14

それは、クロノモンというかつてこの世界の戦争で造られた人造デジモンの生産工場で起こった。

リリスモンはジュンと共にバルバモンに呼ばれてやってきたのだ。ジュンのデジモン図鑑にも載っていない古代デジモンである。デーモンの軍勢に新たな力とするためにジュンの力が必要だと言われたのだ。

「これがクロノモン?なんだかイメージと違うわね。クロノスがモチーフなのかと思ったけど、神じゃなくて鳥なんだ」

不思議そうにジュンはカプセルに浮かんでいるクロノモンを眺める。

「超究極体......あのデーモンが復活させたがってるデジモンとはまた別なのよね?」

「同じところに封印されておったが、どうも目的の個体じゃなかったようじゃのう」

「だからあたしが知らなかったのかな」

「お前さんはデーモン城地下でワシらの復活が最優先事項じゃったからのう」

「まあね。そっか、おかしいとは思ってたのよ。一体だけで戦況がひっくり返るわけないもの。やっぱり量産体制ができてたわけね。謎が解けたわ。これが昔の大戦の遺産なわけだ」

ジュンはじっとクロノモンを見つめている。

「クロノモン......ねんね?」

「そうね、ねんねしてるわね。起こしてあげないといけないからあたしがいるのよ」

リリスモンはうなずいた。

「クロノモンはテイマーの人格に触れることで善にも悪にもなるという。その謂れがほんとうなら、お前さんが触れたなら善でありながら悪にも加担するやつになるんじゃないかのう」

「人聞きの悪いこと言わないでよ。あたしはパートナーを人質にとられてるだけなんだから」

バルバモンは意地の悪い笑みを浮かべた。

クロノモンという超究極体デジモンは、テイマーの人格が邪悪に満ちていれば邪悪な姿に、正しき心に触れて究極進化したときには聖なる姿になるという。

ジュンは言われたとおり、クロノモンの前に手をかざした。そして。

「───────っ!?」

いきなりだった。クロノモンが眠るカプセルポットから幾重ものコードが伸びてきたかと思うと、いきなりジュンに襲いかかったのである。

「ジュン!」

悲鳴をあげたリリスモンが助けようとする。無数の蝶が舞い、コードを腐らせていくが追いつかない。あっというまにジュンはデータドレインされ、クロノモンのカプセルポットに吸い込まれてしまった。その腹部にむき出しになっている謎の空洞にジュンが現れる。リリスモンはバルバモンを睨みつけた。

バルバモンは高笑いする。

「超究極体のデジゲノムをぶち込まれたくらいで自分がなにものであるか忘れてしまった愚か者め!お前と一緒にするな!わしは当然のことをしたまでよ!」

バルバモンは思い出せとばかりにリリスモンにいうのだ。

七大魔王とは、悪魔・暗黒系のデジモン達の頂点に立つ七体の魔王型デジモンの総称だ。断じてテイマーと馴れ合うような存在ではない。

ダークエリアと呼ばれる、寿命を迎えたり戦いに敗れて消滅したデジモンが送られる冥界のエリアが存在し、その最下層コキュートスを根城とする。
彼らに葬られたデジモンは輪廻転生(デジタマに還元)する事なくダークエリアの中心へと送り込まれ、魔王達の血肉となる。

魔法陣や紋章の様な見た目をした“大罪の冠”を持っており、元ネタとなった七つの大罪の象徴悪魔や惑星記号などが描かれている

その余りに強大な力から、全ての平行世界に存在させる事で力を分散させているため、一つの世界に存在する七大魔王達を全て倒してしまうと世界から罰を受けるという。

バルバモンにそういわれてもリリスモンにとって、そんなことどうでもよかった。生まれたときから世話をやいてくれたジュンが目の前から消えてクロノモンに取り込まれてしまったという事実に発狂したのだ。

「返して!ジュン、返してー!!」

泣き叫ぶリリスモンの稚拙な攻撃などバルバモンには通用しない。

リリスモンはジュンを返せと憎悪に満ちた感情に駆られ、あまりに幼い心に嫉妬がうごめく。心の中の負を鮮明に感じる。抑えきれない情が燃えるように瞳を火照らせた。リリスモンは色の違う絵の具みたいにグニャアとなにかが混じり合うのを感じた。一刻の休息もなく癌のように増殖しつづける嫉妬の自家中毒となる。大釜のなかのコールタールのように、雨上りの噴煙のように、泥といっしょに湧き立つ熱泉のように、はげしく掻き立てた。リリスモンの自身の地底の怒りが噴火したのだ。

そして、バルバモンはリリスモンに倒されたが、クロノモンは起動し、リリスモンはジュンを取り戻せないまま敗北をきっした。

「なるほど。バルバモンの独断専行か」

ネオはデーモンからバルバモンが行方不明だと聞いてこちらの研究施設を訪れていたのだ。壊滅した研究施設でボロボロになっていたリリスモンを見つけ出し、肝心のジュンとバルバモンがいない。なにがあったのかと思えばクロノモンの暴走とは聞いて呆れる。

「放っておけといったのに、超究極体に手を出すからだ。手に負えないから手を出さなかったというのに」

ネオは治療されるまでもなく、バルバモンをデータドレインして治癒してしまっているリリスモンをみる。生贄が生贄を取り込んだだけだ。バルバモンのデータはリリスモンの中にあるのだから問題ない。問題はリリスモンはジュンのいうことしか聞かないということだ。まだ生贄にするには準備が必要である。

「たすけて、ジュンたすけて」

今恩を売ればいうことを聞くようになるかもしれない。

「いいだろう、助けてやる。ただし、忘れるな。これは貸しだ。いつか利子をつけて返せ」

「?」

「なんでもいうことを一回聞け、ってことだ」

「うん、わかった」

ネオは笑った。

クロノモンはジュンのパソコンまで取り込んでいるようだから、探すのは簡単だ。この世界とは明らかに違う電子反応を示す電子機器を探せばいい。ネオはリリスモンと一度デーモン城に戻り、巨大モニタからその場所を特定した。

その時だ。地下深くで爆発がした。なにかが揺れた。

「なにか、生まれたのか?七大魔王のデジタマが」

「ククク......どうやら他のデジタマはすべて食い尽くされたようだ。ベルフェモンめ、こちらの世界の自分も食べたようだ。ジュンの危機にパートナーの本能が目覚めたようだな」

デーモンの言葉にネオは言葉につまる。

「あれだけ強固な封印がされていたのに?」

「パートナーと選ばれし子供というものは想像以上に硬い絆で結ばれているらしい」

にしては落ち着いているデーモンである。ジュンとベルフェモンを拉致した時点で予測の範囲内だったのだろうか。

「おそらくベルフェモンはクロノモンのところに向かったようだ」

「ジュン!」

リリスモンが飛び出していく。ネオはその後をおいかけたのだった。








遥か昔、雷神は牛の頭を釣り針に付け海に垂らし、大蛇を釣り上げようとした。大蛇は暴れ、岸には波が押し寄せた。 大蛇と雷神は激しく戦い、周りの水は巻き上がった。雷神は大蛇の頭に槌を打ち付けたが沈没を恐れた船乗りは針を外し、大蛇は再び海中へと戻った。


もし、この世界にデジモン黙示録が残っていたのなら、リヴァイアモンについてこうした記述が見つけられたにちがいない。

ベルフェモンがダークエリアの最深部を破壊して地上に出ようとした時、その地震に不快さを感じて怒りを覚えたのはダークエリアの海を泳いでいたリヴァイアモンだった。

その大きさのため、デーモンすら好き勝手させているレベルの大きさを誇り、収容することはできず、また将来に渡っても収容されることはない唯一無二の存在だ。なぜならデジタルワールドのどんな構造物も、SCP-169を収容するに足る大きさと強度を持たないからだ。

ゆっくりとした速度で移動して、彷徨っているだけのようにも見えたリヴァイアモンが激怒したとデーモン城の住人たちが知ったのは、津波が起こったからだ。海が割れるほどの振動である。それはリヴァイアモンの咆哮だった。

その巨大さゆえ海を泳ぐときには波が逆巻くほどで、口から炎を、鼻から煙を吹いた。リヴァイアモンが姿を現したのだ。口には鋭く巨大な歯が生えている。体には全体に強固な鎧をおもわせる鱗があり、この鱗であらゆる武器を跳ね返してしまう。その性質は凶暴そのもので冷酷無情。この海の怪物はぎらぎらと光る目で獲物を探しながら海面を泳いでいたのだが、空に敵がいるのだと気づいたのか翼を広げた。それだけで大地が裂け、海が割れ、空が歪んだ。天変地異にさらされたデーモン城はすさまじい地震と津波にさらされることになる。

リヴァイアモンは真っ直ぐにベルフェモンに向かう。互いに超究極体のデジゲノムをデジコアに組み込まれ、本来と大きく姿が変わっている。

さながら大怪獣の戦いだった。


ベルフェモンはジュンを助けるためにはやくダークエリアから離脱したいらしいがリヴァイアモンがそれを許さない。敵と見なしたベルフェモンは咆哮する。破壊衝動が増しながら、さらに直感が鋭くなっているようで、リヴァイアモンの破壊する対象を見極めて潰していく。まずは視界を奪った。完膚なきまでに叩きのめしたが、リヴァイアモンのさらなる激昴を呼んでしまう。その尻尾から繰り出される強烈な一撃を薙ぎ払うために怠惰の冠から力を漲らせ、真紅のエネルギー波を最大出力で爪から放つ『セブンス・ペネトレート』が炸裂した。

リヴァイアモンは翼腕が背中から生え、有り余るエネルギーを噴き出すことで飛行能力を得ている。陸海空は全てを喰らわんとするリヴァイアモンの餌場となっているのだ。不愉快な敵を餌にすることにしたらしい。触手状の尾で敵をまとめて串刺しにする『カウダ・モルティフェラ』がベルフェモンに防がれてしまい、分割した三つの顎で敵を噛み砕く『ロストルム・トリアデンス』が不発に終わる。しぶとい敵にリヴァイアモンの目がみるみるうちに変わっていった。

リヴァイアモンが内包する嫉妬のエネルギーが頂点に達し嫉妬の冠が輝いたとき、三本の角から超強力な雷『セブンス・ライトニング』を放たれた。軌道がそれ、そこにあった大陸が海に沈んだ。


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