つまりは、


ま、こんなもんだよな、と思う。だってあいつだし。相手はあいつだし。第一印象からして、ボーっとした感じの、いかにもボンヤリとした天然者だし。……まあ、一緒に過ごすにつれ、案外ただのボンヤリじゃないってことも分かってきたけど、そんなの今日の凡ミスで帳消しだ。いくらなんでも、遅すぎるだろ。待ち合わせ場所は駅前。時計を確認すれば、長針が丁度半分回転していた。自分から誘っておいて、こんなに遅刻するってあり得ないだろう、あのボンヤリめ。
そうだ。誘ったのは向こうだ。例のお気楽な声で「日曜日、どこか行かない?」って電話してきて……電話が鳴った時、電話をかけてきた張本人の番号を画面上に表示していたなんてことは、別に言わなくても良いことだ。特にあいつには、絶対。
思い出しながら、どんどん気分が捻じれていく。……これでも、電話をもらった時には確かに気分が浮いたのに。あいつにとっては今日の約束なんて、どうだっていいのかな。半分回った長針が何よりの証拠だ。あいつにとっては、きっとそんな程度のものなんだよな。これくらい遅れたって痛くも痒くもないんだろう。俺とは違う。俺は……これでも待ってたんだ。週末、一緒にどこかへ行けないかなって。何度も電話するのを躊躇って、ようやく決心がついたところに丁度電話がかかってきた。安心もしたけど少し、拍子抜けもした。こういうのは、やっぱり自分から誘いたい。いつも誘われてばかりというのも、何だか格好がつかないし。そうだ、もう何度も誘おうと思ってたんだ。場所とかも、好きそうなとことか、前に一緒に行って楽しそうにしてたとことか…………まあ、大体、どこに行っても大抵楽しそうにしてるんだけどな。やたらニコニコして、楽しそうにしてさ。見てたら、こっちの肩の力も抜けて、釣られて思わず笑顔になるような、そんな顔。

「……ふん」

携帯を取り出すと着信とかメールの類はなし。……ホントに遅刻だろうな。何か変なことに巻き込まれていないだろうな。いい加減心配になってきた。それで電話して「ごめん寝てた〜」とか言われたら一気に爆弾がつく自信がある。
駅前の広間には、他にも待ち合わせしてるヤツらが沢山いて、その中にはバカップルも含まれる。そういうカップルたちはピンク色の空気を辺り構わず撒き散らしていて、見てるこっちが恥かしい。全く傍迷惑な。
「待った?」「いや、今来たとこ」……おまえ、俺と同じくらい待ってただろ、と素知らぬ顔で嘘をついた男に思わず言ってやりたくなる。相手の女にも教えてやりたくなる。けど、そんな第三者の要らんお節介なんか必要ないんだろう。ピンク色カップルは腕なんか組んで和気あいあいとどこかへ向かって歩いていった。何とも言えない気分でその背中を眺めていたら、例のお気楽な声がこめかみの辺りにぶつかってきた。

「瑛くーん!」

どうやって詰ろうか、チョップしてやろうか、さんざん考えた。だって、自分から誘っておいて、こんなに待たせるってなしだろ。いや、誘われて遅れるのも無しだけど……。絶対チョップの刑決定だったはずなのに、「ごめんね、瑛くん」とか言って眉を八の字なんかに下げて、ひらひらとしたスカートを足にまとわりつかせて、危なっかしく慌ただしく駆け寄る姿なんかを見せられたら、全部吹き飛んだ。不満とか怒りだとか、綺麗さっぱり吹き飛んで、残ったのは例のピンク色バカップルみたいな甘ったるい気分だ。

「…………もうちょっと、かわいく言ったら許す」

冗談半分、本気半分。精一杯の憎まれ口、みたいなもの。こんなパターンを一体何度繰り返しただろう。けれど、これはもう仕方ないことだと思う。だってもう自覚済みなんだし。これでも、さ。



web clap:12.02.16~site:12.04.26
*(君が好き。)

[back]
[works]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -