1999年8月1日15時26分

「もしもし、お母さん?アタシよ、ジュンだけど」

『あら、ジュンなの?八神さんのおうちからかけてるみたいだけど、どうしたの?なにかあった?』

「ううん、大したことないよ。ちょっと借りてるだけだから。やっぱり悪戯電話じゃない?太一君帰ってきてないみたいだし、光ちゃんも見てないっていうし。ミーコちゃんが脱走しちゃって、光ちゃんが捜しに飛び出しちゃったけど、今は大丈夫よ、ミーコちゃんも光ちゃんもつれて帰ってきたから。一人は寂しいっていってるから、ちょっとお邪魔させてもらってるだけ」

『そうなの、光ちゃんもまだ小学校2年生だもんね、仕方ないか。そう言うことならいいわ、付き添ってあげてね』

「うん、とりあえずそれだけね。家には誰もいないから、電話しとこうと思って」

『そっか、わかったわ。じゃあ、泉さんのお家にはそうお電話しとくわね、わざわざありがと。じゃあね』

「うん、じゃあね」


コードレスの受話器をおいたジュンは、ふう、と息をついて振り返った。不安そうにジュンとジュンのお母さんの電話を傍らで聞いていた光は、ほっとした様子で、ありがとございます、と笑う。つられて笑みをつくったジュンは、さあて、どうしようかな、と考えを巡らせる。


「太一君から光ちゃんを任されちゃったことだし、光ちゃんのお父さんとお母さんが帰ってくるまで、お邪魔させてもらおっかな。ようは光ちゃんを一人にさせなきゃいいわけでしょ?さあて、いつごろ帰ってくる予定なのかな、光ちゃんのご両親は」

「えっと、たしか、4時ごろだっていってました」

「そっかあ、あと3時間ってとこだね。まあ、大丈夫っしょ、それくらいならね」

「ほんとですか?」

「うん、それ以上はちょっと厳しいかな。アタシね、今日は夏フェスに行く約束してるのよ、お迎えが5時に来るからそれまでには帰らなきゃ」

「ありがとうございます、ジュンさん。ジュンさんには、ジュンさんの予定があるのに、ごめんなさい」

「いいの、いいの、気にしないでよ、それくらい。どうせ5時までは暇だったんだから。ま、アタシがすることは特にないよね。ようは留守番してればいいんだから。どうする?光ちゃん。一応、光ちゃんは風邪ひいてるわけだし、寝てた方がよくない?」

「えっと、その、あの」

「あー、あんま眠くない?」

「………はい」


こくり、と頷いた光は、恥ずかしそうに顔を赤らめて笑った。


「まあ、休んだ方がいいよ、光ちゃん。風邪なんて、あったかいもの食べて、寝てれば治るんだから。ずるずるひきずってたら、いつまでたっても、治るものも治らないしね、めんどくさいわ。一応、お布団の中に入るだけでも違うわよ。眠くないっていうんなら、アタシも付き合ったげる」

「ほんと、ですか?」

「さすがに一緒に寝るのはどうかと思うけどね、話し相手くらいならなってあげる。ホットミルクなり、ホットココアなり、山田さんが買ってくれたのあるでしょ?飲んだらお休みしましょ、光ちゃん」

「はあい」

「なら、そこに座ってて。光ちゃん用のマグカップってある?」

「あ、はい。これです」

「ふうん、かわいいの使ってるのねえ。これね、りょーかい。あらー、結構買いだめしたんだ、山田さん。どうする?光ちゃん。ポッカレモンとか、ホットココアとかあるけど」

「ココアがいいです」

「はいはーい」


ジュンがキッチンですることは、ほとんどなかった。山田さんは準備万端で八神家を後にしたようで、ポットにはたっぷりのお湯が常備されていた。だからジュンがしたことといえば、一人前のホットココアの粉末をかわいい絵柄のマグカップにいれて、たっぷりのお湯をそそぐことくらいだった。付随している生クリームの粉末が白い渦を巻いている。甘い香りがするマグカップを光に運んだジュンは、いつもすわっているキッチンの椅子で、ありがとございます、と嬉しそうに笑った光につられて笑った。反対側の椅子をひくと、テーブルの下ですっかりカラになった餌箱の隣についている水を飲んでいたミーコが迷惑そうな顔をして、ジュンを見上げる。にゃーん、と鳴いて、とたた、とリビングから離脱したミーコは廊下に行ってしまった。どうやらゲージの中に逃げ込んだようである。あー、ごめんごめん、といいながらジュンは椅子に座った。そして、ひざをついてあごを乗っける。猫舌なのか、ココアがよっぽど熱かったのか、ふーふーしながら光はココアを飲んでいた。


こんな小さな女の子が、明日の今頃には、デジタルワールドにいるのだ。すごいなあ、ってジュンは思うのである。ジュンにできることは、この小さな女の子が風邪をこじらせないように、あったかいものを食べて、あったかいお布団の中で眠っているのを見守ることくらいだ。デジタルワールドの冒険で光は風邪がぶりかえして、熱を出し、倒れてしまうまで症状が悪化してしまう様子が事細かに描写されていた。感情移入しながら読んでいたジュンがはがゆく思ってしまうくらい、ページがさかれていたことを考えると、きっと太一にとって一番印象的な出来事だったにちがいない。それがちらついて離れないジュンは、どうしても光に世話を焼いてしまいたくなるのだった。大好きなお兄ちゃんとコロモンが目の前からいなくなってしまって、透明になったデジモン達がどんどん東京に増えていく様子を、こわい、こわいって怯えながらベランダから眺めているしかない、ひとりぼっちな女の子が目の前にいるのだ。どうしても手を差し伸べてしまいたくなる。まるでお守りのように持っているデジヴァイスを眺めながら、ジュンは不思議な気持ちで光を眺めていた。


すっかりカラになってしまったマグカップが、ことん、とテーブルに置かれる。ジュンは椅子をひいて立ち上がった。


「マグカップかして?シチューの皿もついでに洗っとくわ」

「え、でも」

「みてよ、これ。さすがにほっとくのはまずいと思うのよ、これ」

「………あ」


ごっちゃり、って乱雑に積み上げられた食器に、光は口をつぐんだ。ぱか、とコンロに残されたを開けたジュンは、迷うことなくシンクに持っていく。シチューは、ちょっと多めに用意されていたのに、すっからかんになっている。ほっといたら、また山田さんに光がぜんぶ食べちゃったと思われてしまうに違いない。さすがに大食い疑惑はさけたいのだろう、どうしよう、って困った顔が浮かんでいる。あたしもちょっと貰ったとでも言っといて、と助け船を出してくれたジュンに、ほっとした様子で光は頷いたのだった。アグモンはよっぽどお腹がすいていたのか、ずいぶんと豪快に食べたので、ぶっちゃけ食器はかなり汚い。せめて証拠隠滅しておかないと、女の子がなんて食べ方したんだ、とお説教が入ってしまいかねないので、腕まくりするジュンを光は止められなかったのだった。しばらくして、食器乾燥機の音が聞こえ始める。ジュンは光に呼ばれて、子供部屋に足を踏み入れた。


「へえ、二人部屋なんだ」

「え、ジュンさんは、大輔君と一緒のお部屋じゃないんですか?」

「ううん、一人部屋よ、ずっと。二人部屋だったことってないのよね。アタシが小学校のときに子供部屋が出来たんだけど、その時ってまだ、大輔はお父さんたちと寝てたし。大輔が小学校にあがったら、アタシは中学生なわけじゃない?さすがに一緒の部屋ってわけにもいかないのよ。だから、大輔ははじめっから一人部屋ね」

「大輔君ってひとりで寝てるんだ、すごいなあ」


ぽつり、とつぶやいた光にジュンは笑った。ジュンは子供部屋を見渡した。勉強机が仲良く二つ並んでいて、色違いのランドセルが置かれている。教科書やノート、学校で使う道具の置き方には性格が出る。カーペットが真ん中に置かれていて、反対側には二つのタンスが並んでいる。そして二段ベットがあるから、間取り的には広いはずの子供部屋はずいぶんと狭く感じられた。お兄ちゃんがいる女の子ってこんな感じ?、ってジュンは不思議に思った。境目がないのだ。境界線がまるでない。パーソナルスペースってやつがない。ひとりになれるスペースが全く確保されていない、まるで学生寮のような部屋である。ジュンはてっきり、まんなか辺りで間仕切りがしてあって、光ちゃんと太一君のスペースがあるのだろう、と思っていたので、ほとんどが共用スペースとなっている二人の部屋には驚きを隠せない。アタシだったら、絶対願い下げだわ、ノイローゼになりかねない、ってジュンは思った。太一君も光ちゃんも、案外そう言うところは気にしないタイプと見た、うらやましいことこの上ない。ジュンは結構神経質なところがあるので、へーって思ったのだった。光は二段ベットに向かう。そして梯子を上り始めた。ぬいぐるみが並べられていて、ピンク色の枕や掛布団、シーツがあるから上が光のようだ。ベットに潜り込んだ光は、顔だけ出してジュンをみる。めずらしい、ふつうなら二段ベットって上の方が争奪戦になる気がする。兄弟、姉妹をもつ友達を思い浮かべたジュンは、八神兄妹の仲良しさを垣間見た気がして微笑ましくなったのだった。光はその温かなまなざしをひとりじゃ眠れないなんてかわいいなあっていうものだと勘違いしたようで、ちょっと恥ずかしそうに顔を赤らめた。


「椅子、借りてもいい?」

「あ、はい」


ジュンは光の机からローラー椅子を拝借して、腰を下ろした。


「さあて、なんのお話をしようかしらねえ。なにかリクエストある?」

「あの」

「んー、なあに?」

「ジュンさんのお話が聞きたいです」

「え、アタシの?」

「はい。あの、その、すごかったから、パソコンのとか。どうしてかなって」

「面白くもないと思うけどねー」

「でも、ききたい、です」


そっかあ、とつぶやいたジュンは、どっから話したらいいのやら、と思案を巡らせる。そして、いまかいまかと待っている女の子に、語り始めたのだった。


アタシが小学生の頃だったかな、って意図的にぼやかしたが、今から4年前の話である。ジュンは、小学校4年生の10歳だった。このころはまだ、ミーハーな親友やお母さんの影響もあって、アイドルグループのファンでグッズやCDを聞くのが大好きな女の子だった。パソコンはネットでアイドルグループをしらべるくらいしか、使ったことがない、興味もない、普通の女の子だった。1995年の3月ごろ、春休みのことである。アメリカの支社に単身赴任しているお父さんに会いに行くために、お母さんと大輔と一緒にアメリカに行ったジュンは、ある事件に巻き込まれた。あとからお母さんたちに教えてもらっただけで、ジュンも大輔も、他の子供たちも覚えていない、不思議な事件だ。気が付いたらすべて終わっていた。ジュンが覚えているのは、今にも落ちてきそうな空の下で、見渡す限り広がる花畑があって、大きな穴がたくさんあいていて、そこに倒れていたことだけである。地震だった、という人がいた。不発弾が爆発した事故だった、という人もいた。爆弾を使ったテロだった、という人もいた。なにもわからないまま、ジュンと大輔は、お母さんと一緒にアメリカから日本に帰った。2年間の勤務だからあと1年アメリカにいるはずだったお父さんが、4月から日本に帰ってきて、今の本社で働いていることしかわからない。ここで一旦、ジュンは言葉を切った。あの日から、普通の女の子だったジュンは、今のジュンにゆるやかにかわっていったのだ。あの事件の真相に気付いてしまった時点で、知りえるはずのない情報が濁流のように流れ込んできた時点で、ジュンは、もうひとりのジュンの記憶があることを自覚してしまうことになったから。


「知りたい、って思ったのよね。なんにもわかんないから、知りたいって思ったの。アタシって、もともと、はっきりしないことってなんかやなんだよね、もやもやするの嫌いだから。はっきり目で見える形にしないと気が済まないっていうか。お母さんたちに内緒でネットで調べてたの。そしたら、あのときの事件を調べてるコミュニティを見つけたんだ。その人たちがパソコンに詳しいひとたちの集まりでね、その人たちとメールのやり取りしてたら、いつの間にかそっちの方面に興味もちゃったんだ。気が付いたら、いつまでたっても真相がわかんない事件のことはそっちのけで、パソコン部に入るくらいのめり込んじゃって、あはは」

「今でも、その人たちとはメールしてるんですか?」

「うん、してるわ。大事なメル友よ。ほとんどアメリカ人なんだけどね。最近は、弟がまだ小学生なのにハーバード大学に飛び級で入学が決まったってメールが来たのよ。さすがに驚いたわー」

「すっごーい」

「でしょう?メチャクチャ頭がいい子だとは聞いてたけど、さすがにそこまでずば抜けてるとは思わなかったわ」


世間って狭いわよね、といいかけた言葉は心の中に仕舞われる。不自然な形で言葉をきってしまったジュンに、不思議そうに光が名前を呼ぶ。ジュンは、なんでもないわって笑って、おもしろい?大丈夫?つまんなくない?って聞いてみる。ふるふる、と光は首を振った。ジュンの話によっぽど興味がわいたらしく、メールは英語でするのかとか、英語で話すことはできるのか、とか、いろんなことを聞かれた。どうやら光はアメリカに行ったことがあるという事実の方が気に入ったようだ。光が覚えているはずの光が丘テロ事件との類似性は、意図的にぼやかしたことと、時々光に聞かれたことを徹底的によく覚えていないと言い切ったおかげで、見い出すことはできなかったようだ。ジュンは、もともと、ミーハー、もしくはおたく気質の下地ができている女の子だった。集中するとどこまでも突き抜けていく、熱の入った話題は延々としゃべり続けることができる、気質を持っているのだ。今回はかみ合ったからいいものの、うっかり興味がない相手にこれをしてしまうととんでもない失敗をしでかしてしまう。さいわい、今回は深く突っ込まれることはなかった。気を付けなくちゃ、と心の中で冷や汗をかいたジュンである。思わぬ喰いつきをみせた光は、すっかり興奮状態にあるようで、眠気なんて彼方に吹っ飛んでしまったらしい。結局、2時間近く光とのおしゃべりに興じることになったジュンは、ようやくうとうとし始めた光にほっと息を吐く。おやすみなさい、とベットに潜り込んでしまったのを確認して、おやすみなさい、とジュンは笑う。部屋を出ていこうとする気配を感じ取ったのか、かたくなにまぶたをこする光である。ジュンは肩をすくめた。ちょっと咽が渇いたから、水飲んでくるわねっていうと、やっと安心したようだ。すぐ帰って来るって約束して、音をたてないように、静かに扉を閉めたのだった。


ジュンは、まっすぐリビングに向かう。そして、水道の蛇口をひねって、そのまま生ぬるい水をすく上げて飲み干した。いちいちコップを洗うのが面倒だったのだ。ごしごし乱暴に口元をぬぐって、引き返そうとしたジュンは、さっきまで真っ暗だったはずのノートパソコンの電源ボタンが点滅していることに気付く。ちゃんと消したはずなのに、再起動のボタンを押しちゃったんだろうか。まずい、消費電力ばかになんないのに、と急いでノートパソコンを開いてみると、そこには腹が減ったとわめいているドット絵のモンスターがいる。ジュンは思わず舌打ちをした。


「バカいってんじゃないわよ、なんのためにウィルスバスター削除したと思ってんの?好き嫌いしてんじゃないわよ」


不機嫌な顔をしているモンスターは、上質なデータをよこせとうるさい。データに上質も劣化もないわよ、とジュンはいう。でも、相手は無防備なパソコンにたくさん送られてくるダイレクトメールやウィルスに感染したプログラムは腹の足しにもならないとほざいている。そいつはデジモンだ。ちなみに太一たちに起きたままみせる悪夢、または幻覚を見せていた諸悪の根源でもある。ウィルス種のデジモンは、祖先であるコンピュータウィルスと性質が非常に良く似ている。定期的に餌をやらないと悪さをするのはどっちも同じだ。ちなみにウィルス種のデジモンの方が、たちがわるい。ウィルスを駆除する本能をもつワクチン種から身を守るために、構成しているデータを擬態させたり、全く別のものに変化させたりして生き残る必要があるためだ。延々と体を作り変える必要があるウィルス種は、そのために必要なデータ(情報)がデータ種やワクチン種と比べて桁違いに多いのだ。腹が減った、とわめきながらジュンの前に現れたとき、ジュンは衣食住を保証してやるからアタシんとこにこいって交渉したのである。


あんた、バカなの?死ぬわよ?と開口一番に言い放った女の子に気圧された時点で、こいつに逃げ場はなかった。馬鹿だったのだ。ここがどこだかわかってんの?もしこのまま餓死したら、二度とデジタルワールドに帰れないわよ、なんでかわかる?ここはデジタルワールドじゃないわけ、外の世界なわけ、もし死んだらどうやってデジタルワールドにいくわけ?いけないわよね?ここからは帰れないんだから。ここはネットワーク上にはない世界だもの。つまり、あんたは死んだらそれでおしまい。あんたの魂のデータはどこにもいけないし、体を構成してるデータだけが死んじゃって、幽霊になっちゃうのね。転生させてくれるデジモンなんていないわけだから?それでもいいの?ねえ、いいの?


もちろんジュンは、現実世界でもデジタマに転生できたデジモンを知っているし、幽霊になってしまったデジモンも知っている。死んだらどうなるのか、なんてやってみないとわからない。デジモンは生まれ変わるとデジタマになる。それしか知らない。基準なんて知らない。管轄外だ。口から出まかせである。それでも、デジヴァイスを持っているジュンを選ばれし子供と勘違いして現れたバカは、まるっきりそれを信じてしまったのだ。ジュンが強気で行けたのは、そいつが光の紋章のコピーを持っていなかったからだ。ヴァンデモンの配下ではないけど、現実世界に現れたのは選ばれし子供を襲うため、とくれば、そそのかされたバカしかいない。問題は、こいつはダークエリアにしか生息していないデジモンであるということだ。


ダークエリアは、死んだデジモンがいくところであり、生まれ変われなかったデジモンがいくところである。あの世、ってやつだ。デジモンが死んでデジタマが残らなかったら、ダークエリア行きになったと考えていい。生まれ変わっちゃいけない、と判断されたデジモンが閉じ込められる刑務所も兼ねているエリアなので、ジュンみたいな一般人は話半分にしか聞いたことがない。とりあえず、やばいところ、としか聞いたことがないのだ。


ジュンが匿っている15GBの成熟期は、気が強くて負けず嫌いな使い魔デジモンである。戦闘能力はなくて、ちくちくと精神攻撃でいたぶる卑怯者だから、口から覚めない悪夢を見せる超音波さえ封じてしまえば害はない。ダークエリアを構成している暗黒物質の源である、といわれている謎の多いデジモンだ。ジュンは、ダークエリアから、どうやってここに辿り着いたのかを問題視しているのである。結論から言うと、ダークエリアからご主人様に召喚されて、現実世界に向かえと命令されたっていうのだ。そのご主人様って誰だって、何度聞いても口を割らないので、ジュンは手を焼いている。デジタルワールドの冒険でこいつを使い魔にしていたのは、ダークマスターズのピエモンだ。あいつはアポカリモンの部下だから、ダークエリアにいるこいつを使い魔にするのは問題ない。でも、こいつはピエモンもダークマスターズも知らないっていうのだ。仕える主は違うっていうのだ。はあ?って話である。ほんとはさっさとゲンナイさんに引き渡そうとしたのだが、そんなことしたら、ジュンがぶっちゃけたことを全部しゃべっちゃうぞーと脅されたので、衣食住を保障する隠匿生活は続行中なのである。あのとき、さっさと太一君に助けを求めればよかった、と後悔しきりのジュンである。小声でぼやいた。


「帰ったらいくらでもあげるから、我慢して。じゃあね」


パソコンを閉じたジュンは、ため息をついたのだった。せめてイケメンなデジモンなら好待遇も考えたのだが、どう考えても雑魚的なヴィジュアルである。イビルモンっていう種族名もイケてない。生意気なペット感覚である。ジュンはそっと子供部屋を見た。さいわい光は来ていない。もう一度パソコンにロックをかけて、ジュンは、光のところに向かったのだった。

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