14話

オメガモンが旧デジタルゲートの空間に突入したとき、遼はミレニアモンを必死で説得しているところだった。

「お前さ、遼のパートナーデジモンなのがうらやましいって思ってるおれの気持ちちょっとは考えろよな!なんか難しいことごちゃごちゃいいやがって!」

サイバードラモンが吠えている。

「どれだけ頑張ったっておれは遼のパートナーデジモンになれっこないんだからな!なんでお前なんかがパートナーデジモンなんだよ!おれに譲れ!」

「サイバードラモン......」

「驚いた。選ばれし子供のパートナーではなく野生のデジモンをパートナーにするとは。いい度胸だ」

「うわあっ!」

「サイバードラモン!」

遼はあわてて壁に激突してずるずると壁を伝って落ちてきたサイバードラモンの所にとんでいく。

「貴様になにがわかる。いうに事書いて譲れだと?」

その言葉はミレニアモンにとってこの上ない侮辱だったらしい。

なにがあってもいつだって惹かれあうまるで呪詛のような特殊すぎる関係だ、とミレニアモンはいう。別次元ならばテイマーとデジモンの関係でいられたのに。パートナーと選ばれし子供という概念を八神光と八神太一がコロモンと出会ってミレニアモンが生まれる運命のデジタルワールドにもたらしたばかりに。そしてミレニアモンが生まれてしまったばかりに。たとえ敵対することになっても磁石みたいに、離れてたって、いつだって、そばにいることが前提の関係性が互いに互いを苦しめている。

「ミレニアモン......お前が太一たちを執拗に狙ったのはいちばん強いからだけじゃなかったのか」

「そうだ。1995年3月4日の光が丘テロ事件の発生だけはどうしても防ぐことができない。歴史の改変をすることが出来ない。八神太一のウォーグレイモンがムゲンドラモンを八神光の力を使って倒さなければ私は誕生することができないからだ」

そのジレンマによる苛立ちがより執拗な罠をしかける方向へとつながっていたようである。かつて殺したくないけど殺さなければデジタルワールドは受けいれることが出来ないとミレニアモンに告げてしまったことを遼は噛み締める。今となってはあまりにも見当違いな宣言になってしまっているからだ。

もうひとりの自分だから、そんなこといっちゃいけなかった。ポツリと零された言葉にミレニアモンは嘲笑する。聞き飽きたとばかりに遮るのだ。干渉すら許してはくれない。

「お前たちはお前たちのデジタルワールドを守らなければならない使命があるだろう。今更謝ってなんになる。口先だけだな、お前は。いつだって」

ぐ、と遼は言葉に詰まる。並行世界の遼と巡り会えずひたすら次元を飛んできたミレニアモンが、遼といられないなら世界を滅ぼそうとしていると言外に言われたようなものだったからだ。

ミレニアモンは口を開いた。

「この世界のお前は知らないだろうが、私は何度もお前と戦ってきた。倒されてきた。だがダメだった。私は死にたくないという理由だけで時間を超える。世界すら超える。だから絶対に倒せない。これは生存本能だ。私の存在意義だ。それを否定することなどできはしない。私の因果律の中心にはいつだってお前がいるのだ。それがどういう意味かわかるか。お前が強くなるほどに私はどんどん強くなっていくのだ。パートナーとパートナーデジモンのつながりはパートナーデジモンを強くしていくのだから」

「ミレニアモン.......やっぱりお前.......」

「前のお前は大好きなパートナーデジモンだといってくれたな。いくらデジタルワールドにとっての脅威でも。だがいつだってお前は私の手をとってはくれない」

「え?」

「何故私が未来のデジタルワールドに行こうとしているかわかるか。今のデジタルワールドは私を受けいれるキャパシティがない。なら未来はどうだ。何体ものデジモンと選ばれし子供たちがくらす未来は!」

「それは......」

「それが途方もない未来だとして、お前はついてきてくれるのか。殺したくない、助けたい、そんなことをいうお前は」

遼は静かに首を振った。

「それは出来ない。それは出来ないよ。僕には家族がいる。友達だっている。ミレニアモンの手をとるってことはみんなとずっとお別れしなくちゃいけないってことだろ。僕には無理だよ」

ミレニアモンは高らかに笑った。

「お前はいつだってそうだ。大事なパートナーデジモンだといいながら救う方法など微塵ももちえない!」

「でも一緒に探すことならできるだろ!」

「一緒に?どうやって。一緒にいられないのが問題だというのに」

「それはそうだけどさ」

「秋山遼、私はもうあきらめたのだ、貴様には。なんの期待もしていない。するだけ無駄だとわかったからだ」

「ミレニアモン......でも僕はお前を諦めたくない!」

「そうか、あくまでもどの次元のお前も最終的にはそういうのか。ならば証明して見せろ。ENIACがいうようにお前が本当に不可能を可能にするランダムな因子を持つ存在だというのならば、この運命を変えてみせろ。私の前で」

ミレニアモンは亜空間を広げ始める。遼だけではない、自分もまきこんでいく。そこにあるのはミレニアモンの精神世界、その中心にはムーン=ミレニアモンがいた。

「お前と私は陰と陽の関係だ。私に証明して見せろ、運命を超えられるのかどうかを!お前への復讐心が力を増幅し、倒すことはできず、そして倒れる度により強力になって復活するこの運命を!私が邪神でなくなるとき、それは復讐心が消えた時。到底来るとは思えんがな 」

そして高らかにさけぶのだ。

「ディメンジョンデストロイヤー!」

「な、なに考えてんだよ、ミレニアモン!そんなことしたら僕だけじゃなくお前まで!」

「この亜空間は旧デジタルゲート空間ごと巻き込んだ。おそらく暴走した挙句に時空の亀裂が発生するはずだ。かつてエテモンたちを暗黒の海に飛ばし、八神太一たちを現実世界に飛ばしたものとは桁違いの規模のものがな!だからいったはずだ、共に時空を超えるのだ秋山遼。貴様だけ現実世界で何も知らないまま生きることなどどの次元であっても許しはしない!死んだならそれまでだ!」

「考え直せよ、ミレニアモン!早まるなってば!!」

「なにしてんだよ、お前!結局ひとりぼっちは嫌なんだろ!一緒に生きていきたいからって無理やり連れていくつもりなだけじゃねーか!」

「うるさい黙れ。外野は黙っていろ!」

「「いや。黙ることはできないな」」

「「オメガソード!!」」

亜空間に光が走る。ミレニアモンと遼、サイバードラモンもろとも時空の彼方に消し飛ばそうとしていた亜空間が、真っ二つに破壊され、0と1になってとけていく。不正に構築されていた亜空間が初期化され、もとの旧ゲートが再構築されていく。

「「遼!サイバードラモン!」」

「オメガモン!」

「なんかすげーやつがきた!」

ムーン=ミレニアモンの精神世界が崩壊し、またミレニアモンが姿を現す。ミレニアモンは亜空間に閉じ込めようとエネルギー砲を発射した。

「あぶない!」

遼が叫ぶ。光に包まれたかと思うとオメガモンがウォーグレイモン、メタルガルルモンに分離して、遼とサイバードラモンを回収して距離をとってくれた。

「間に合ってよかった」

「なに1人でつっぱしってんだよ、遼!俺たち仲間だろ!」

「ご、ごめん......」

「みんながパラレルモンを引き受けてる間に来れたんだ。オメガモンはミレニアモンの天敵だからな」

「ったく、遼たち巻き込んで自爆しようとするとか何考えてんだよ、お前なあ!ちっとは話を聞かせろっての!!」

「全くだ」

「いつもいつも私達の邪魔ばかりするんだな、八神太一、石田ヤマト。そしてオメガモン。ならば相手をしてやろう」

「かかってこいよ!」

「いいぞ、こい!」

ミレニアモンは高笑いする。

「2対1は不公平ではないか?公平に2対2といこう」

ミレニアモンがそう宣言した瞬間、ミレニアモンの体から黒い粘着質の液体が分離し、新たなデジモンが形づくられていく。やがてそれは一体の究極体を生み出した。

「こいつはメタモルモン。過去に戦ったことがある全てのデジモンに変身することが出来るのだ。しかもそれ以上の強さとなる特性がある。お前たちにはおあつらえ向きのデジモンだとは思わないか?」

「......ま、まさかこいつの力を使ってVRデジモン達をつくってたのか、ミレニアモン!」

「答える必要などない」

ミレニアモンは宣言するのだ。

「メタモルモン、お前にあたえる姿はこのデータだ!」

ミレニアモンはあまたの平行世界を渡り歩いた経験。暗黒の種の配下たちのみた記憶。ダークマスターズのムゲンドラモンだった過去からアポカリモンに通じているデジモンのデータチップにいたるまで。膨大な情報から導き出したデジタルモンスターの情報をメタモルモンに渡すのだ。

メタモルモンはみるみるうちに姿を変えていく。

「オメガモンかよ、VRデジモンでもいただろ!」

「いや待て太一。あれはただのオメガモンじゃなさそうだ」

「えっ」

それはオメガモンのようでオメガモンではなかった。真っ黒に染まり、禍々しいオーラを放つそれが赤い瞳を宿す。そして古代デジ文字でファイナライズと書かれているオメガソードを構え、ウォーグレイモンたちに襲いかかった。

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