(*卒業後の二人です) ディスプレイ越し、白い衣装が光を受けて目に眩しい。 「ジューン・ブライドだって」 「ん? ああ、ブライダルフェア、やってるんだな。そっか、もう六月か……」 「綺麗だねえ」 ほう、とため息をつく。ガラスの向こう側には、色とりどりのウェディングドレスが飾られている。……どれも素敵だけど、やっぱり白が一番綺麗だなあと見惚れてしまう。 「……確かに、綺麗だけどさ」 隣りから、ぽつり、と瑛くんの声が降ってきた。顔を上げてみる。瑛くんはディスプレイに目を向けたまま話し続ける。 「おまえが作ったウェディング・ドレスも綺麗だったぞ?」 「買いかぶりすぎだよ、瑛くん……」 「別に買いかぶってなんか、ない」 ふい、と佐伯くんが視線を逸らす。あらら、機嫌損ねちゃったかな。 「そういえば……」 「何だよ?」 「結局、あれから一度も着る機会なかったね」 わたしが言うと、『うっ』と声を詰まらせる瑛くん。 「リクエストしてくれるの、待ってたのになあ」 ちらり、と横目に見てみる。瑛くんが気恥かしそうに視線を彷徨わせる。 「……だって、言いにくいだろ、そんなの!」 「着てほしい、って言ってくれたら、着たのになあ……」 わたしが呟くと、瑛くんもぶつぶつと言い訳みたいなことを言った。 「そりゃ、俺だって着てほしかったけど…………」 高校三年目の文化祭を思い出す。手芸部の出店用にウェディング・ドレスを作った。舞台に上がる前に瑛くんがかけてくれた「がんばれ!」の一言に勇気づけられて、舞台は成功。舞台から降りると、瑛くんが「綺麗だった」って言ってくれた。かけた苦労が報われたようで、すごく嬉しかった。そのとき、瑛くんが顔を赤くしながら、こんなことを言った。 「なあ、それさ、またいつでも着られるんだろ?」 「いつでも?」 「例えばさ、その……俺が、ちょっと着てみて欲しくなった時とか……」 いつか、リクエストしてくれるのかな、と思っていたんだけど、結局着る機会はなかった。 「あのさ……」 隣りから声が降ってきた。顔を上げる。心なしか、瑛くんの顔が赤い。まるで、あのときの舞台裏みたいに。 「ウェディング・ドレス……着てほしいって、言ったら着てくれる、か?」 恥かしいのか、視線を合わせてはくれなかったけど、 「もちろん、いいよ」 笑顔で応える。 「そっか……」と安堵したような声が降ってくる。 「高校のときの衣装だよね? 確か、実家にあるはずだから、探してみるね」 「いや…………」 わたしの言葉に瑛くんの声がかぶさる。 「折角なら、本番で着て見せてよ」 「えっ」 「その、おまえの花嫁姿……」 「て、瑛くん、それって……」 「うん、まあ、そういう意味」 消え入りそうな口説き文句。わたしも、同じく消え入りそうな調子で応えた。 「その、こちらこそ、よろしくお願いします……」 ディスプレイには顔を真っ赤に染めた二人が映っている。ガラス越しの花嫁衣装。身につけるのは、もしかすると、そう遠くない未来のことなのかもしれない。 [clap:11.06.03-07.07/site:11.07.08] *そんな彼と彼女の幸せブライダル妄想。何とも消極的なお二人で申し訳ないです。 [back] [works] |