嘘吐き







下駄箱前の掲示板に人だかりが出来ていた。「今年も同じクラスだね」だとか「離れちゃったね」といった台詞が方々から聞こえてくる中、自分も掲示板を覗き見た。

新学期初日、クラス替えの内容が貼り出された紙に記されている。自分の名前とクラスを確認して、ついでにクラスメイトの名前も確認した。見慣れた名前を同じクラスの中に見つけて少し安心する。

見つけた名前の張本人が、人込みを縫うように掲示板の前に立った。すごいタイミングだなと思う。間が悪いのか、それともタイミングが良いのか、こいつにはこういうところがある。しばらく真剣そうな顔で貼り紙とにらめっこをして、顔を輝かせた。ほっとしたように息をついて笑顔。顔に感情が出過ぎて本当に分かりやすい。嘘なんてつけないんだろうなあ。そんなとりとめも無いことを考えながら声をかけた。

「おはよう」

そこではじめて隣りに人がいることに気がついたのか、黒目がちな瞳を何度か瞬きさせて振り向いた。

「あ、佐伯くん、おはよう」
「名前、見つけたか?」
「うん。佐伯くんとクラス一緒だね」
「だな」
「また一年よろしくね」

笑いかけられて少し気分が浮き立つ。向こうも同じようにそわそわと落ち着きがない。「あのね……」と内緒話でも打ち明けるように小声で囁かれた。喧噪に紛れて消えてしまいそうな声だったけど、しっかり聞こえた。聞こえてしまった。

「……あの人と、同じクラスになれたよ」

分かってる。これはいつもの“恋愛相談”と同じノリの話だ。放課後に、それから“予行練習”にと休日に会ったときに乗る相談と一緒で、向こうに悪気なんてない。そもそも相談に乗ると言ったのは俺だ。攻める理由なんてない。だけど、これはキツイと思った。

「……よかったな」

そう言って笑いかけてやると、本当に嬉しそうに幸せそうに笑って「うん」と頷いた。日頃の猫かぶりの仮面がこんなところで役に立つとは思わなかった。こんなやぶれかぶれな嘘がばれないと良い。脳天気で無邪気なこの笑顔を消したくないし。







2013.04.01
元ネタはツイッタで呟いた“エイプリルフール、新学期初日「あの人とクラスが一緒だったよ」と嬉しそうに幸せそうに佐伯くんへ報告するデイジーに内心の苦いあれこれを飲み込んで「よかったな」と言ってやる親友佐伯さんがあの子についた嘘”。
微妙にエイプリルフールと関係ないお話なのですが、“嘘”つながりということで。

[back]
[works]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -