形をしている。自分達が為せなかった事を、生きて行う全てのデジモンや子供達を羨み妬み憎んでいる。
先代たちは平面的な封印しかできず、太一たちが立体的なさらなる封印を施した。
今まで太一が闘ってきた種のデジモン達の技を使い、紋章とタグを破壊し、更に子供たちをデータに分解し追い詰めるが、互いの絆と心の中の光により輝いた心の紋章の力によりデジタルワールドに復帰を果たした8人と8匹の連携攻撃により敗北。
最後の足掻きとしてグランデスビッグバンにより自爆しデジタルワールドを無き物にしようとするが、八つのデジヴァイスが作り出した立方体状の結界により其の企みも打ち砕かれた。
「……なんだか、可哀想だね」
「そうかなあ?」
「うん、だって単純に悪いやつって訳じゃなさそう」
「僕はやだなあ、その何処までも暗い思考と強さ」
「早すぎたのですよ、出会うのが。この時代のデジタルワールドにアポカリモンを転生させられるだけの容量がありませんのでね」
「そうなの?」
「デジタルワールドで死んだデジモンは新たなるデジモンとして生まれ変わることができるにもかかわらず、アポカリモンは2度も封印されたのです。まだ早いというわけだ」
「そっか」
「じゃあ、いずれ僕達みたいな普通のデジモンになれるの?」
「出来なければ追放か、殺しているはずですからね」
「あ、そっか。そうだよね」
アスタモンは目を細めた。
かつてデジタルワールドにあった「進化をしないという概念」が、自身によってデジタルワールドを染める為に、「進化の途中で消えて行った種の無念」や死んだデジモンのデータを力として利用する為に吸収することで誕生した存在でもある。
「進化をしないという概念」そのものの意識を『個』としてはっきりと持ち、妬みや恨みで動いているのではなく、死んでいったデジモン達の持っていた無念や言葉を利用して、ただ自身の野望のために世界を塗り変えようとする悪でもある。。
人間の負の感情や進化の過程で消えていったデジモンたちの怨念が集結した存在であり、デジモンなのかどうかすら不明。
ダークマスターズなる存在も、このデジモンの存在により生じた歪みが原因で誕生したに過ぎない。
それまでのデジモンの必殺技を使うことができ、触手の先をそのデジモンの頭部、または上半身に変異させて放つ。
更に、進化したデジモンを退化させたり、進化の鍵となる紋章の破壊、果ては相手のデータそのものを分解させる凶悪な技まで習得している。
自分達が為せなかった事を、生きて行う全てのデジモンや子供達を羨み妬み憎んでおり、消えて行ったデジモン達の必殺技を使って選ばれし子供達を追い詰めるが、互いの絆と心の中の光により輝いた「心の紋章の力」によって、デジタルワールドに復帰を果たした8人と8匹の連携攻撃を受けて敗北した。
そんなアポカリモンとは似て非なる千年魔獣が記されているのだ。
様々な機械型デジモンのパーツで構成されたムゲンドラモンと、同じく生物系デジモンの体の一部を合成したキメラモンの二体がジョグレス進化して生まれた合成型デジモン
倒すことのできない最凶のデジモンとされるが、その在り得ないはずの誕生の原因を突き止めることが、ミレニアモンを攻略する手掛かりになるという。
必殺技は「タイムアンリミテッド」。時間を圧縮して異次元空間を作り出し、対象を幽閉する。
「古代デジタルワールドを暴虐のもとに支配したと伝えられる千年魔獣が再来していると考えて良さそうですね。なにせ現実世界はまさしく2000年問題で揺れている。混乱や不安がデータとして蓄積し、デジモンになったとしても何らおかしくはないのだから」
「ミレニアモン......」
賢はこれから対峙することになるであろう敵の名前を噛み締めるのだった。