「ベルフェモンの様子が......?」
それに気づいたのはタイチだった。クロノモンと戦闘を繰り広げているベルフェモンの挙動があきらかに変わったのだ。
今までは闇雲に倒そうとしていたが、今は明確な意志を持って攻撃している。それはクロノモンの腹部に露出するコアの中に閉じ込められているジュンの回りを侵食する鎖、もしくは周りのパーツを攻撃しているように見えた。
連射される攻撃が煙幕をはる。視界が不良になる。
クロノモンの絶叫が聞こえた。
そして。
「コアが!」
「ジュンッ!」
すさまじい勢いで巨大な球体が落ちていく。クロノモンの腹部にあったコアがベルフェモンの猛攻、そして攻撃されて破損したデータがベルフェモンに還元されてしまうせいで自己修復が間に合わず切り離されてしまったのだ。ゼロマルが飛翔する。タイチが手を伸ばす。コアが大きすぎて落下速度に追いつけない。距離があまりにもありすぎた。
抉られた台地が目前に迫り来るのも構わずタイチは手を伸ばした。その時だ。
コアの内側から眩い光が溢れ出し、ヒビがはいり、巨大なヒビとなり、そして砕け散った。その光はジュンが持っていたデジヴァイスが光源であるとタイチは悟る。その光はジュンを守るように包み込むとなにやら結界のようなものが展開した。落下速度は変わらない。その光はやがて空高く貫通する光の柱となる。
落下速度が緩やかになった。おかげでなんとかゼロマルとタイチはジュンを保護することに成功する。
「ジュン、ジュン、おいジュン、大丈夫かッ!?」
揺さぶっても起きない。
「おいってば!あの真っ黒なデジモンがお前のデジモンなんだろ!?お前が死んだらお前のデジモンも、お前の世界もやばくなるんだろ!?絶対に死ねないっていったのはジュンじゃないか!しっかりしろ!!」
「......ッ!」
身動ぎした。タイチは顔をのぞきこむ。うっすらと目が開いた。
「ジュンッ!」
「た......タイチ君......?あれ......ゼロマル......?なんで、あたし、ここに......?」
「よかった、目が覚めたんだな!なにがあったのか聞きたいのはこっちだよ!クロノモンていう古代の戦争で使われた人間を中に入れて起動するデジモンの中に入れられちゃったみたいでさ、よかった」
「!!そうだわ、あたし、バルバモンに......!!」
「ベルフェモンがコアと切り離してくれたんだぜ。ほら、戦ってる」
ジュンは飛び起きてゼロマルに捕まりながら空を見上げた。コアを失い、暴走状態になったクロノモンとベルフェモンが戦っている。
「ベルフェモンッ!」
ジュンの叫びに呼応してデジヴァイスがまた輝いた。青く紫帯びたデジヴァイスの画面に言葉が表示される。
LEVEL-666 SYSTEM:BELPHEGOR CODE:SLOTH
「LEVEL-666 SYSTEM:○○(元となった大罪の悪魔名) CODE:○○(司る大罪の英名)」
そして、ベルフェモンの司る原罪に対応した惑星を模した紋章が輝いた。そして、デジヴァイスにあったリミッターがすべて解除され、ベルフェモンは全盛期の力を取り戻す。
ベルフェモンは咆哮した。ビリビリとした振動が世界を振るわせた。
「ウインドガーディアンッ!」
ゼロマルが翼で風を巻き起こし、クロノモンの波状の遠距離攻撃を吹き飛ばす。
「今だ!」
ベルフェモンは怠惰の冠から力を漲らせ、真紅のエネルギー波を最大出力で爪から放つ。
「セブンス・ペネトレートッ!!」
「シャイニングVフォースッ!!」
ゼロマルもクロノモンに光属性の威力をもつ物理攻撃を放った。そして自身の活性化したデジゲノムがさらにゼロマルの素早さを上昇させ、さらにもう一撃たたきこむ。
形成は逆転した。
「グウアアアアァァァァァッッ!」
激しい戦いの末、クロノモンデストロイモードは断末魔と供に消滅した。そのデータはすべてベルフェモンに還元されていく。ベルフェモンのもつ紋章の周りにいくつもの紋章が浮かんだ。
「ふむ......どうやら意図せずデーモン以外の七大魔王全てのデータが私の所に集まったようですね。今までになく力があふれてくる」
「か、勝ったのか......?」
「助太刀感謝いたしますよ。ジュンを助けてくれてありがとうございます。そして保証しましょう。すべては私の骨肉となった。ゆえに逃亡はありえないし、転生もしていない。間違いなくクロノモンは倒しました」
「や…やったぁ〜っ!!」
「なんかすっごい礼儀正しいね、ベルフェモン!?デジモンは見かけによらないなあ」
「逆に威圧感あるけどな!そーだ、はじめまして。お前がジュンのパートナーのベルフェモンだよな?俺はタイチ。ヤガミタイチ。ホーリーエンジェモンに呼ばれてこの世界を救うために召喚されたテイマーなんだ。そんでこいつがゼロマル」
「よろしくね、ベルフェモン。助かってよかったね。ジュン、ずっとデーモンに捕まってたんだよ?僕らがなにをいってもデーモンの協力やめようとしないから心配してたんだ」
「おやおや、私としたことがそんなことになっていたのですね。ありがとうございます、タイチ、ゼロマル。そして、ジュン、ご心配おかけしてすいませんでした」
「ホントよ......ホントに無事でよかったわ......でも待って?七大魔王のデータがって、リリスモンは?」
「ああ......彼女は私を回復させるために全てを使い切り死んでしまったようです。可哀想なことをしましたね。なにを吹き込まれたのか、私を取り込めばパートナーになりかわれると思っていたようですが、どうやらジュンを助けてクロノモンを倒すには自分では無理だと悟ったようだ。途中で仲間が離脱した時点でリリスモンに勝ち目はなかったのでしょう」
「仲間?」
「そーだ、ネオのやつ途中で離脱しちゃったんだよ!あいつがいなくならなかったら、リリスモンも死なずにすんだのに!」
「えっ、ネオ君が?」
「そうなんだよ。ネオのやつ、真っ赤で強そうな機械型デジモン連れてたし、軍勢率いてたのにさ。なんか気持ち悪いピンク色のデジモン召喚してから色々変だったな、そういえば」
「ピンク色?」
「うん、そうなんだよ。成長期くらいのくせにクロノモンと互角に戦っててさ、ネオの育成力はほんとにすごいよな」
「違うわ」
「へ?」
「きっとネオ君はクロノモンやベルフェモンのデータが欲しくて、わざと戦いに参加したのよ。超究極体のサンプルも得られるから」
「..................は、はあああッ!?超究極体ってあのデーモンが蘇らせちまったっていうあれ?」
「そう、あれよ。私が最後に見た時はまだ幼年期だったけど......成長期になっちゃったのね。あいつは攻撃をはじめとしたあらゆるデータを糧に体の分解と取り込みと再構築を繰り返して際限なく強くなっていくデジモンの原子データみたいな存在なの。デジゲノムの時点で自我があったんだから恐ろしいものだわ」
ジュンの言葉にタイチたちは空いた口が塞がらないのだった。