まさに最後の一撃がアンティラモンからガルゴモンに炸裂するその刹那。
「ウォレス───────!」
ぴたり、とアンティラモンは動きを止めた。大輔の声が空から降ってきた。ウォレスが空を見上げると三体のデジモンたちがいて、そのうちの一体が大輔を乗せたまま飛んでくるではないか。黒い体の四足歩行のデジモンで雷マークのような角が特徴で、みるからに素早い動きを得意とする獣型デジモンである。首の下には8月にみたヤマトという少年が持っていた友情の紋章が刻まれている。
「ブルーサンダー!」
激しい雷撃がアンティラモンを襲った。アンティラモンは強烈な一撃にふらつき、立て直すためだろうか跳躍しながら距離をとった。ウォレスとガルゴモンを守るように大輔をのせたライオンくらいの大きさのデジモンがアンティラモンの前に立ちはだかる。
「大丈夫か?」
「うん、ありがとー。君は?」
「オレはライドラモン。大輔のパートナーさ」
「はじめましてー。僕はガルゴモンだよ。それにしてもすごいねえ、強いや」
「オレと友情のデジメンタルの相性がいいからだよ。完全体くらいの力が出せるんだ」
「へえー」
ライドラモンは説明しはじめた。デジメンタルとは、デジタルワールド初期『古代デジタルワールド期』に栄えた古代種デジモンが行った擬似進化「アーマー進化」と呼ばれる進化に必要なアイテムの総称だ。
現代、デジタルワールドで繁栄しているデジモンたち(現代種)は本来進化するためにはそれなりの戦闘経験を必要とし、また環境によって進化先が左右される。だが、「アーマー進化」は古代種及びそのデータを受け継ぐ末裔ならば、経験が有ろうと無かろうと進化可能で、進化先も決定されている。
選ばれし子供のパートナーデジモンは選ばれし子供の精神的成長や絆が進化のトリガーとなりうるが、それをライドラモンたちは無視することが出来るという。
しかも選ばれし子供の精神的性質はデジメンタルに刻まれた紋章との相性により、どれだけアーマー体の強さが引き出せるか違うという。
今のライドラモンは完全体相当の力が発揮できるという。
ライドラモンは友情のデジメンタル”のパワーによって進化したアーマー体の獣型デジモンだ。“友情のデジメンタル”は“雷”の属性を持っており、このデジメンタルを身に付けたものは大地を貫く稲妻のような素早い動きで敵に立ち向かい、電撃を利用した技で敵を倒す。必殺技は稲妻を宿した頭のブレードから電撃の刃を放つ『ライトニングブレード』と、背中の3本の突起から強烈な電撃を放つ『ブルーサンダー』。
ガルゴモンは立ち上がり、黒い雪を払う。
「大輔......来てくれたんだ」
「なーにが来てくれた、だよ、ウォレスの馬鹿!何回も何回もメールしたのに!なんで無視するんだよ、馬鹿!」
「だ、だってパートナーがいるなんて聞いてないよ。知ってたら頼んだのに」
「あーもー!!やっぱりメール1回も読んでないじゃん!何回もメールしたよ、今回の事件のために選ばれたしパートナーもいるんだってメールした!!」
「えっ、うそ」
「したっていってるだろ、馬鹿ウォレスー!どれだけ心配したと思ってるんだよ、バカ!!」
「ご、ごめん......ありがとう......」
「あーあ、大輔に怒られちゃったー。僕何回もいったんだよー?メールしたらーってさ、ずーっとずっと」
じと、と大輔に睨まれたウォレスはガルゴモンに余計なことをいうなという視線をなげるがどこ吹く風だ。
「あーでも間に合ってよかったー!このままじゃチョコモン死んじゃうとこだった」
「え?」
「チョコモン、ブラックウィルスっていう病気にかかってるんだよ、ウォレス。もし俺たちの世界で死んじゃったら二度と会えないんだ、でもデジタルワールドにいけたらまた会える。チョコモンが死んじゃう前にデジタルワールドに連れていこう」
「えっ、えっ、なんの話?」
「あーもー、やっぱりメールみてないせいだ!ウォレスのバカ!とーにーかーく!このままじゃチョコモン、俺たちの世界をぜんぶこんなふうにするつもりなんだよ!このままじゃダメだからデジタルワールドにいこう!」
「どうやって?」
「そのために俺たちが来たんだよ!」
大輔は空を見上げる。伊織がジュンのパソコンを抱えたまま、プテラノモンの上で新しいデジヴァイスを掲げた。ジュンのパソコンにデジタルゲートがひらく。そしてゲンナイさんの隠れ家にいる京がゲンナイさんと共に3月4日につかったばかりのサマーメモリーズにおけるゲートポイントをデジタルワールドに繋ぐのだ。いかんせん時間が無いためかつてのゲートをそのままひらくことになる。
黒い雪が吹き荒れる世界に突如逆さまの世界が出現した。
「......あ」
ウォレスは目を瞬かせた。
「おなじだ」
そして呟くのである。
「チョコモンとグミモンのデジタマが出てきたあの日も、季節外れのオーロラと逆さまの不思議な世界が見えたんだ。あれがデジタルワールド......」
「ウォレス!」
ガルゴモンに呼びかけられて、ウォレスは我に返る。
空から無数の弾丸がアンティラモン目掛けて降り注ぐ。アンティラモンははるか上空にいる新手と対峙すべく周囲に黒い球体を出現させた。そしてそれを投げつける。なにかを目視でおいかけている。すると、そのすきを狙ってウォレスの前にデジモンが現れる。
「私はホルスモン、大輔さんの友人である京さんのパートナーデジモンです。さあ、乗ってください。チョコモンを助ける為にも!」
ウォレスたちは頷いたのだった。
狭い地下施設を通り抜け、大輔たちは建物の外に出た。
「闇貴族の館だ!ここに繋がってたんだ!」
「知ってるのか、大輔」
「うん。お姉ちゃんのパートナーデジモンが守護デジモンしてるところ!」
「今はデジタマに戻ってしまっておる」
「大変!」
結界はゲンナイさんによって解除されており、広がるのは黒い森だけだ。
「またチョコモンの姿が変わりましたよ、ゲンナイさん!」
「いかん、究極体になってしまったようじゃ!」
「えっ」
ケルビモンを中心に世界が侵食してくる。大輔たちは時間が無いことを悟った。
ウォレスたちを下ろしたホルスモンがアーマー進化をとき、新たな力を獲得する。
「すごい、また姿が変わった」
「これがライドラモンがいってたアーマー進化なんだねー」
「アーマー進化......」
光を突き破った先に現れたのは純真のデジメンタル”のパワーによって進化したアーマー体の突然変異型デジモン、シュリモンである。“純真のデジメンタル”は“草木”の属性を持っており、このデジメンタルを身に付けたものは自然に同化する能力をもち、木の葉が舞うごとく風にかくれ、敵の死角よりあらわれて的確な攻撃を叩き込む。その姿は、まさに忍者といえる。得意技は伸びる手足の先の手裏剣を回転させ敵を攻撃する『紅葉おろし』。必殺技は、背中の大手裏剣を空中高くから敵に投げつける『草薙』。(『草薙』と『紅葉おろし』は手裏剣の名前でもある)
肩に大きな葉を持つ忍者のような姿をしており、手足はばねの様になっており、背中の大きな物も含め5つの手裏剣を持つ。 シュリモンは、ホルスモンの苦手とする近接戦闘が範疇。飛行ができない代わり瞬発力と反応速度にすぐれる形態といえる。
木々で姿を撹乱しながら、シュリモンが背中の巨大な手裏剣をなげた。ぶおん、と物凄い音を立てて手裏剣がケルビモンに襲いかかる。
今にも破れてしまいそうなほどぼろぼろの耳やしっぽを切断する。ケルビモンはバランスを崩して虚空に浮かぶ体勢がくずれた。その隙をつき、シュリモンはバネ状の両手足を使って大きく跳躍して、ケルビモンに切りかかった。
「紅葉おろし!」
ケルビモンの体のあちこちがずたずたになる。だが、ケルビモンはものともせずにシュリモンを振り払う。シュリモンはすかさず手裏剣をなげた。背中に深く深く突き刺さったとき。
「ぎいやあああああ!」
チョコモンではない、もっとおぞましい声が聞こえてきたではないか。
「そうだ、あいつだ!」
ウォレスがさけぶ。
「チョコモンに気持ち悪いデジモンがとりついてるんだ!」
「プテラノモン、お願いします!」
伊織がさけぶ。その瞬間に高度1万メートル上空からケルビモンを補足していたプテラノモンが一気に降下する。プテラノモンは翼を持つデジモンの中でも最も高い高度で飛行する事が可能とされ、滞空する高度に達することのできるデジモンは未だ存在しないらしいのだ。
上空から垂直落下し、その鋭い鼻先で敵を射抜く技で、どんなに厚い装甲でも貫き、正確無比に敵のデジコアを破壊する必殺技を繰り出した。
「ぎゃあああああ!」
なにかが破壊される音がした。すさまじい衝撃がプテラノモンたちを襲う。
「ブルーサンダー!」
「ガトリングアーム!」
ライドラモンとガルゴモンが加勢するが、その衝撃波は波紋のように広がり、瞬く間に選ばれし子供達とデジモンたちを吹き飛ばした。
「みんな、大丈夫!?」
モニターごしに京がさけぶ。
「大変です、京さん!みんなが!」
「どうし......って、なんでホークモンに戻ってるの、こんなときに?!」
「それが!デジメンタルの力が勝手に解除されてしまったんです!うわあ!」
「ホークモン!」
すさまじい旋風があたりに吹き荒れる。
「な、なんじゃあれは!」
「ホークモン!大丈夫!?わああああ、ポロモンになっちゃってる!」
「いや、あれは違う。あれはプルルモンじゃ!」
風に巻き上げられていくパートナーデジモンが瞬く間に退化していく。ポロモンはポテっとした体はシリコンのようで、這うように前進するとタプタプとゆれるスライム型デジモンに退化してしまう。
「産まれたばかりのデジモンじゃ!このままでは!」
「そんな、アーマー進化までダメなんて!そうだ、みんなは!?」
京たちの前に見えたのはどんどん退化していくパートナーデジモンと選ばれし子供達だ。
「どうして!?チョコモンに寄生してたデジモンは倒したのに!」
「まさかあれはデジモンではなかったというのか!」
「そんな!」
「落ち着くんじゃ、京!君までいっては本当に打つ手がなくなる!」
「でも!でも、プルルモンが!」
地面に転がる幼年期たち、そして大輔たちに京は悲鳴をあげた。