※某レストランを敵情視察な瑛主。 ※時系列等はまるっとご寛恕下さい……。 例によって“敵情視察”にと佐伯くんと、とあるお店に寄り道をした。 今日は珊瑚礁の定休日、いつもと違ってゆっくり出来るけど、メニューを見つめる佐伯くんの目は真剣で、そこにはデートらしい浮ついた雰囲気は微塵も見られなかった。無理も無いと思う。これはあくまで敵情視察の寄り道なので。ライバル店がどんな品揃えなのか、珊瑚礁のバリスタとしても気になって仕方ないのだと思う。 分かるのだけれども、わたしとしては、どうしたって気持ちが浮ついてしまう。 「どれもおいしそう」 「……写真うつりは良いよな」 佐伯くんが浅く眉間にしわを寄せながらうめく。心なしか、不機嫌そう。ライバル店だもんね。 レストランにしては、少しこじんまりとしたそのお店は、料理がおいしいということで最近評判のお店だ。ケーキの種類が豊富なのと、コーヒーがおいしいらしいと今日の放課後に佐伯くんに誘われた。あくまで、敵情視察として。 「どうしようかなぁ……」 「こういうときはオーソドックスなケーキを選んだ方が店の実力が分かって良いんだ」 思わずメニューから顔を上げて問い返した。 「オススメよりも?」 「シンプルなケーキがうまい店は他のケーキもうまいもんなんだよ。オススメメニューは大体、季節のものを使ったメニューだろ。その意味で、オススメ」 「そうなんだ……」 ちなみに、今の一押しメニューはフルーツをたっぷり使ったクレープ。旬の苺もたっぷり使われている。言うまでもなく、おいしそう。 「迷うなあ……」 「俺はもう決めた」 「え〜、待って今決めるからね……」 今にも店員さんを呼び止めてしまいそうな素振りを見せる佐伯くんを止めながらメニューに向き合った。果物をふんだんに使ったフルーツタルトは、盛りつけられた果物がまるで宝石のようにキラキラと輝いて見た目にも魅力的。一押しのクレープだって勿論おいしそうだし、チーズケーキもおいしそう。どうしようかな……。 「……うん、決めた!」 「すいませーん」 わたしの一言を耳におさめて佐伯くんはショートカットの店員さんに声をかけた。三人組の若い男性客のオーダーを取っていた店員さんは、ぱたぱたという音がしそうな軽やかな足取りでわたしたちの席に来るとオーダーを取ってくれた。笑顔の可愛らしい店員さんだった。 佐伯くんはシフォンケーキにホットコーヒー。わたしは悩んだ末、フルーツタルトに温かい紅茶に決めた。運ばれてきたタルトは写真の通り、カットフルーツがまるで宝石のようにキラキラと輝いておいしそうだった。 「おいしい」 タルト生地もさくさくしておいしい。コーヒーに口をつけた佐伯くんが片眉を軽く上げ、それから渋い顔になった。 「…………コーヒーもうまい」 悔しげな一言。佐伯くんがそう言うとなると相当だ。わたしもコーヒーにすれば良かったかも。 「あらら……」 「星三つくらいかな」 とんだライバル店だな、と佐伯くんがぼやくように言った。コーヒーよりも明るい色をして透き通った紅茶をひとくち。タルトの甘さが紅茶の芳香に緩和されるよう。紅茶もおいしい。……でも、これはひいき目もあるかもだけど、わたしは珊瑚礁が好きだなあ、なんて。それはこの場所で口にすることでは無い気がしたので言わなかったけど。 「カップケーキもおいしそう」 「まだ食べる気か」 「そうしたいのは山々だけど……」 思わずおなかをさする。一日のうちにケーキ二つはちょっと……。 わたしの仕草を目におさめて佐伯くんは、うんうんと頷いてみせた。 「だよな。賢明な判断だよ」 「うう……カップケーキ……」 恨めしげに他のテーブルに運ばれていったカップケーキを見つめる。やおらお父さんに変身した佐伯くんが「やめなさい」とぴしゃりと言う。渋々と前を向くと、頬杖をついて窓の外を向いた佐伯くんがぽつりと言った。 「……また、来ればいいだろ」 「えっ」 佐伯くんは頬杖をついてそっぽを向いたままだ。ぶっきらぼうな佐伯くんの態度はいつもと同じだ。だけど……。 「それは、一緒にってこと?」 「……そうだろ」 「また、敵情視察?」 「……そうだよ」 顔を背けたままの佐伯くんの返答を聞きながら何だか嬉しくなった。 「じゃあまた敵情視察デート、だね!」 「デッ……!」 ――違うだろ! と佐伯くんからは力一杯否定されてしまったけど、敵情視察のお陰でまた一緒においしいケーキを食べられるし、まあいいかな、と思う。 2013.03.28 このあと、3まの皆さんがひそひそする予定でしたが、口調が分からなかったので、それはまた後日追記します〜。 [back] [works] |