せいくらべ


学校からの帰り道、海沿いの道を歩いていたら、見覚えのある後ろ姿を見かけた。海側から射す夕日に照らされて、細長い影が道に落ちていた。その背中に向けて声をかけてみる。

「佐伯くーん」
「……なんだ、おまえか。今帰りか?」
「うん!」

立ち止まって待っていてくれた佐伯くんに駆け寄る。

「一緒に帰らない?」
「ああ」

佐伯くんが頷いてくれたので、そのまま並んで歩き出す。少しだけ違和感を覚えて佐伯くんの顔を隣りから覗きこむ。覗きこんだ拍子に、少し伸びかけた髪の毛が肩口に触れて揺れた。

佐伯くんが何だか気色ばんだような声を出す。

「……なんだよ?」
「佐伯くん、もしかして、何か良いことでもあった?」
「…………別に?」

佐伯くんはそっぽを向いてそう言ったけど、ウソだと思った。今日の佐伯くんは落ち着いた素振りをしてるけど、ソワソワというか、ウキウキというか、そういう気持ちが面に出ないようにワザと無表情を装ってるみたいだ。
どうしてそう思うのかというと、何となく、としか言いようがないけど……わたしの長年(といってもせいぜい3年程度だけど)の勘がそう告げている。

「そうかなあ?」
「……そうだよ」

佐伯くんは空とぼけたように言って、前を向いてしまう。視線も合わない。仕方なしにわたしも前を向く。並んで歩くわたしたちの斜め前には、黒く細長い二本の影が伸びる。しばらくしてから、佐伯くんが口を開いた。

「……なあ」
「なぁに?」
「……気付かない?」
「え? 何に?」

分からなくて聞き返したら、佐伯くんはムッとして黙ってしまった。またそっぽを向かれてしまう。「別に、何でもない」だって。何なんだろう、もう。

佐伯くんがまた前を向いて歩き出してしまったので、わたしも仕方なしに前を向いて歩く。わたしたちの前には、やっぱり二本の影がゆらゆらと揺れてる。太陽の位置が変わったのか、歩くうちに、影の位置がだんだんと移動していく。斜めに伸びていた影が、わたしたちの正面にまっすぐ並んだ。夕日が背中から射してるんだ。

わたしの影の隣りに並ぶ佐伯くんの影は大きくて長い。……佐伯くんって背が高いんだなあ。わたしなんて肩に届くか届かないかくらいなんじゃないかな。

「……あっ」
「何だよ、急に」
「佐伯くん、もしかして、背が伸びた?」

そういえば、今日は身体測定があったんだ。佐伯くんがにやりと笑う。何だか抑えきれない、というような笑い方だった。

「……まあな」
「そうなんだ! よかったね!」
「まあな。180センチになってた」
「そうなんだ、すごいね!」
「おまえは?」
「変わらなかった」

佐伯くんがわたしを上下に見つめ直す。

「あんなに食いしん坊万歳だったのに……どこに消えたんだろうな、食べた物」
「お、女の子にそういうこと言わないでよ!」
「誰が女の子だよ」

軽くチョップされてしまった。うう、得意げな顔が小憎らしい。

「佐伯くんがそうやってチョップばかりするから伸びないんだよ……」
「俺のせいにすんな」

またチョップしようとする佐伯くんの手をガードしながら言い返す。

「伸びないのは別にいいけど、わたしの身長が縮んだら、佐伯くんのせいなんだからね!」
「そんな訳あるか」
「あるかもしれないでしょ。縮んだら、責任取ってよね!」
「はっ?」

佐伯くんが何故か大げさにうろたえた。チャンスだ。

「えいっ」
「イテッ」

必殺チョップ返し、大成功だ。久々に綺麗にチョップが入ったかも。佐伯くんが額の少し上の方を押さえている。

「おまえな……縮んだら、どうするんだよ……。折角伸びたのに……」
「そのときは、わたしが責任取るよ!」

ぶつぶつという佐伯くんに言い返したら、「そういうことをあっさり言うな!」と何故か顔を真っ赤に染めた佐伯くんからまたチョップされてしまった。



――もう、本当に縮んだらどうしてくれるんだろう! 




[web clap:2012.07.28~site:12.09.11]
*縮んだら(双方)責任取りあえばいいぢゃない、早くけkk(黙りますん)
*6月の瑛主会で上った話題(三年目180センチになった佐伯くんはきっと内心喜んでいることでしょう)が元になっていたり(勝手にすみません^^;)

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