プロローグ

「......どう考えてもディアボロモンよね」

3月4日の騒動を起こした新種デジモンの進化系列にこのたび名前がついた。なぜなら今ジュンの卒業制作であるデジファームが何者かによりばらまかれ、現在進行形で犯人を捜索中だからである。ジュンが用意したモンスターではなくキモかわいい1つ目のクラゲを育成するプログラムに変わっているのだ。エージェントたちがネット中の不正配信を消しているのだが、一度ネットに流れてしまったものは消えない。消したら増える。ネットのコンテンツの著作権などの理解がまだ不十分な混沌とした時代の影響がもろに出ていた。

「今、世界中に何億匹いるんですかね、クラモン」

「わからん......わからんが、さいわい普通のデジモンは成長期以上にはなかなか進化しにくいからのう。どういうわけかあの時のクラモンと違って進化速度が遅いうえにデータを食わん。まるでただの育成ゲームのモンスターじゃ」

「怖いのはテイマーの才能がある人がデジファームを手にしちゃうことなんですよね......」

「たしかにそうだな。ほら、この通りだ」

ネットに流布するデジファームをやっていた治は成熟期に進化した個体を見せるのだ。

「言ってる傍から......!」

「こいつ、意思はないみたいだな。一言も喋らない」

「そうなの?」

「ああ」

ジュンはふかぶかとため息をついた。

「こっちは推薦入試が1月に迫ってるんですけどー!?勘弁してよ、もう!とんだクリスマスね!」

「すまんのう」

「ディアボロモンが悪いから仕方ないですよ。そもそもパソコンの中に入り込まれたことがあるアタシが悪いんですから、気にしないでください」

ジュンは笑った。

「とりあえずサーバを特定すればいいわけね」

「ああ」

ジュンたちはゲンナイさんの隠れ家にて不届き者を探していた。

「なんじゃと!?」

「どうしたんですか、ゲンナイさん」

「選ばれし子供達のパーソナルデータの情報が盗まれたようじゃ」

一瞬、時がとまった。

「嘘でしょ?」

「?」

「パーソナルデータ?」

「この世界に来る時、選ばれし子供達は0と1に変換されておる。バックアップがあるから現実世界にいっても記憶を還元できる。そういったものを保存しておるエリアに不正アクセスの痕跡が見つかったんじゃ」

ジュンは寒気が止まらない。

「偽物がパートナーデジモンを進化させることはできるんですか?」

「考えるだけでも恐ろしいが、偽物が精神性すらコピーしていたら否定することは難しい」






「たすけてくれ!」

見たことも無いデジモンがデジタルゲートから飛び込んできた。

「私の名前はコクワモン!たすけてくれ、ゲンナイ爺!選ばれし子供達!」

コクワモンはでかいでかい鍵のようなオブジェクトをかかえてあらわれた。

コクワモンは新たに発見された非常に珍しい昆虫型のメカデジモンだ。昆虫型メカデジモンは今まで発見されておらず、その存在自体も考えられていなかった。スタンガン状の頭部と両腕を持ち、危険を察知すると100万ボルトの電気を放電させるため、うかつに近寄れない。しかし、攻撃的な性格ではなく、平穏を求めるおとなしい性格である。電気を栄養源としており真ん中の2肢で電力を充電する。必殺技は両腕の鋏を放電させて硬いものでも切り裂いてしまう『シザーアームズミニ』。

「きみは?」

「どうしたの?」

「......まて、その鍵はまさか!?クラビスエンジェモンになにかあったのか?」

京は首を傾げる。だがジュンと治と賢は顔を上げるのだ。

「クラビスエンジェモンて?」

「えっとね、デジタルワールドのゲートを管理してるすごいデジモンなんだよ!」

「そうなの!?」

「うん、究極体なんだ」

「しかも究極体!」

「なにがあったんだろ?」

賢と京の視線の先にはゲンナイがいた。

「あの時計がまた動き出したかと思ったら、いきなり真っ二つに割れたのです。そして空間が裂けた。時間が裂けた。世界が裂けた」

「なんじゃと!?」

ゲンナイさんは急いで別の巨大なモニターを出現させていく。

「ば、ばかな......」

選ばれし子供達がみたのは、地球にに丸い世界が真っ二つに割れる光景だった。

「2つの世界の間に巨大な裏次元が発生しているのです。今、デジタルワールドには巨大な時間の流れがふたつある。このままではデジタルワールド全体が裏次元から崩壊してしまう!」

「それはいかん!はやく裏次元を塞がねば!·····時間がふたつ流れているといったな。まさか、きみは?」

「はい、私はクロックモンでした。世界が分かれたせいで体が裂け、もう片方の私は裏次元に飲まれてしまったのです!」

「いかん、デジタルワールドの時間をはやくひとつに戻し、コクワモンを取り戻さなければ!」

「裏次元には恐ろしいデジモンがいるようです。クラビスエンジェモンは私までさらおうとしたやつから庇って·····」

「そうか、そうか。よくぞ知らせてくれた、コクワモン。ディアボロモンの動向も気になるがデジタルワールドの危機じゃ。手が空いている選ばれし子供達を呼ばなくては!」

デジタルワールドにおいて裏次元の入口が確認できたのは3箇所。1つ目がアイスサンクチュアリ、2つ目がオーガ砦、3つ目が闇貴族の館。それぞれ空間に亀裂が入っており、裏次元はダークタワーがたくさん立っているのがわかった。

「ダークタワーを壊さないとみんな進化できないわね。つまり、アタシの出番ね、アスタモン」

「そうですね。闇貴族の館はワタクシの管轄ですから、こちらからアプローチしましょうか」

「ダークタワーか、大輔たちにも力を貸してもらわねばならんな。アーマー進化はダークタワーの妨害で進化バンクにアクセスできなくても問題は無い」

「わかりました。大輔たちにディーターミナルで連絡いれますね。アタシが付き添えばなんとかなるわ」

「裏次元のダークタワーを破壊して拠点が確保できたらデジタルゲートを構築しよう。なんとかを急いては事を仕損じるというからの、慎重にな」

「了解です」

ジュンはうなずいた。そして、アイマートでクリスマスセールの売上に貢献していた大輔たちはただちに京の家からゲンナイさんの隠れ家に急行するのだ。

「よく来てくれた、選ばれし子供達よ。早速なんじゃが、これダウンロードしてくれ」

「なんですか、これ」

「進化バンクをディーターミナルに入れるためのアプリじゃ。新たなる進化経路が開拓できないデメリットはあるがぶっつけ本番でやるしかない。ヴァリアブル機能というんじゃ。一定時間の間だけ進化することができる。完全体から究極体。完全体になってから進化経路が現れる」

ゲンナイさんはためいきだ。

「ほんとうはオメガモンのメカニズムにより解析されたジョグレス進化を解禁したかったんじゃがな、制御するだけのエネルギーが確保できなかった」

「仕方ないですよ、ディアボロモンを倒すには今度こそウィルス種なのを利用してタケルくんと光ちゃんにはがんばってもらわないといけないんですから」

「そうじゃな·····ままならんもんじゃ」

「今回のみんなの仕事はデジタルワールドに出現した裏次元の調査よ。ダークタワーっていう普通の進化を妨害する塔を破壊しないと、ほかの子供たちが救援にいけないの。だからアタシたちが破壊し、フィールドを広げていくのが役目ね」

ジュンの言葉に大輔たちはうなずいた。

「ゲンナイさんからもらったヴァリアブル機能は裏次元にいると思われる脅威のための対策よ。金色のデジメンタルは短時間しか進化できないみたいだから、少しでも手数を増やしたいしね」

そして、大輔たちは裏次元にいくため闇貴族の館のデジタルゲートをくぐったのだった。

「思ってた以上にすごいわね、闇貴族の館が壊れてるなんて」

ジュンは大きな裂け目が突然発生したと教えてくれたアスタモンと亀裂をみつめる。闇貴族の館はその裂け目に落ちてしまい、すでに消失していた。まるで巨大な海溝だ。裂け目は縦に真っ直ぐ伸び、亀裂が左右に細かく拡がっている。

裂け目を見ていたら、その中に宇宙が見えた。デジタルワールドも外に宇宙があることは知っているが、普通距離的に見えるわけがないのに、確かに見えた。裂け目の中をみていると、そこに青い曲線があった。

「なるほどね、これが裏次元。もうひとつの世界にも繋がってるわけか。このままじゃ地面の下からもうひとつのデジタルワールドが出てくるわね」

裂け目の向こうに青い線が見えた。アスタモン曰く、最初は目を凝らさなくても見ることが出来たが、時間が経過するごとに細くなっていった。まるで水溜りに滴が落ちて波紋が広がるように、青い線は遠くに離れていった。

青い線が遠ざかるにつれて辺りは夜のように、いや、宇宙のような景色に変化していった。最初オーロラのような色をしていたが、海の紺碧と、空の群青を反映したかのように変色していった。周りの風景と合わさって、宇宙にポツンと浮かぶデジタルワールドのようだった。デジタルワールドの中にデジタルワールドがあるようにしかみえなかったという。

「デジタルワールドの地理に物凄い詳しいわけじゃないんだけど、ダークエリアなのかしら、あれ」

アスタモンは首をふる。

「ダークエリアはここまで広大な場所ではありませんよ」

「そう、ちがうんだ。デジタルワールドの最深部とかいうからてっきりそうなのかと」

「デジタルワールドはいくつもの表層に別れてこそいますが宇宙空間はないですよ」

「そうなんだ。地球空洞説採用してるのかと思ってたわ」

ジュンの言葉に京がなんですかそれと問いかける。それは地球の中核は空っぽで、空白部位に知的生命体や未知の惑星があるのではないかという説だ。空白部位に今の地球より小さな地球が入っている。

わかりやすくいうならば、我々の住むこの地球は、中身の詰まった球体ではなく、ゴムボールのように中空であったり、別世界へ繋がっているという考え方だ。「人類の居住している地球表面が、実は無限に続く岩塊の中に存在する、泡状の球体の内部であり、太陽や月や星は、空間内部に浮かぶ雲のようなもの」といいかえることもできる。

これが採用されているならばデジタルワールドが破壊され中身が出ている段階ということだ。

京たちはあんまり顔色が良くなさそうだった。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -