(*13日のバカップルと繋がりあり、と言えなくもないです) 「……もしもし」 「あっ、佐伯くん? よかった……」 「よくない。ったく、今何時か、分かってんのか?」 「う、うん……日付変わっちゃってるね……」 「とっくにな。……で? 何か用か」 「うん、あのね…………い、いっしょに寝てほしいなあ〜って」 「…………………」 「佐伯くん? 聞こえてる? もしもーし?」 「聞こえてる。つーか、何のつもりだ」 「だ、だから、いっしょに寝てほしくて……」 「無理。ダメ、ゼッタイ。何考えてるんだよ、ホント……」 「そんなあ……」 「何、おまえ本気なの? からかってるとかじゃなく」 「本気だよ! でなきゃ、こんな非常識な時間に電話なんかしないよ……!」 「非常識な時間ってことは分かってるんだな」 「う、うん、それは流石に……」 「でも、非常識なお願いをしてるってことは、分かってないんだな」 「そんなに、非常識なこと?」 「非常識も非常識だろ! い、いっしょに寝る、とか……あり得ないだろ……!」 「そんなに全否定しなくても……わたしは佐伯くんと一緒に寝たいのに……」 「おっ、おまえ、何言ってんだよ……!? マジで……!」 「さ、佐伯くん、声大きいよ! 近所迷惑になっちゃうよ!」 「近所に家なんか、建ってないから構わないよ。ああもう、ホント、何が目的なんだよ?」 「うん、実は……」 「何?」 「その、今ね、クラスで怖いDVDが流行ってるの」 「…………読めた」 「読めちゃった?」 「どうせ、その流行りのDVDを借りてきて、夜に一人で見たんだろ。で、怖すぎて眠れなくなった、と」 「ピンポン大正解です!」 「全然嬉しくないよ。あーもう、何だよ……ドキドキして損した」 「ドキドキ? あっ、そうか、佐伯くんも怖い話苦手だもんね……」 「……用件、それだけなら、もう切るぞ」 「ま、待って……! 一人にしないで……!」 「一人だろ! おまえは今、部屋に一人だろ!」 「ここここ怖いこと、言わないでよぉぉぉぉ!」 「全っ然、怖いことなんか言ってないだろ! 俺は事実しか言ってないぞ」 「怖いよぉ! お願いだから、お話してよぉ〜」 「ちょ、マジで泣きべそかくなよ……ああもう、何で一人で見たんだよ。しかも夜に……一番怖いシチュエーションだろ……」 「だって、そうすると一番、効果が出るってみんなが言うから……」 「効果出過ぎじゃん」 「ぐうの音も出ません……」 「カピバラのヌイグルミでも抱いて、部屋、暗いまんまだと怖いなら、電気つけて寝ろよ。明日、起きられなくなるぞ」 「……そうしたけど、それでも怖いから佐伯くんに電話したんだよ」 「…………悪いけど、俺がしてやれることなんか、何もないからな」 「あ、あるよ!」 「何?」 「あのね、佐伯くん、まだ起きてる? お勉強、まだ残ってる?」 「や、そろそろ寝ようと思ってたとこ」 「じゃあ、いっしょに寝ようよ」 「ああもう、電話じゃなかったら、チョップ出来るのに……」 「こ、怖いこと言わないでよぉ!」 「明日覚えてろ」 「怖いこと言わないでよ! ただでさえ怯えてるのに……!」 「ウルサイ。そんなに元気なら平気だろ。つーか、全然参ってるように見えないし」 「参ってるよ……本当に怖かったんだから。あのね……あるところにね……」 「それ以上なにか喋ったら問答無用で切るぞ」 「それはヤダ!」 「はあ……ったく、いっしょに寝るったって、無理だろ。普通に考えて。まさか今から行ってやる訳にもいかないし……」 「うん、だからね、このまま眠るまでの間、電話で少しお話してほしいなあ〜って」 「……それだけ?」 「う、うん。そうしてほしいなあ……」 「……はじめから、そう言えよ」 「そう言ってなかったっけ?」 「言ってないよ。何だよ、そういうことかよ……で、話って? 具体的にどんな話をすればいんだよ」 「付き合ってくれるの?」 「……いいよ。どうせ、もう寝るだけだし」 「ありがとう、佐伯くん!」 「まあな。明日、覚えてろよ」 「怖いこと、言わないでよぉ……!」 「で、何話す?」 「うん、眠れるようなお話がいいな。うーん、羊を数える、とか……」 「俺が? 数えてやるのか?」 「うん」 「果てしなく、面倒くさい」 「ま、前にわたしも数えたのに……!」 「……あー、まあ、そう、だな。仕方ない。行くぞ」 「うん、お願いします!」 「いや、その気合い、寝る姿勢じゃないから……もっとリラックスしろよ」 「うん」 「よし、じゃあ……羊が一匹、羊が二匹……」 「うんうん」 ・ ・ ・ 「……羊が……101匹…………」 「…………………」 「ひつじが………………」 「……佐伯くん?」 「………………」 「さ、佐伯くん、寝ちゃったの? 待って、おいてかないで……!」 「……ウルサイよ」 「酷いよ、先に寝ちゃうなんて……!」 「100匹も数えてやったのに、まだ寝ないおまえが悪い。もういいだろ……」 「うーん、羊さんだと、眠れないみたいかも……」 「じゃあ、何なら眠れそうなんだよ……」 「お話、してほしいなあ……」 「お話?」 「絵本とか、童話とか……」 「童話…………」 「ダメ、かな?」 「…………いいよ。じゃあ、今度こそ大人しく聞けよ」 「うん」 「むかしむかし……」 「あっ、でも、怖い話はヤダよ!」 「聞け! 大人しく!」 「はっ、はいっ」 「むかしむかし、な」 「うんうん」 「…………渚で出会った若者と、人魚の娘は恋に落ちました」 「………………?」 「人魚の姿を人間にかえた娘は、声を出すことはできません」 「(あれ? このお話、どこかで聞いたことがあるような……)」 ・ ・ ・ 「若者は来る日も来る日も海を眺めて暮らしました」 「………………すう」 「あかり?」 「…………………う、ん……」 「やっと寝たか……」 「……うーん……お刺身天国…………」 「……どういう寝言だよ」 「…………イワシ……」 「……ったく。…………おやすみ」 ――Pi 「さて、俺も寝るかな」 ヒュ〜ガタガタガタ(風の音) 「…………………………いや、怖くなんてないんだからな」 ヒュ〜〜〜〜〜…… 「……あいつ、明日学校で覚えてろよ」 2011.12.03 *おしまい! *たまにはデイジーも佐伯くんを頼ってもいいかなあ、とか思った産物(にしては、酷い色々) [back] [works] |