4話

「ハイヤー!」

タイチたちの真横を三体のデジモンがひく荷馬車が乱暴な運転と共に通り過ぎていく。なんだなんだとタイチたちは目をまん丸にして様子をうかがうことにした。出ていくにいけない雰囲気がそこにはある。

そのうち1体は完全体の草食恐竜型デジモンの中では一、二を争う攻撃力を持つトリケラトプスの姿を持つ二足歩行の角竜型デジモン、トリケラモンだ。表皮の頑丈さは生物系デジモンの中ではトップクラス。表皮同様、額から生えた2本の角は超硬質で、モノクロモンよりもはるかに硬い。基本的に性格は温厚。しかし、通常時の緩慢な動作からは推測しかねる突進攻撃は、硬質の体を持つ鉱物系デジモンでさえ破壊してしまう攻撃力を持っている。必殺技は額の2本角と鼻先の角で敵に突進していく『トライホーンアタック』。

残りの2体は成熟期のモノクロモン。鼻先にサイの様なツノを生やした鎧竜型デジモン。その巨大なツノは成長すると体長の半分をしめるほどの大きさになる。ツノの部分と体の半分を覆う硬質な物質はダイアモンドと同質の硬度を持ち、このツノを持ってして貫けない物は無いと言われている。モノクロモンは攻守共に優れているデジモンといえる。草食性で性格は比較的おとなしいが、ひとたび怒らせるとその重戦車の様な体から恐ろしい反撃を繰り出してくる。必殺技は強力な火炎弾『ヴォルケーノストライク』。

すさまじい砂埃に咳き込みそうになるのを堪えながら、タイチはいきなり現れた新顔を伺った。そいつはやたら大きな声量で話すものだから、つられて少女の声も大きくなるのだ。

「やたら走りやすい道だと思ったら暗黒の女神とジュンじゃないか。ダークエリアから出てこないと思ったらこんなところにいたのか」

「エテモンキーじゃない、どうしてここに?」

「俺様か?俺様はな、ヤガミタイチっていうテイマーとデジモンを探してるんだ。デーモン様からの命令で警告して来いってな。見たことないか?」

「八神太一!?えっ、うそ、ホーリーエンジェル城に召喚されたテイマーって太一くんなの?!」

「おっと、まさかの反応だな。まさかヤガミタイチと知り合いか?」

「知り合いも何も同じ選ばれし子供の仲間よ」

「ほーお、そうだったのか。おなじ世界から召還するたーいい度胸だぜ、ホーリーエンジェモンのやつ。しっかしいいことを聞いたぜ。ヤガミタイチってのはどんな外見してる?特徴は?」

「警告だけなのよね?」

「ああ、今すぐ殺そうってわけじゃない。今回はたんなる挨拶程度さ。なにしろ毎日デーモン様のお相手しなくちゃいけなくて退屈してたところなんだぜ。ちょっとくらい遊んでもバチはあたらねーだろ」

ジュンはしばし考え込む。

「エテモンキー、たしかアンタってあれよね。現実世界に行って子供たちと遊びたいからデジタルゲートを開くことが出来るデーモンの手下をやってるのよね?」

「おう、そうだぜ。なんだよいきなり」

「アンタに情報渡していいか考えてただけよ」

「なるほど。で?」

「アンタには教えてあげる。その代わり本宮ジュンはデーモン城に捕まってるって伝えてくれない?太一くんは小学六年生の男の子よ。背はこれくらいで青いヘアバンドにゴーグルをつけてるわ。昔のパイロットがつけてそうな古いヤツを」

「なるほど、わかったぜ。約束は守ってやるよ。ところでその解析中のデジコアはもしかしてイーバモンのやつか?」

「そうよ、よくわかったわね」

「そりゃあ、でっけえ試験管の中にういてたのを見たことがあるからな。だがそいつはグッドタイミングだぜ。こいつは身内殺しをしたあげくに脱走したからデーモン様から討伐命令がでてて、追っていたんだ。リリスモンが討伐してくれたなら話が早い。ありがとうよ、仕事がひとつ減ったぜ」

エテモンキー曰く、リュカモン、バニモン、ヘルムモンのプロトタイプのうち超究極体のデータと適応できた幹部候補たちがことごとく襲撃にあったらしい。脳内のデータを根こそぎ奪われて理性と本能を失ったデジモンたちは廃人状態になってしまった。デーモンは怒り狂い、また人造デジモンたちを作り直すよう指示を出したという。ジュンは驚くのだ。今回の外出許可で初めてこちらのデジタルワールドに来ることが出来たため、デーモン城で活動している部下達の顔はざっと見たものの具体的になにをしているのかまでは全然知らないのである。

「そうなの?それはよかったわ。このデジモン明らかにデーモン勢力の動向を追っていたもの。それに超究極体の情報を収集していたし、超究極体のデータを蓄積してたわ。どこかに運ぼうとしてたんじゃないかしら」

「なんだと!?」

「もう一回人造デジモンたちをみんな一から調べてみた方がいいんじゃないかしら?何らかのウィルスが混入した可能性があるわよ」

「まさかお前じゃないだろうな、本宮ジュン」

不愉快だとでもいいたげにジュンはエテモンキーをにらみつけた。

「バカ言わないでよ。ずっとダークエリアに幽閉されてたアタシが、どうやってこいつにウィルスを仕込むっていうの?ご丁寧に外部と通信機能遮断してくれちゃって」

「おいおい、なんも考えずに疑惑を向けちまったのは謝るが、だからって俺様に八つ当たりするのはお門違いってもんだぜ。さあて、困ったことになったな。それが事実なら緊急を要する。今、デーモン様はVテイマータグが設置してある5つのエリアに人造の究極体デジモンを置く計画だったが、今回のようなことがあったら困る。止めるか変更するよう進言しよう」

「ええ、ぜひそうして」

「で、お前はなぜリリスモンとこんなところに?」

「ユキワリタケが食べたいってリリスモンがうるさいのよ。癇癪起こしてそこら辺中に猛毒やら呪いやらばらまかれたらたまったものじゃないでしょ。だから取りに来たのよ」

「アッハッハッハッハッ、そりゃいい。お前も大変だな!」

「笑い事じゃないっての。このまま逃がしてくれたらいいのに......」

「お前が逃げた瞬間にベルフェモンの命はないからな、心しておけよ。くれぐれも逃げようなんて血迷ったこと考えるんじゃねーぞ。これはお前の為を思っていってるんだ」

「わかってるわよ」

ジュンは肩を竦めた。

「で、アンタはこれからどうすんの、エテモンキー」

「俺様か?ヤガミタイチに警告をしてちょいとばかり遊んだあとはデーモン城に戻り報告することにするぜ」

「ねえ、それって逆じゃないの?デーモンからの警告の内容変わるじゃない。特にVテイマータグの妨害デジモン」

「あっ、い、言われてみりゃそうだな!こうしちゃいられねえ、今すぐデーモン城に戻るとするぜ。あばよ!」

ハイヤー!とエテモンキーはムチを振るう。彼らは去っていった。呆れ顔のままエテモンキーを見送ったジュンは、しばらくして白いデジタル時計をポケットから取り出すと小さなパソコンを広げてケーブルでつなげる。そしてなにかをみていた。そして首を傾げている。

一連の流れを見届けて、タイチたたはようやく息を吐いたのだった。

「......ジュンだってさ。タイチ、知ってる?」

「いんやー......聞いたことないなあ。あの子、俺より年上みたいだし、女の子のテイマーだろ?デジモンの大会くらいでしか知り合えないと思うんだよなあ。女の子でデジモンを究極体まで育てられるとか絶対目立つはずなのに」

うーん、とタイチは考え込むのだ。

「タイチ、タイチ」

「待ってくれよ、ガー坊。今思い出してんだから」

「タイチってば、タイチ」

「だーから待ってくれって」

「タイチ!いつまで考え込んでるんだよ、気づかれたってば!前みろ、前!!」

「へ?」

ガー坊の叫びにようやく間の抜けた声を上げたタイチは前を見る。そこには物凄いスピードでこちらに向かってくる暗黒の女神ことリリスモンがいた。

「い゛っ!?なんでバレたんだあ!」

「あの子はデーモンに掴まってるみたいなのに、なんで育てられてるデジモンがボクたち襲ってくるの?!」

「オイラに聞くなよ、そんなこと知るかあ!」

ガー坊は慌てて隠れようとするが、リリスモンが羽ばたく度に凄まじい勢いで周りが腐食していくものだから障害物がなくなってしまう。草も木も岩もなにもかもが粉微塵になり、ボロボロに砕けてなくなっていく。

「ひええっ」

「ガー坊あぶない!」

タイチはゴーグルをつけてそのままガー坊をかかえて飛び退いた。さっきまでいたところが一瞬にして粉塵と化す。この惨状の主がリリスモンなのは間違いなかった。

「リリスモン、やめなさい!」

ジュンが慌てておいかけてくるのが見えた。

「いや!」

癇癪を起こした子供のようにリリスモンが叫ぶ。その度に周りは腐り落ち、腐敗し、見るも無惨な姿に変貌をとげてしまう。

「攻撃されてないじゃないの、なんで攻撃してるのよ!」

「いやー!なんかいやー!!」

「なんかいやってなんだよ、それー!?」

あんまりにもあんまりな発言にさすがにゼロマルは大ショックである。やたらと犬呼ばわりされるより嫌だ。初対面だし、リリスモンはデジモンだけどホーリーエンジェモンみたいに人間よりなデジモンだ。しかも見た目はかなりあやしい雰囲気があるお姉さんだし、おっぱいもかなり大きい。ぼーっとしてたら死ぬような状況じゃなかったらタイチと揃って鼻の下を伸ばしていたところだがそれ以前の問題だったのである。

「なんかいや!いや!こわい!きらい!いやー!!」

リリスモンはその大人びた外見とは裏腹にかなり幼い言動と態度をするデジモンのようだ。ジュンは叫ぶ。

「大丈夫よ、リリスモン!ここにあなたをダークエリア出身だからって殺そうとする奴はいないわ!」

「でも!でもー!」

「ワクチン種が怖いのはウィルス種の本能よ!あなたが勝手に怖がってるだけ!あなたが暴れて傷つけようとするからみんな反撃してるだけよ!やめればなにもしないわ!!」

「いやー!」

「あーもう、わからず屋!!」

ジュンは白いデジタル時計を放った。そこから結界が展開され、リリスモンの前に出現する。ゼロマルとガー坊は本能的にその結界が聖なる力、ウィルスバスター機能があると察して動くのをやめた。リリスモンが怯えた目で結界の前に立ち尽くすのを見ていたからだ。

「いやー!いや!ごめんなさいごめんなさい!それ嫌!閉じ込めないでー!」

「嫌なら止まりなさい」

「ううう.......」

リリスモンはガックリと項垂れたままその場に座り込んでしまった。

「ほら、何もされないでしょう。ごめんなさいは?」

「ご、ごめんなさい」

「ま、まあ落ちついてくれたんならいいけどさ」

「も、もう大丈夫なのか?びっくりした......」

「嫌ってなんだよ......嫌って......」

三者三様の反応ながらタイチたちが敵対する意志を見せないことにジュンは安心しているようだった。

「......あれ、太一くん?」

「へ?」

「やっぱり太一くん......よね?あれ、でも身長縮んでるような......?それにパートナーがアグモンじゃない......?ヤマトくんはどうしたの?」

矢継ぎ早に質問されてタイチは驚く。

「えーっと、君は?なんで俺のこと知ってるんだ?俺は君のこと知らないし、こいつのこと言ってるなら確かにこいつはアグモンから進化したけど」

「えっ」

「それにヤマトって誰だよ。俺知らないんだけど」

今度はジュンが驚く番だった。

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