賢視点

気が付いたら、僕は熱帯雨林に倒れていた。


「ケン、ケン、ケンってば」


目の前には、黄緑色をした大きな芋虫がいた。うわあああって声を上げて飛び起きた僕は、あわてて後ずさった。


「な、な、な、なんなの、きみ!・・・・・・ど、どこ、ここ?」

「ボクはワームモンだよ。キミはケンだろ?まってたよ」

「ま、待ってた・・・・・・?ワームモン・・・・・・これって、ユメなの?」

「ちがうちがう、これはユメじゃないよ!ここはデジタルワールド。ゲームやパソコンやキカイの中にあるネットワークのなかの世界だよ」

「はあ?」


意味の解らない単語をならべたてられて、僕は眉をひそめるしかなかった。そんな僕を尻目に、ワームモンは誇らしそうに胸を張る。


「知ってるよ、キミが選ばれし子供ってやつだろ。
 それで、ボクはそのパートナーってこともね。これからよろしく」

「うーん・・・・・・ここがへんな場所だってことはわかったよ。でもいきなり、キカイのなかの世界っていわれてのなあ・・・・・・
 そうだ、さっき、パソコンからこれがでてきたんだけど、これってなんなの?なんで僕はこんなところにいるの?」


僕の問いかけに、ワームモンは言った。


「ケン、きみは選ばれし子供なんだ」

「えらばれしこども?」

「この世界を救うために、呼ばれた子供なんだ」

「えええっ!?」

「ボクも驚いてるんだけどね、ホントはもっと後だって聞いてたからさ。でも、仕方ないんだ。キミ以外の選ばれし子供は、みんな、悪い奴に捕まっちゃったんだ」

「ぼ、僕以外にもいるのかい?」

「うん、いるよ。8にん。その子たちがこの世界を救ったはずだったんだ。でも、なかったことになっちゃった。おかげでケン以外に呼べる子供がいなかったんだよ」

「なかったことになったって、どういうこと?」

「それはボクたちが聞きたいよ。だって、気が付いたら、子供たちが倒したはずの敵がみんな生き返ってるんだから。しかも、また攻めてきたんだから。死んじゃったはずの仲間たちも生き返ってる、っていうか、死んだこと覚えてないんだよ。まるでなかったことになってる」

「えええっ!?」

「選ばれし子供のパートナーたちも、今まで戦った経験がなかったことになってるせいで、とっても弱くなっちゃったんだ。選ばれし子供がいないと、ボクたちは進化、えーっと、強くなれないんだ。戦えないんだ。ボクたちは傍にいないと。とくべつだからね。だから、もう一度選ばれし子供たちを呼んだんだけど、合流する前に敵に捕まっちゃったんだよ」

「え?でも、一回、戦って勝った相手じゃないの?どうして逃げられなかったのさ?」

「選ばれし子供たちとパートナーを捕まえたやつは、その時にはいなかったやつなんだ。みたことない、あんなやついなかったって、生き残ったデジモンたちは言ってるよ」

「じゃあ、そいつが犯人ってこと?」

「うん、そうだと思う。子供たちもデジモン達も、そいつに連れて行かれちゃったんだ。だから、ケン、みんなを助けに行こうよ」

「助けに行くって言われてもなあ、これからどうすればいいの?」

「それはこれから案内する村で聞いてよ。ついこの間まで寝てたボクより、あの人の方が詳しいから」


案内するから連れて行ってくれ、と持ち運ぶことを当然のように要求してきたワームモンは、治兄さんにいろんなことをしてもらえるのが当たり前になっている僕とどこか重なって見えた。ワームモンと共に先を進むと、バリケードが張り巡らされ、ロボットみたいな生きものが見張りをしている村が見えてきた。デジヴァイスを見るとあっさり通してくれた。ワームモンの言うとおり、この機械は選ばれし子供の証明書みたいなものらしい。その先で、僕は人間だけど人間じゃない、良く分からない老人と出会った。その人はゲンナイというらしい。このはじまりの村の村長をしているらしかった。


「よくぞきてくれた、えらばれしコドモよ。ワームモンから話は聞いておると思うが、ワシからもあらためて説明をさせてもらう。どうやらこの世界は、かつて世界を救った選ばれし子供たちの冒険がなかったことになり、時間が巻き戻ってしまっておるんじゃ。まるでゲームをリセットしてニューゲームを初めて、今までのクリアデータを上書きするような感じかの。つまり選ばれし子どもとデジモン達を攫った敵は、時間を操れるというわけじゃ。正体まではまだつかめておらん。ただとんでもなくつよいデジモンじゃということだけは分かっておる。そやつは、復活させた敵を配下にして、世界を征服しようとしておる。どうか力を貸してくれんかの」

「あの、もしかして、僕だけなんですか?その子供たちって、8人もいたんですよね?8人でやっと倒せた敵を、僕だけって無理ですよ」

「大丈夫だよ、ケン。ボクとケンならあっという間に倒せるさ」

「ワームモンは相変わらず自信過剰じゃのう。大丈夫、心配いらん。さいわい、おまえさんのトモダチも選ばれしコドモの素質があるとわかったんじゃ。ふたりでがんばってくれい」

「友達・・・・・・もしかして、遼さん?!」


僕が声をあげると、ゲンナイさんに連れてこられた遼さんがそこにいた。どうやら遼さんも連れてこられたらしい。でも、遼さんにはデジモンがいなかった。


「ゲンナイさん、遼さんにはデジモンがいないんですか?」

「選ばれし子供の素質があるといったじゃろう。遼には、どんなデジモンとも仲良くなれる才能があることが分かったんじゃ。わしらは、そういう子供をテイマーと呼んでおる。ケンたちの世界には、テイマーの才能をもった子供が見つけられんかったので、選ばれし子供という、絆によって特定のパートナーを強くする力を持っておる英雄の力を借りることにしたんじゃよ。似て非なる力じゃが、どちらも選ばれし子供には変わりない。遼には特定のパートナーがおらんでな、今回は難を逃れた選ばれし子供のパートナーとコンビを組んでもらおうと思っての」


うけとってくれ、と差し出されたのは僕と同じデジヴァイス、そしてオレンジ色の恐竜だった。目の前でパートナーの選ばれし子供が連れ去られてしまったせいだろうか、そのデジモンはとっても落ち込んでいた。


「その声、おれを呼んだのはきみだったのか!なあ、名前は?」

「ボク?ボクはアグモンだよ」

「アグモンか、おれは遼。秋山遼。よろしくな、アグモン。がんばって、おまえのパートナー助け出そうぜ」

「え、いいの?」

「いいに決まってるだろ!あんなに必死に、パートナーの太一だっけ、助けたいって言ってたじゃないか。だからおれ、手を伸ばしたんだぜ。元気出せよ、おれも賢も協力するからさ」

「ありがとう!」

「もちろんケンも協力するよね?」


ワームモンに言われた僕は、うん、とうなずいた。


「あの、ゲンナイさん」

「なんじゃ?」

「あの、遼さんだけなんですか?」

「あ、そうだ。あのチャットをみて、おれが選ばれし子供に向いてるって分かったんなら、アナログマンとか、クリスタルとか、治君とか、もみたんだろ?あいつらは向いてなかったのか?さすがに二人じゃきついと思うんだけど」


遼さんと僕の言葉に、はて?とゲンナイさんは首をかしげる。


「アナログマンとクリスタル?そんなハンドルネームの人間は、チャットにはおらなんだぞ?ログには、お前さんたちと、治という少年しか見つけられなんだが。てっきりおまえさんたちでチャットをしていると思っておったが、ちがうのか?」

「はああっ!?なんだよ、それ!違うよ!だっておれは、アナログマンとこのサイトで仲良くなって、定期的にチャットを開いてるって聞いたから参加するようになったんだ。今日は治君と賢を誘って、チャットをしたんだぜ!?なんでそこの常連のクリスタルさんまでいないんだよ!」

「そんなこと言われても困るのう。ほんとに、ワシらが確認した時には、あのチャットルームには、お前さんたちのIPしか抜き取れなんだんじゃ。誰かの自作自演ってことはないのかの?いたずら好きなお前さんの親友とか」

「治君がそんなことするわけないだろ!?なんのためにだよ!そんなわけないだろ。だっておれがチャットをしてるのはしってても、実際にサイトのアドレスとか治君に教えたのはつい最近だったんだ。それにアイツは今、病院にいるんだぜ。複数のアカウント確保するなら、何台もパソコンがいるじゃないか。病院の個室にそんなの用意すんのはむりだよ」

「そうだよ。治兄さんはそんなことしない!」

「うむむむむ、なら、ちとまずいことになったのう」

「え?なんでだよ」

「治という少年が無関係なら、そやつらが幽霊だったという落ちでもない限り、それができるのは自由にネットで活動できるデジモンだけじゃ。わしらがお前さんたちを見つける前に、お前さんたちを観察しておったデジモンがいるということになる。そやつらがやっておったチャットでおまえさんたちとわしらは出会った。出来過ぎておらんかの」


その発言の意味を悟った僕らは、顔を見合わせた。脳裏をよぎるのは、治兄さんだ。僕らは大慌てで、ゲンナイさんに、治兄さんをここに呼ぶよう頼んだのだった。

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