1話

ジュンはその日からサルベージにおわれていた。この世界の予言の書にかかれている暗黒勢力や闇と光の戦争などの記述から双方の勢力の研究所を見つけ出し、不法アクセスしたり。ダークウェブに漂うデジゲノムからデータを回収してデジタマになるくらいデータを収集したりした。

「準備出来たわよ、デーモン」

「ワハハハハハ!さすがだ、でかしたぞ選ばれし子供よ!さすがはセキュリティシステムの目を盗んで不法アクセスを繰り返していただけはある!」

「うれしくないお世辞をどうも」

ジュンはため息をついた。どれだけ幸福が逃げ出したかわからない。ようやくジュンはアスタモンに干渉してきたかつての正体不明の存在がデーモンだと気づくのだ。デーモンはデジタルゲートの管理者権限を完全に把握しており、古代デジタルワールド時代同じ世界だったジュンの世界にも共通して存在している予言の書を通じて干渉してきていたのだ。ジュンがセキュリティシステムの内部に内通者がいることをふんでこそこそしていたのはつつぬけだというわけだ。

デーモンからすればこれ以上ないほどの適役なのだろう。衣食住は保証されてこそいるがダークエリアからジュンは1度も出してもらえなかった。

ジュンの目の前には歪んだ暗黒のデジタマが6つ並んでいる。それぞるが
孵化装置に置かれているのだ。今のところジュンは経過時間が表示され、この間はデジタマの様子を見ることしかできない。
 
時間経過後に再び孵化装置を起動させ、何度か繰り返しているが進行速度はにぶいままだ。デーモン曰く裏切ることを見越して光属性のテイマーを何人か召喚し、色々と工作をしているらしい。そのため孵化装置の必要時間が短くなったようだ。

それでも孵化難易度が極端に高いデジタマである。まだまだ孵化に必要な闇の力が足りない。孵化はこの世界の終焉に近づく証でもあるが、ジュンはこのデジタマを孵化させるためのエネルギータンクと化している
ベルフェモンを救わなければならない。そのためには闇の力を増大させなければならない。どうしようもないジレンマである。

デーモンからジュンに課せられた使命は七大魔王たちを孵化させて育成することである。それにより闇の力は増大しベルフェモンは解放される。

「ねえ、デーモン。アンタが探してた超究極体のデジゲノム、ほんとにデジタマに埋め込んでもいいの?シャレにならないと思うんだけど」

ギチッ、ギチギチッと不気味に蠢いているデータ片にジュンは顔を引き攣らせた。

それはジュンがデーモンにいわれて必死で探し回ったデジゲノムだった。この世界が誕生する前に行なわれた闇と光の全面戦争において闇勢力の最大戦力にして切り札だったデジモンのデジゲノムだ。

強大な力と邪悪さを持ち、敵のエネルギーを吸収して強くなる妖獣型デジモンと予言の書には記されていた。存在その物が封印されていたデジモンであり、名前は伝わっていない。

姿形を与えられていないのに「ギチギチ」「ギギ」等の気味の悪い鳴き声を発する。 つまり自我があるということだ。あまりにも危険な匂いしかしない。

デーモンはいにも介さない。このデジモンは通常のデジモンが進化に戦績と時間が必要であるのに対し、他のデジモンからエネルギーを奪い、必要なエネルギーをチャージし終えると次のレベルに進化するというかなり特異な進化をする特性があるのだ。このデジゲノムを組み込めば大幅な簡略化となる。だから反対など受け付けないという態度である。

「生まれながらの究極体は幼年期から成長してきた究極体に劣るのだ。光との最終戦争に備えてダークエリアで暗躍していると決めつけているのはこの世界だ!デジタルワールドが望む強大な力を得てなにがわるい!」

どうやら言葉の節々からデーモンは生まれながらの究極体であるがゆえのコンプレックスがあるらしかった。デーモンからすれば同じ七大魔王であるにもかかわらず幼年期から究極体になり、何度も進化と退化を繰り返して歴戦の勇士並の実力を手にし、ジュンのパートナーデジモンとなることですさまじい力を手にしたベルフェモンは地雷以外のなにものでもないらしかった。

「これでデジタマから誕生したデジモンたちは誕生した時点で常識を超えた能力を持つことになるのだ!さあ、起動しろ!」

ジュンは無言のままスイッチを押した。ダークエリアのこの研究所はデーモンがフォルダ大陸にて侵略したエリアにあったものを移築したものだ。それはジュンがかつて慣れ親しんだデジモンとデジモンをジョグレスさせて誕生させる人工デジタマの作成場だった。この世界のシステム管理者たちはデーモンに殺されたか、光と闇の全面戦争に巻き込まれて全滅したかしらないが長いこと放置されていたようで傍から見れば廃墟にほかならない。

ジュンは淡々とデジタマを見つめていたが、デジゲノムが注入される瞬間はどうしても直視することが出来なかった。逆らったが最後ジュンは殺されるのがわかっていた。ジュンはなにがあろうともベルフェモンを助けなければならないのだ。もとのデジタルワールドに帰還する為にも。だから悲鳴をあげる良心に耳を塞いだ。

超究極体デジモンのデジゲノムという強大なデータに塗りつぶされてしまった七大魔王のデジタマたち。この瞬間から本来獲得するはずだった自我や個性といったものは一様に失われた。データチップというデジモンの記憶や感情などを司る根幹部分に寄生したデジゲノムは瞬く間にデジコアを染め上げていくのがわかった。

ゆっくりとレバーを押したジュンは、孵化までの時間をモニターで確認する。

「意外とバラツキがあるのね」

「クックック、なにをしらばっくれているのだ。七大魔王がどのような存在かワシより知っているのは貴様だというのに」

「知っているのと理解してるのはまた別問題よ」

「なにか問題があるのか?貴様はただワシの糧となる運命のコイツらを相応しい強さに育て上げることだけ考えておればいいのだ!」

「.......」

どうか生まれてこないでくれ、と心の底から願っていた事態が無常にも訪れてしまった。

デジタマの真下に色欲を司る黄緑色の禍々しい蛍光色の紋章が浮かぶ。紋章とデジタマがゆるやかに分解され、融合し、再構築されていく。それは一体のデジモンを形作っていった。

ジュンはディーターミナルを起動した。そしてデジモン図鑑を開く。

魔王型の究極体デジモンだ。必殺技はファントムペイン。暗黒の吐息で相手を呪い殺す必殺技。通常技はナザルネイル。右手の金色の爪で触れるもの全てを腐蝕させる。

名前の由来は妖怪や悪魔として神話や伝承に登場するリリスから。初めて七大魔王の存在と所属が示されたデジモンでもある。七つの大罪の色欲を司るとされているが、そもそも性別が存在しないデジモンに通じる色欲とは何なのかは不明である。

容貌はデジモンにしては珍しくほとんど人間の女性の素顔そのもので、デザイン上最も人間に近い部類と言える。

その名はリリスモン。女性の姿をした魔王型デジモンで“七大魔王”デジモンの一体でもある。元々はオファニモンと同種族だったと考えられており、堕天して “暗黒の女神”と呼ばれるようになった。妖しくも美しい容姿で相手を惑わし、その誘いに乗ったものは必ず死が与えられるといわれる。“暗黒の女神”の名に相応しく、悪に対しては寛大であるが善に対しては冷酷非道の施しをする。

「.......えっ」

ジュンはリリスモンであるはずの存在を見て愕然とするのだ。知っているはずの姿と全く違うのである。

「超究極体デジモンのデジゲノムをデジコアに埋め込んだ影響ってことなの.......?もはや別のデジモンじゃない.......」

ディーターミナルには変質したリリスモンの追加情報がのっていた。

その姿は見た者全てを虜にし、そのまま操り人形へと変えてしまうという。究極の美を手に入れたリリスモンは、その寛大な包容力で甘美なる破滅をもたらす死の女神となった。必殺技は色欲の冠から力を引き出し広範囲にわたり他者を操る『セブンス・ファシネイト』。人形と化したデジモンは力を限界以上に引き出され、操ったのちに死へと至る。最期に輝き消えゆく灯を、リリスモン自身は愉悦と共に見守る。

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