うそつき






春休み明け、久しぶりに登校した学校で久々に女の子たちに囲まれる佐伯くんの姿を見た。優等生な笑顔も久々に見た。そうそう、そうだった。学校にいるときの佐伯くんはこういう笑顔だったよね……そんなことを懐かしく思い出している場合では勿論なくて、校門前で女の子たちに囲まれて困り果てたように眉を下げている佐伯くんと目が合った。

一瞬確実に安堵したようにホッとした様子を見せた佐伯くんを無視する訳にもいかなくて、わたしは覚悟を決めた。――どんな理由が良いかな、久々なのだから、凝った理由じゃなくてもきっと疑われないよね……そんな風に算段を付けるわたしは誰かさんのせいですっかり言い訳作りに慣れてしまったようで、内心ため息をつく。実際には息を吸い込んで、大きな声で佐伯くんに呼びかけた。

「佐伯くーん、先生が呼んでたよー!」

佐伯くんを囲んでいた女の子たちの視線が一斉にこちらを向き、中心にいる佐伯くんが、やっぱり安堵したように「本当? 今行くよ」と返す。「ごめん。先生に呼ばれてるみたいだから行くよ」と女の子たちに言って人垣から抜け出す佐伯くんの背中を見送り、女の子たちの視線を針のむしろのように感じながら、わたしもその場をあとにした。





「おまえは嘘のレパートリーが少ない」とは、アルバイト先こと、珊瑚礁に着いてからの佐伯くんの言だ。曰く、「毎回“先生に呼ばれた”じゃ怪しまれるだろ」。佐伯くんの言い分には納得する部分もあるけど、反論だってある。

「今回は久々だから良いでしょ」
「今回は、な。でも大体いつもそのパターンだろ。もうちょっと考えろよ」
「じゃあどんなのが良いの?」
「そうだな……」

わたしの質問に佐伯くんは目を上にめぐらせて少し考え込む素振りを見せた。

「誰か、他の生徒に呼ばれてる、とか」
「他の生徒……」

わたしも佐伯くんと同じく視線を上方向に向けて考え込む。佐伯くんを呼ぶような誰か……。

「ハリー、とか?」
「何であいつの名前が出るんだよ」
「佐伯くんのギターの師匠なんでしょ?」
「誰が師匠だ」

佐伯くんは片目を眇めて嫌そうな顔をしてみせた。前にハリーが言ってたんだけどなあ、師匠だって。あとは……。

「ダメだ……思い浮かばないよ……」

思わず頭を抱えてしまう。

「佐伯くんもっとお友達作った方が良いよ」
「何でそうなるんだよ。つか、友達なんて作ってる暇なんてないし」
「そんなの……」

――寂しいと思う。言いかけて、口を噤んだ。前に、海辺に寄り道をしたとき佐伯くんと交わした会話が頭の中に残っている。世間話の延長で佐伯くんに学校の調子はどう?と聞いてみた。早く卒業したいと言う佐伯くんに、そんなの寂しいよと思わず言ってしまった。そのとき佐伯くんから言われた「ほっとけよ」の一言がのどに刺さった小骨のようにちくちくと痛む。
佐伯くんはというと事も無げに言う。

「別に、氷上とか、風紀委員に呼ばれたとか、そういう話で良いだろ」
「風紀委員、かあ」

理由としては、先生に呼ばれたのと似たようなノリだよね。

「うーん、それじゃあ今度はそう言ってみるよ」

新しい理由を頭の中で反芻していると、佐伯くんがじっとこちらを見つめてきた。どぎまぎしながら尋ねる。

「な、何?」
「……おまえって嘘が下手そうだよな」

しみじみとした調子で言われてしまった。何だかバカにされたような気分だ。

「そんなことないよ!」
「怒るなよ。別に悪口じゃないし」
「え?」

尋ね返すと、一度口を開きかけた佐伯くんはそのまま口を閉じて、「まあいいや」とため息をつき「せいぜいバレないようにうまくやってくれ」とわたしの頭をぽんぽんと叩いた。うーん……ごまかされた気がすごくする。




2013.04.01
エイプリルフールに因んで互いに互いのことを思ってつく嘘繋がりな短文でした。

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