#新婚さん瑛主B




「ただいま」
「お父さん、おかえりなさーい!」
「お父さんって、おまえなあ……」
「? だって“お父さん”でしょう?」
「……そ、そりゃあ、俺たち結婚してるし? 新婚だし? だ、だけど、まだ“お父さん”とか、“パパ”とか、そういうんじゃないだろ?」
「?」
「だから、その……あるだろう。……他の言い方」
「他の言い方?」
「そう他の言い方」
「……テルたん?」
「……何か、惜しい」
「惜しいの?」
「ちょっと違う」
「変なテルたん! ごはん冷めちゃうから、早く!」
「ちょ、まだ話終わってないだろ!」

 ・
 ・
 ・

「ただいま〜」
「おかえりなさーい!」
「あ、そのエプロン……」
「このあいだ買ったのだよ。どうかな、似合う?」
「…………」
「テルたん?」
「……うん、似合ってる」
「ふふっ、よかった! ごはん出来てるよ〜。あ、それともお風呂にする?」
「いや、どっちも……」
「?」
「…………や、何でも…………」
「? 変なテルたん」
「ウルサイ。ごはん何?」
「カレードリア!」
「なあ、夕べも今朝もカレーだったよな?」
「作りすぎちゃって、いっぱいあるんだよ」
「はあ……まあ、いいか……着替えてくる」
「うん、用意しておくね!」

 ・
 ・
 ・

一日の最後に家に帰る。海沿いの道を歩く頃にはいつも日が暮れていて、海鳴りが響く中、家へ急ぐ。遠目にも、家の窓に灯りが灯っているのが見えて、それだけで、少しだけ、疲れが吹き飛ぶ。早く帰りたい、と思う。
仕事は嫌いじゃない。将来のための修行も兼ねているし、何より、好きなことに関わる仕事だから、毎日刺激的で遣り甲斐があって、充実してる。
でも、それとは別に、やっぱり、一日働いて疲れて帰る場所に灯りがついていると、ただ、気分が弾む。家にいるんだ、待っていてくれているんだ、って。そういうことが、こんなに嬉しいことだなんて、あの頃は知らなかった。

鍵を開ける。ドアを開く。玄関先で靴を脱いでいると、廊下の奥からパタパタと足音が聞こえてくる。相変わらず、何となく、子犬か何かっぽくて苦笑が洩れる。何て言うか、しっぽを振って駆け寄る犬みたいだ。

「お父さん、お帰りなさい!」

相変わらず、呼び方は“お父さん”だ。何がきっかけだったか、高校生の頃に“お父さん”呼びが定着して、結婚した今になってさえ、この呼び方。別にいいけど、もう少し別の呼び方をしてほしいと思う。何故って、本当にはまだ、“お父さん”じゃないのだから、今は、今だけ出来る呼び方で呼んでみてほしいと思わなくもない。

「ごはん出来てるよ。お風呂も沸いてるし。どっちにする?」

新婚さんにありがちなネタが頭に浮かぶ。――『おかえりなさい。ごはんにする? お風呂にする? それとも、わ・た・し?』みたいなネタ。分かってる、こいつにそんなネタを求めるのは酷というか、もしかしたら悪ノリで言ってくれるかもしれないけど、まさか、自分から言って欲しいなんてアホなことは言えない。でも……。

「? 瑛くん?」

このあいだ一緒に街へ行った時に買った白いフリルたっぷりのエプロンなんかを着て、帰ってきた途端、パタパタとやけにかわいらしい足音まで立てて玄関先に迎えに来てくれる姿とか、いつも、温かいごはんとか、湯船を用意してくれているのを思い出したら、何だか、堪らない気持ちになった。一緒になれて良かった、結婚出来てよかった。ここにいてくれて、良かった、って。

「わ、て、瑛くん!?」

ぎゅ、と抱きしめたら、驚いたような声を上げた。肩口に顔を埋めたらいい匂いがした。ため息をつく。そろそろと髪を撫でられた。

「……瑛くん、お疲れモードなの?」
「……別に、そういうんじゃないし」
「そう?」
「…………飯も風呂もいいけど」
「?」
「今はおまえがいい」

面と向かって言うには恥ずかし過ぎる台詞。分かってる、面と向かっていようが、いまいが、兎に角、こんな台詞は恥かしくて仕方がない。
肩口に顔を埋めて表情が見えないようにしていたら、くすくすと笑う声が聞こえた。笑い声が聞こえたら、尚更恥かしくなった。抗議しようと顔を上げたら、柔らかく細めた目と目が合った。

「……わたしも、瑛くんがいいな」

そうして、砂糖水みたいに甘ったるい声で囁かれた。何だかもう、敵わないと思う。




(2012.08.21)
(#home sweet home)
*(一旦)おしまい!末永くお幸せにー!
*(上記の)続きは砂糖菓子のように甘い甘いスイートイチャラブになるはずなので、割愛ですん(えええ)
*佐伯さんは「あなた」とか「ダーリン」とか人目につかないとこでなら、そんな風に呼んでほしいかなあって(新婚さんに夢見瑛)
*元々は昨日Aさんから頂いたメールにあった“白いフリルたっぷりのエプロンを着けて、パタパタとスリッパを鳴らしたデイジーに「お父さんお帰りなさい」と、出迎えて欲しいなぁ”という一文です。萌え転げに転げて、つい跳んでしまいました;;(か、勝手にすみません;;)(もし不都合ある場合、即刻下げますので……!)正直、Aさんの呟きのままの方が萌えるなあ滾るなあと思いましたまる えと、お粗末サマーでしたー!(そしてAさん素敵な萌えをありがとうございました……!)

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