*合同radioネタです 歩くたびに、かちゃかちゃと片付けた食器同士がぶつかりあう音を立てながら、瑛くんは不機嫌そうだ。放課後の帰り道、バスケットに詰めた食器類を手に、瑛くんはさっきからずっとぼやき放しだったりする。 「あいつら、全然分かってない」 昼間の放送の延長線上、もう放課後になったのに、瑛くんはまだお昼の放送の一件が頭に引っかかったままみたい。 「そうかなあ」 「そうだよ。ったく、何だよ。“甘くなくておいしい”とか、“お店の味だ”とか……こっちはプロなんだ。文化祭の模擬店とは違うんだよ。それをあいつ等……」 「もう、瑛くん、言い過ぎだよ」 あんまりな言い方に、隣りを歩く瑛くんを見上げる。瑛くんはムッとした顔のまま、わたしを見下ろした。 「氷上くんも、はば学の会長さんもちゃんと頑張ってるのに、そんな言い方ってないよ」 「……それは分かるけど…………、つーか! 元はと言えば、おまえが……」 「わたし?」 「去年、人のこと口車に乗せてクラス出店を手伝わせたのは、そもそもおまえだろ」 「うん、瑛くんのおかげで去年はすごく助かったよ。流石プロだね!」 「当然だ。それで今回、こんな話に巻き込まれてるんだろ。あーもう、こんなことになるくらいなら、余計な情なんかかけなきゃよかった」 ぼやくように言って、瑛くんはため息をついた。かちゃかちゃ、と食器の音を聞きながら、思ったことを呟いてみる。 「……でも、瑛くん、結構楽しそうだったけどなあ」 「は?」 「去年の接客も、水を得た魚みたいだったけど……ほら、今回の文化祭用の特別メニューを考えてる間、大変そうだったけど、瑛くん、すごく楽しそうだったから……」 去年の文化祭での瑛くんの活躍ぶりは語り草になっている。クマエプロンをつけて、普段のプリンスの顔も忘れて、接客モードになっている瑛くんの写真を後で本人に見せたら、問答無用でチョップされた。懐かしい、去年の話しだ。 そうして、今年、文化祭での活躍を受けて、瑛くんはお昼の合同ラジオに駆りだされてしまった。何でも、“ちょっと背伸びして行ってみたい”喫茶・珊瑚礁のケーキとコーヒーをサービスする、という演出の為に、らしい。 そもそもの話、珊瑚礁側に文化祭の出張店のオファーが来たのと、今回のお昼の放送での瑛くんのゲスト出演は、別々のお話だったりする。少なくとも、表向きには、そういう話になっている。偶然と言え、余りにもいろんな事が重なり過ぎて、何だかとてもややこしい。見ようによっては、瑛くんが全部負担を抱え込むという、とてもシンプルな図式ではあったのだけど。 出張店の特別メニューのレシピ作りと、今回の放送が重なって、瑛くんはストレスを抱え込むことになったみたい。このところ、ずっと眉間の皺が深かった。 そうではあったけど、それでも、文化祭の特別メニューを考えている間の瑛くんは、大変そうだけど、とても生き生きしていた。 「ノートと睨めっこしてレシピを考えたり、わたしも何回か意見を聞かれたし、試作品も結構作ったんだよね? マスターさんから聞いたよ」 「………………」 「瑛くん、いつも忙しそうだし、大変そうだから、あまり無理してほしくないけど…………でも、お店のことに一生懸命な瑛くんって――」 去年の瑛くんの姿が目蓋の裏をよぎる。去年の文化祭の瑛くん。クマエプロンなんて、普段は絶対しないような可愛らしいエプロンをつけながら、珊瑚礁にいるときみたいなプロの顔で接客をする瑛くんは、やっぱり、 「すごくかっこよかった、な」 「……ごほっ!」 瑛くんがむせた。 「だ、大丈夫? 瑛くん?」 慌てて声をかけたら、「や、大丈夫」と言われた。目の前に瑛くんの手のひらがある。まるで“こっちを見るな”という風に差し出された手のひら。 瑛くんはせき込んで、顔を背けたまま、ぼやくように言った。 「…………反則だろ、そういうの」 「えっ? 何のこと?」 「や、なんでも……」 「?」 歯切れの悪い瑛くんの言い方に首を傾げてしまう。落ち着いたのか、瑛くんはこちらに向き直って、上に下に、わたしを見下ろした。 「……で、何が狙いだ」 「狙いって?」 「いきなり人のことを褒めたりして、何が狙いなんだって聞いてるんだ」 「そんなこと!」 ――ないのになあ。 人の気も知らずに、瑛くんは一人で頷いて一人で納得している。一人合点な瑛くん。 「……分かった。おまえ、アレが狙いだろ」 「アレ?」 「文化祭のケーキ」 ホワイトチョコレートを混ぜ込んだ、レアチーズケーキ。 そういえば、まだ食べたことがなかった。 「うん、食べたい!」 ほとんど条件反射みたいに頷いたら、瑛くんは苦笑交じりの仕方なさそうな顔で頷きを返した。 「しょーがない。出してやる」 「やったぁ!」 「時間ないから、急ぐぞ」 「うん!」 同じアルバイト先に急ぐ帰り道、だんだんと長くなっていく二人の分の影を引き連れて、食器を詰めたバスケットを抱えて、珊瑚礁へと向かう。 髪を煽る風が強くて寒いけど、もう随分と陽が長くなったし、何より、潮風の冷たさが和らいでいる。もう、春がすぐそこまで来ている。春先のイベントに思いを馳せながら、海沿いの道を二人、急いだ。 *おまけのけ 「でも、瑛くん、いいの?」 「いいって何が?」 「レアチーズケーキ。ずっと、わたしには試食させてくれなかったでしょ。今日は良いのかな〜って」 「それは……大体完成したから、いいんだ」 「そっか。楽しみだなあ」 「………………」 「わたしね、ホワイトチョコが好きだから余計に楽しみだなあ」 「……知ってる」 「えっ」 「……ホントは来月まで持ち越しにしようかと思ってたけど、気が変わったんだ」 「来月?」 「来月は来月で、また別のを考える」 「新しい特別メニューってこと?」 「……まあ、そんな感じ」 「そっか……。それも楽しみだなあ」 「ああ。楽しみにしとけよ?」 「(瑛くん……?)」 2012.02.28 *来月の特別メニューって勿論、ホワイトデーですともぉぉぉぉ!!!!デイジー専用特別メニューですよぉぉぉぉ^////^!!!!(ちょっと落ち着いて) **小説版でちょろっと書かれていたデイジー(瑛くんルート)がホワイトチョコ好きという設定に、僕は、僕は、色んな意味でときめきが止まらないんだだだ/// あれですね、ホワイトデーなりなんなり、好きな子の好きなものをプレゼントしようとする、その心がとてもスイートと思います。そして果ては、文化祭用のケーキにまで、超瑛主妄想を見出す始末です。佐伯くん、ホワイトチョコが好きなあの子のためにこの特別メニュー作ったろ、と超妄想したくなる次第です^^てへ!←←← [back] [works] |