6話

ウォレスは、売店のカウンターに背伸びしてフィラデルフィア行きのパンフレットを差し出した。小さい子供に店主は眉を寄せる。

「これください、ママのお使いなんだ」

9歳くらいの小さなお客様に中年の黒縁メガネの女性はウォレスの指さす先をみる。男性と立ち話をしている太っちょの女性がいた。店主はぶっきらぼうに支払うべき金額を教えてくれた。ポケットからお札を出す。お使いなら高額紙幣も違和感はない。まさかママのヘソクリを勝手に持ち出してるなんて思いもしない。まして、あの人たちが親ですらないなんて。店主はウォレスにパンフレットを差し出した。

「ありがとう」

ウォレスはリュックに隠しきれないテリアモンをしょいこみ、パンフレットを広げた。

ニューヨーク州とワシントン D.C. のほぼ中間にあるフィラデルフィアには、歴史的な名所や魅力的な近隣地区、話題の飲食店が混じり合ったおもしろさがある。

人気の観光地のほとんどは、中心部の歴史地区に集中している。インディペンデンス国立歴史公園は 1776 年に、アメリカ合衆国が英国から独立を宣言した場所であり、有名な自由の鐘もある。徒歩圏内に、食料品の屋内複合市場、レディング・ターミナル・マーケットと、公立公園がある高級地区のリッテンハウススクエアがある。

世界的な所蔵品を誇るフィラデルフィア美術館へも立ち寄ってほしい。ここの階段は、映画『ロッキー』シリーズで有名だ。美術館の正面玄関の一番下で、ロッキー・バルボアと共にポーズをとって写真を撮ろう。スクールキル・リバー・パーク沿いに美しい川の風景を眺めながら歩いて行くと、ダウンタウンに戻れる。

美術館と歴史以外に、活気ある食の世界も魅力だ。川辺にある有名なアウトドアスタンド、パッツ・キング・オブ・ステークスとジーノズステークスでチーズステーキサンドウィッチを食べるのを忘れずに。

「よし」

張り巡らされている路線図の中に記憶の彼方からひっかかりを感じる駅の名前。パンフレットの中に風景を見つけることが出来た。いつ祖母に電話するかまでは考えていないがフィラデルフィアにいけばなんとかなるという根拠もない自信があった。

大輔とジュンは大人たちと一緒にきっと中華街を経由する格安バスなり乗り換えが必要な地下鉄なりウォレスと同じアムトラック(他の会社の貨物路線を使って走っている為、他社の影響を受けやすく大幅な遅延がよく発生する私鉄)に乗り込むに違いない。サマーメモリーズに行かなければならないということは事実だろうから。

ウォレスが遅延だし進行も遅いアムトラックを選んだのは最終目的地である農場一面に広がる黄色い花畑を通るからだ。ほかの交通機関だとタクシーを使わなければならないし、お金を考えるとこの方が安いし早くつく。

ウォレスは店主の視線が野球中継に切り替わるまで慎重に太っちょの女性のすぐ後ろをついていきながら、人混みに紛れて切符売り場に向かった。

行き先と、行きと帰りの日付、出発希望時刻の書いた紙を渡すと係の人が一覧のようなものを示し「この時刻にありますが」と言ってくれたので購入できた。

あとは大きな電光掲示板の電車の出発予定をみるだけだ。自分の電車が何番ホームかを確認して、時間になったらホームに行けばいい。

やってきたアムトラックに乗り込む。寝台席以外は自由席の特急だから最初からどんどん歩いていき人が少ないところを探していく。ようやく見つけたのは一番後ろの車内だった。

ようやく息を吐いて座る。ウォレスはテリアモンを下ろした。

「つかれたー」

小さい声でぐったりと席に転がるテリアモンは人形の振りをしたままつぶやくのだ。ウォレスはママから勝手にくすねてきた携帯をみた。

「ウォレスのママ、怒ってるだろうなあ」

「うわあ」

「どーしたの?」

「ばれてる」

ウォレスが見せてくれたショートメールには父親の携帯電話からたくさんメッセージが入っていたのだ。ウォレスが勝手にいなくなってからずーっとだ。

「はやい。思ってたよりずっとはやい」

「ウォレスのパパ、ママに忘れるなって確認してたもんね」

「うん」

「どうするの?」

「どうもしないよ。バレちゃう」

「大輔たちにも内緒?」

「うーん......」

「前に駅についたってメール送ったっきりだよね?」

「だってチョコモンが......」

「うん、わかってる。わかってるけどさあ。大輔もジュンもすごーく心配してるんじゃないかなあ?」

「うん、わかってる。パパの次に来てる。あ、また来た」

「どれー?」

「これ」

ニューヨークからフィラデルフィアに向かう貨物列車と連結した特急の景色には目もくれず、ウォレスはテリアモンに携帯電話をみせた。

「えーと」

「あ、ばか、ひらいちゃ......」

「ウォレス、大輔すごーく心配してるよ。ジュンみたいにいなくなったんじゃないかって」

「えっ、ジュンまで!?」

「うん。マイケルと同じ消え方だって」

ウォレスは息を飲んだ。マイケルは同じ学校の友達でウォレスより先に選ばれし子供になっていた友人だ。野球の練習中に白いデジヴァイスからアラームが鳴り止まず監督に言われて切りにいったら冷たい風が吹いて、みんなが目を開けると忽然と姿を消していた。ウォレスがデジヴァイスを手にしたのは最近で、選ばれし子供のコミュニティがあると教えてもらっていたから、ホームページをみたら世界中で騒ぎになっていたのだ。

目撃情報や謎のデジモンがウォレスとテリアモンを探していることがわかった。未だにデジタルワールドの危機を救ったことがないウォレスは狙われているのではないかとみんな心配してくれた。

だからウォレスは1人旅に出る決意をしたのだ。誰にも言わないで、ひとりで。この大事件の犯人がチョコモンだと思っていたから。

「その白いデジヴァイス、もってるの、もうウォレスだけだって」

ウォレスは首を振った。

「ちがう。まだ、いる」

「うん、そうだね」

「おばあちゃん......大丈夫かなあ......」

ウォレスは今にも泣きそうな声でつぶやいたのだった。

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