理想のキスを


某所のお題診断結果がこんなん(佐伯 瑛は毛布に包まって笑いながら、首に慈しむような痛々しいキスをするでしょう。)だったので、佐伯くんに頑張ってもらいました。

(※ぬるいですが状況的にRといえなくもない)



アラーム音が鳴っている。
水底にいるみたいにくぐもって聞こえるのは、きっと毛布にくるまっているせい。ピピピピピ…………早く起きなさいと急かすように電子音は鳴り続けているけど、何だかまだ起きたくない、なんせ、毛布の中があんまり居心地が良いので。まだもうちょっとウトウトと微睡んでいたい……。

「おい」

横から、もっと言えば、横に寝転がったつむじの上あたりから声がした。寝起きのせいか不機嫌そうな低い声。

「目覚まし、鳴ってるぞ」
「鳴ってるね」
「鳴ってるね、じゃないだろ。早く止めろよ……」
「瑛くん止めてくれないの?」
「止めない、おまえがセットしたんだろ、これ」
「そうだねえ…………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………スウ」
「寝るな、起きろ!」
「まだ眠いよ……」
「ああ、もう……」
「わっ」

横向きに寝転がって、後ろから抱きすくめられるようにしていたのを急に仰向けに転がされた。声から予想出来たとおり、瑛くんの不機嫌そうな顔が目の前にあった。テントみたいに毛布をかぶったまま。

「起きろ。そして、この耳障りな電子音を止めろ」
「気になるなら、瑛くんが止めてくれたらいいのに……」
「ダメ。自分でしたことはちゃんと自分で決着をつけること」
「厳しいなあ」
「はっは、今頃知ったか」
「でも、わたしは気にならないから止めない」
「おまえなあ……」
「だって、寒いから布団から出たくないんだもん」

押し問答。埒が明かないと思ったのか、瑛くんは眉間に皺を寄せたまま押し黙ってしまった。それから、しばらくして。

「わかった」

そう言った。にやり、と不敵に笑って。瑛くんがそうやって笑う時は要注意だ。子供が悪戯を思いついたような、こんな笑顔をした時には、特に。

「寒くなくなったら、いいんだな?」
「瑛くん?」

顎と頬を包むように瑛くんの手が添えられた。その手に促されるようにして、首を伸ばしてしまった。うっかりと。

「……やっ」

顎の下、首の薄い皮膚に口づけられた。微かな刺激に、つい声が出てしまった。瑛くんの肩を手のひらで叩いて抗議した。

「もう、瑛くん……!」

ふっと、瑛くんの唇が離れて、安心したのも束の間、今度は別の部分を軽く吸われた。声は何とか抑えたものの、くすぐったい。頬をかすめる瑛くんの髪の毛とか、あと、何より唇が触れている部分が。のど元の皮膚が薄い部分を啄ばまれる。

「瑛くん、やめて……!」
「やめない、聞きわけの悪いおまえが悪い」
「もう……!」

ひときわ強く首元を吸われた。痛いくらいに。思わず声が洩れて、慌てて口をふさぐ。我ながら手遅れな仕草だなあと思ってしまう。いたたまれない気分でいたら、瑛くんが首筋に口づけたまま、かすかに笑う気配がした。

「……瑛くん!」

もう一度抗議の声を上げたら、強く吸いついた部分に優しく啄ばむようなキスを一度して、離れてくれた。思わずため息をついた。首、赤くなってないかな。指先でさする。触れただけじゃわからない。でも疼痛みたいなものが残っている。ああ、もう……。
起きあがって、朝から不謹慎な悪戯をしかけてきた相手を睨みつける。相手はわたしの顔を見るなり吹きだした。

「あっは! おまえ、髪ぼさぼさ!」
「もう!」

――瑛くんだって、ぼさぼさなのに。
……ぼさぼさなのに変じゃないなんて、かっこいい……なんて、ずるいなあって思う。
音をうるさく感じて、さっきから鳴り通しだったアラーム音を止めた。目の端で瑛くんが愉快そうに笑うのが見えた。――もう寒くないのか、だって。しらじらしい! 寒さなんて、とうに吹き飛んでしまっていた。




end.(101220)
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すみませんでしたたた
比較的らぶらぶし瑛(当サイト比)と言えなくもないけど、慣れないことはするもんじゃないなって思った。らぶらぶってむずかしいな!(こりゃひどい)



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