やわらかい



――何だかやたらと気持ちが良い。

ぼんやりとそんなことを思いながら意識が浮上。目覚ましは鳴っていない。でも経験上、そろそろ朝だと言うのは分かる。夢は見なかった。いつもの通り。

いつもと違うのは、何だかものすごく触り心地の良いものが手の中にあることで、見た夢さえ覚えていない、起き抜けのぼんやりとした頭なのに『手放したくない、ずっと触っていたい』ということだけは強く意識に上って、それでようやく覚醒。でもまだ眠気が勝っていて、目は閉じたまま。目蓋を閉じた真っ暗な視界の中、手は無意識に手の中にあるものを触っていた。もっと言えば揉んでいた。あくまで、無意識に。何だろう、これ。

兎に角、触り心地が良い。ずっと触っていたい。揉むと手のひらを押し返すような弾力があって、ふわふわして、ひたすらやわらかい。触っていると気持ちが良い。
寝起きのぼんやりとした頭はひたすら同じ疑問を繰り返している。すなわち、

(やわらかい……)
(何だこれ……)

分からないままに手の中のものをふにふにと揉んでいる内に目が覚めてきた。自分の手の動きも自覚、事態も把握し始めた。ちょっと待て……このやわらかはまさか。いやでもあり得ないし。添い寝とか、あり得ないし。気持ちが良くて、手の中のものと同じくふわふわと夢見心地だった気分から一転、体中から冷や汗が噴き出してきた。目を開けるのには勇気が必要だった。そんな訳はないという冷静なツッコミを自分に入れつつ、感触からいって一つしか可能性が見当たらない。罪悪感と気まずさと、あと、少しの好奇心を胸に目蓋を持ち上げた。

「………………」

目の前に広がるのは白い肌……ということはなくて、何のことは無い、

「………………カピバラ」

もちろん本物じゃない。ヌイグルミの、だ。
誕生日にあいつにプレゼントしたカピバラのヌイグルミと色違い。真っ白なカピバラのヌイグルミは、お礼にと渡されたものだ。何でも「この子、瑛くんと毛並みが似てる」だとか。そんな訳あるかと思いながら、受け取った上に、何故か部屋に置いているし、置き場所に迷って、結局ベッドの上に放り投げていた。その結果の大失態。添い寝じゃない。決して、決して、添い寝じゃあない。何が悲しくて男子高校生がファンシーなヌイグルミと添い寝しなきゃならないんだ。しかし現実、目の前には白い毛並みのカピバラのヌイグルミがいて、しかも寝ぼけて揉んでいた……とか。

「何だよもう……」

目を開ける前、頭をよぎった可能性については、忘れてしまおう。感触が似ている気がしたからこその勘違いだ。寝ぼけていたんだし、仕方ない。言い訳を自分に言い聞かせながら少しガッカリしてるのは何でだ。

メガネもコンタクトもしていない裸眼のまま携帯で時間を確認する。いい加減起きないと。遅刻は勿論御免被るし、今日はゴミ出しもしなきゃいけない。手の中で未だに鮮明なやわらかな感触から意識を離すように、布団から抜け出した。




2013.03.31
*このあと多分佐伯さんは(気持ちを切り替えつつ)学校でデイジーに会った時まともに顔を見られなくて往生すると思います〜^▽^ 朝起き抜けにふにふにしてしまった、てのひらにすっぽりおさまりフィットする、マシマロのようにやわらかくて弾力のあるサムシング(ヒント:OPI)のことを意識しすぎて、こう、まともにデイジーの顔が見られないんじゃないかなあ思春期な佐伯くん萌え(デイジーは多分きょとん顔( ・v・)<?)

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