12話

ジュンが落ちたのは街のエリアだった。

ダークマスターズが支配するスパイラルマウンテンの境界線は線を引いたように明瞭で、闇の世界から都市の世界に落ちたことは直ぐにわかった。

そこはムゲンドラモンが支配する世界である。デジタルワールドにあった全ての都市が整然とエリアごとに区切られて並んでいる。趣の異なる景観が混在する不調和甚だしい。ムゲンドラモン率いるメタルエンパイアたちは完璧な設計図を描くことは出来ても、美しいか否かの審美眼が欠如している表れでもあった。

碁盤の目状に作られた広い道路を機械型デジモンたちが隊列を組み、パトロールしている。侵入者を見つけ次第消去する大砲の音が響き渡っていた。

ジュンはデジヴァイスの結界から様子を伺った。パトロールの感覚は15分おきであり、ジュンは進んでは時間をあけ、進んでは時間をあけて侵入をこころみた。

都市の中心部はさらにパトロールの間隔は短くなり、地上からの侵入を諦めたジュンはマンホールから地下に潜った。地下には大都市特有の太いパイプやケーブルが縦横無尽に交差していて、むき出しの機械の内部のようだった。ここでは成熟期以下の機械型デジモンたちが小隊を組んで、決められたタイムテーブルに従って警備しているようだった。ジュンは彼らの監視をくぐり抜け、ケーブルをつたって都市の深部に下っていった。

「ここにしようかしら」

ジュンはアンドロモンたちが住むファクトリアルタウンの都市ごとこのエリアに編入されたらしく、地下レジスタンスの拠点となっている場所を見つけたのだ。ノートパソコンを取り出し、地下ケーブルからネットワークに侵入し、敵の機密情報をハッキングする。アンドロモンが使っていたと思しきアクセスポイントから入手することが出来た。

「メタルエンパイアって昔あった文明なんだ」

フォルダ大陸の峡谷に存在する工業地帯に栄える“鋼の帝国”。 かつては小規模だったが、今ではロイヤルナイツがマークするほどの大勢力となった。

最初期こそアンドロモンの思考回路やボルトモンの暴走、メタルグレイモンの肉体の腐敗など問題は多かったが、研究者達の努力により克服。負荷に耐えて腐敗しなくなったメタルグレイモン、思考回路の問題を解決したハイアンドロモンを誕生させた。

そして徐々にマシーン型、サイボーグ型デジモンは世界に広まり、勢力は“帝国”と呼ばれる域に達した。
そんな矢先に意図は不明だが四大竜が接触、“帝国”に竜型デジモンのデータを提供してきた。 それにより、「竜と機械の融合」という技術革新を迎える。

対空迎撃用にメガドラモン、 そこから機動力を犠牲に攻撃を強化したギガドラモン、 対地迎撃用にメタルティラノモン、 そして水中迎撃用にメタルシードラモンを開発、急激に勢力を拡大。 やがては当時の科学の粋を集めた最高傑作ムゲンドラモンを生み出した。

ムゲンドラモンは様々な機械系デジモンのパーツを合成して誕生した、完全機械のマシーン型デジモン。 本来は固有の人格などないはずであったが、製作過程で悪意あるプログラムが施されてしまったため、無限に破壊を繰り返す殺戮兵器と化した。
背負った二門の「ムゲンキャノン」は、強力なエネルギー弾を発射する主力兵装である。

ちなみに構成パーツとしては、頭部:メガドラモンorギガドラモンの頭部プロテクター。

顎:メタルティラノモンの顎パーツ
右腕:メガドラモンのメガハンド/ギガドラモンのギガハンド。

左腕:メタルグレイモンのトライデントアーム。

胸部:メタルグレイモンのギガデストロイヤー。

腹部:メタルティラノモンのチューブ類。

膝:アンドロモンの頭部プロテクター。

ムゲンキャノン:メタルマメモンのサイコブラスター。

が転用されている。 この外観からすると、ギガデストロイヤー、ジェノサイドアタック、トライデントアームなども使用可能と考えられる。

サイボーグ型完全体デジモンの集合体にして集大成、もしくはたいへん贅沢なジョグレス体とでもいうべき出来栄えである。

「こいつがダークマスターズの幹部......」

マップを入手したジュンは一度ハッキングをやめた。

パイプとケーブルがびっしり埋まり始めた深部では、進むにも潜るにも隙間がなくなり始めていた。ノートパソコンしかないジュンでは切断することが出来ないのだ。それでもなんとか入手したマップを頼りにくぐり抜けると、地下の広い空洞に出た。

「動力源はここなわけね、地上はフェイクか」

ここを破壊すれば都市の世界そのものを破壊することが出来るに違いない。

都市の世界がデータの塵となり飛散するにはどうしたらいいかジュンは思考を重ねる。黒ずんだチリとかしたデータの残骸カスは例外なくアポカリモンの糧となるのだ。今のジュンたちは数が少なすぎるから少しでも弱体化をさせなければならない。

「この動力源自体をハッキングして停止させれば......いける?いけるんじゃない?」

ジュンは手に汗を握る自分に気づいていた。

1人では無理だ。なんとかゲンナイさんと治に連絡をとり、指示を仰がなくてはならない。ジュンはアクセスポイントからなんとか外部のサーバに接触する方法を探し始めた。とりあえず機密情報はすべてノートパソコンに転送し終えた。一応デジヴァイスにもバックアップをとっておく。

そしてジュンは作業に没頭した。

「しまっ......」

アラームが鳴り響く。ハグルモンたちが押し寄せてくる。ジュンは視界が真っ暗になった。



「......ここは?」

その音はすごく遠くから聞こえるようでもあり、近くのようでもあった。ジュンの知らないうちに地球がいくつもの行き来できない細かい絶望的な層に分かれていて、その近接した層のどこかからもれ聞こえてくるような感じの音だった。物哀しくて、手が届かなくて、そしてリアルだった。


行く手には監獄が壁のように立ち塞がっている。

まるで刑務所だ。マップを見てみると都市エリアからはなれたところにあって、旧陸軍の小兵舎の改造をしたものだった。近くに新築の小住宅がぼつぼつと建っていたが、以前の荒野の面影は残っていた。その代り外界を防ぐ高いコンクリート塀はなく、施設のように金網が周囲にめぐらされているだけだった。

「レジスタンスの収容所みたいね......」

獄中にあるデジモンたちにとっては涙は日常の経験の一部分のようだ。レジスタンスが獄中にあって泣かない日は、レジスタンスの心が堅くなっている日で、レジスタンスの心が幸福である日ではない。洞穴のような留置場にジュンはいた。

「ああもう、なんでバレるのよ!デジヴァイスの結界張ってあったのに!」

さいわいノートパソコンは没収されてはいなかったので、ジュンは先程入手した機密情報をさらに解読することにした。

「うっ......なんでここからいきなり古代デジ文字なのよ......」

どうやらダークマスターズは先代の選ばれし子供たちの碑文を解読するうえで途中までしか訳さなかったらしい。あるいは訳する必要がなくなったか。

四苦八苦しながらジュンは解析をすすめた。非進化の概念と進化の概念が争った古代デジタルワールドにおいてスパイラルマウンテンが存在していたから、今のダークマスターズたちは再現しているのだ。この都市エリアの動力源だってかつての再現のはずである。

そして。

「......そういうこと」

それはメタルエンパイアの負の遺産だった。

スパイラルマウンテンの動力源は、現代種のデジモンたちのデジコア、いわゆるデジモンの心臓そのものだった。都市エリアに関して言えば、デジタルワールド中のウィルス種たちである。世界の再構成に無理やり組み込まれた彼らはここに組み込まれたのだ。

「だからレジスタンスがいないわけね」

どうやらこの世界はアポカリモンにとって最適解の世界らしい。選ばれし子供たちの帰還が遅すぎてレジスタンスすら壊滅したあと、デジタルワールドが暗黒勢力に掌握される寸前。おそらく、ウィルス種、データ種、ワクチン種、すべての現代種がスパイラルマウンテンの動力源に組み込まれてしまっている。

「......最後のひとつはなによ、まさか古代種とか言わないでしょうね?」

動力源の解析を必死で行っていたジュンは青ざめた。

「嘘でしょ......」

嫌な予感はあたってしまった。

「......この動力源を止めるには......」

震える指先でジュンはキーボードを叩く。都市エリアの動力源に絞り、さらに解析を進めていった。

「......なに、これ」

ジュンの前にはスーツェーモンから託された紋章を含む7つの紋章が浮かび上がったのである。

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