3話

ホーリーエンジェモンが統治する城にて、デジタルワールドに召喚したのはこの世界に迫りくる厄災から世界を救ってもらうためだと聞かされたタイチ。かつてデジモンたちが平和に暮らしていたフォルダ大陸にて、一体の変異体が世界を滅ぼそうとしている。その名はデーモン、フォルダ大陸を皮切りに世界征服を企て、凶悪なデジモンたちを率いて反乱を起こしたのだという。そしてフォルダ大陸の中央に魔城を築き、超究極体を育てている。それはかつて光と闇の全面戦争があったとき、闇勢力の切り札ともいうべき存在だったと予言の書には記されている。デーモンの野望を打ち砕くにはそのデジモンの誕生の阻止が不可欠。だが日増しにデーモンたちの勢力は増しており、苦戦をしいられている。だからこそタイチを召喚したのだという。

それは一種の博打だった。ホーリーエンジェモンが見たことのないデジモン、そして育て上げたテイマーの無限の可能性に。デーモンを倒して欲しい、嫌ならすぐにでも元の世界に返してやると言われたタイチは応じた。

「つまり俺ってば英雄なんだよな!じゃあお安い御用だぜ」

あまりの安請け合いに心配になったガブモンのガー坊だった。そしたらホーリーエンジェモンにタイチたちに同行するよう言われてしまい、しぶしぶ旅をしているわけである。

ただいまホーリーエンジェル城を抜け、スピリチュアルランドの森の中である。

「デーモン城には簡単に入れないのにお気楽なもんだなあ」

「えっ」

ガー坊はいうのだ。この世界をつくって統治していた神様が人間の干渉を嫌って、人間が入れないような封印を施した。もう神様はいないが封印は残っている。人間が入る方法はただひとつ、フォルダ大陸にある5つのタグを集めることだけ。通称Vテイマータグ。デジモンたちだけでは対処できない厄災がおきたときのために神様が残したものだ。5つの地域にバラバラになっており、デジモンだけでは触れることが出来ないらしい。それは実力あるテイマーにしかできないこと、まさに英雄の証というわけだ。

「たしかにちょっとやれやれだな。デーモン城に乗り込むには5つもタグを集めなきゃいけないのか」

「なるほどそういうことか!わかった、ボク1人でデーモン倒してくるよ!」

「あほか!人の話全然聞いてないじゃないか!お前らコンビでも勝てるかわからないのに、単独でいってどうするんだ!」

ガー坊は呆れ顔だ。ゼロマルはムッとした様子でにらみつけた。

「だいたいデーモン城には完全......」

いいかけた言葉は森全体に走り抜けていった強烈な光が遮った。

「な、なんだなんだあ!?」

今度は何度も体が宙に浮くほどの衝撃がタイチたちを襲う。

「いてててて......」

「大丈夫、タイチ?」

「しりが2つに割れたぁ......」

「えええっ、そりゃ大変だ!」

いつもなら大丈夫じゃないか!とつっ込みをいれてくれるはずのガー坊がなにも言わない。あれ?とタイチとゼロマルは顔を見合わせた。

「もしかして怒ってるのかよ、ガー坊」

「ガー坊?」

虚ろな目をしたガー坊がふらふらと森を抜けるはずの道を横に方向転換して歩き出したではないか。

「おーい、ガー坊ってば、どうしたんだよ!」

「タイチ、なにかへんだ!ガー坊のやつ、さっきのひかりをあびてからなんかおかしい!」

「お前は大丈夫なのか?」

「ボク?ボクはほら、さっきのバトルの治療に使おうとしてた、これを咄嗟に口に入れたからさ」

ゼロマルの口の中には貼り薬になる代わりに悶絶するほど苦い葉っぱが入っていた。なるほど、ガー坊みたいにふらふら飛んで火に入る夏の虫みたいに歩いていきたい衝動はあるが無理やり苦みで耐えているらしい。そういうことなら、とタイチは葉っぱを掴んで走る。察したゼロマルが羽交い締めにして、ガー坊の口の中にありったけ詰め込んでやった。

「に、に、にがあ───────いっ!?!」

あまりの激マズさに1発で目が覚めたらしいガー坊はようやく歩みを止めてくれた。

「吐き出すなよ、また魅了されてどっかいっちまうぞ?」

「う、うへえ......なにするんだよう......」

「危なかったんだからなー、ガー坊。いきなりふらふら森の奥に行こうとするからあ」

「言われてみれば、あれ、なんでここに?」

「しかも覚えてないとか、絶対やばいやつじゃないか!」

「ガー坊、ボクがひきずられるくらいには馬鹿力になってたよ」

「ええっ!?言われてみれば全身が筋肉通でいだだだだだっ!」

どうやら光を浴びたやつは自分の限界を突破してまで歩き続けようとするらしい。普通に考えてやばい。タイチたちはあたりを見回した。

「そーいや周りに誰もいないな」

森を抜けるのにそれなりのバトルを繰り返してきたタイチは疑問に思うのだ。今の森にはなんにもいない。

「た、タイチ、タイチ、あれみて」

ゼロマルが指をさす。

「うげえっ、なんだこれ!」

大惨事が広がっていた。何メートルもの空間がそこだけ跡形もなく消失しており、はるか向こう側が見渡せるではないか。バカでかいデジモンが通り過ぎたために木々がなぎ倒されたわけではない。エネルギー砲がぶっぱなされてもろとも粉微塵になって消えたみたいな光景である。

「誰かいるよ!」

タイチはガー坊の声に息を飲んだ。とっさに残っていた巨木にみんなで隠れる。その向こう側にはさっきの地震みたいな衝撃の正体があった。この森に生息しているデジモンたちが集結し、見たことも無いデジモンをぼこぼこにしているのだ。どいつもこいつも激昴しているのか我を忘れているらしく、必殺技や得意技を執拗にぶっぱなし、やられてもやられてもゾンビのように立ち向かっている。集団リンチの犠牲者は体のほとんどが消えかかっており、新たなパーツが1と0に溶けて行く度に悲鳴をあげている。やがて犠牲者は消えてしまい、加害者たちも限度を超えた攻撃の代償は大きく、消えていく。あっというまにいなくなり、アゲハ蝶のような翼をもつ着物を着た女性らしきデジモンだけが残された。

「タイチ、タイチ、やばいよアイツ。死んだ奴らのデータがダークエリアじゃなくて、あのデジモンに集まってる」

「えっ、それじゃあ転生できないじゃん」

「ま、まさかあのデジモン、あんなに綺麗なのにあれだけ居たデジモンのデータ全部取り込んで強化しちゃったのか?」

誰もがわかる、わかりやすくやばいやつである。

「あ」

女性型デジモンからひとり降りてくる。

「人間だ!」

「まさか俺たちみたいなテイマーか!?」

それはタイチより年上と思われる少女だった。天然パーマ気味なくせっけをしていて、メガネを掛けており、白衣を上から着ているせいで研究者みたいなイメージが先にくる。少女は女性型デジモンになにかいい、被害者のデジタルデータの塊であるデジコアを手にした。そしてパソコンを広げてなにやらキーボードを打ち始めた。パソコンに集中するということはこちらに気づいていない証である。あるいは背後を取られる心配はいらないという強さの証明だろうか。

ごくり、とタイチは唾を飲んだ。

「な、なあ、ガー坊」

「な、なに?」

「たしかデーモンて0と1の配列を操ることで感情を操るダークウィルスだったよな?大人しいデジモンも凶暴化させて配下にしてしまうことが出来るって。あのデジモン、やってることがまるきり同じなんだけど......」

「デーモンに葬られたデジモンはデジタマにならないままダークエリアの中心へと送り込まれてデーモンの血肉となる、だっけ?ホーリーエンジェモンがいってたの」

「言われてみれば......でも、おかしいな。デーモンは悪魔みたいな見た目のはずなんだけど......」

タイチたちの相談を他所に少女たちは調べものが終わったのかパソコンをしまい、歩き始める。

「ま、まさかホーリーエンジェル城に!?」

たしかに領地は目と鼻の先だ。

「うーん、それにしてはどんどん遠ざかってるような......?」

タイチたちは尾行することにした。



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