テスト期間と銘打たれた一週間。放課後の部活動も休みに入る、その期間中は誰も彼もが顔を緊張で強張らせ机にかじりつく。少なくとも、テストの間中は。
 教室のあちこちで悲鳴が上がっている。ついさっき終わったばかりの教科の答え合わせの声が悪目立ちしている。問一の答えはああだ、こうだ…………長期的に見て、それだって成績に貢献する行為には違いないのだろう。けれど今は――短期的には、終わった教科のことは早々に割り切って次のテストに頭を切り替えた方が得策だと思われた。正解が分からないまま、うだうだと議論を重ねるよりは余程マシに思える。
 単語帳をめくりながら佐伯はクラスメイトの悲喜こもごもを冷めた気分で聞き流している。例え、日本史の答え合わせに加わったクラス担任が「えっ? 小野妹子って女性じゃなかったんですか!?」とベタなボケをかましているのが聞こえたとしても。突っ込んだら負けだ、こういうのは。
 平常心を保とうとして、顔を上げて視線を向けた先、窓際の席から少しだけ風が吹いてきている。
 クーラーなんて、そんな贅沢なものは教室には設置されていない。梅雨が明けて、着実に蒸し暑さを増す7月の始め、暑さに対する唯一の対処法は窓を全開に開け放つことだけだ。
 風が窓際に座った女子生徒の髪を揺らしている。見慣れた夏服の、上着の白が空の青に映える。頬づえをついて、教室中に広がる喧騒からは切り離されたような横顔は、ただ窓の外を見つめていた。驚くほどの真剣さで、切実さで以って。
 首の半ば辺り、短く切りそろえた焦げ茶色の髪を風に揺られるにまかせ、ただじっと青色を見つめ続ける少女の横顔から、彼は目を離すことが出来ないでいる。別に、少女の次のテストが心配だったとか、そういう訳じゃない。
 ただ、あんまりにも真剣に少女が窓の外を見つめているから、少女の物言わぬ目が、空と海の青を瞳に映していたから。だから、少年もまた青色から目を離せなくなった。不意に、堪らなく海に行きたくなった。今日はまだ幾つかテストが残っている上、第一、テスト期間中。まさか、期間中に海に行く訳にもいかない。それでも、それは焼け付く様に激しい望みだった。海の青を目に焼き付け馬鹿な考えをやり過ごす。せいぜいが、あと数日の我慢だ。それが終われば、直に夏休み。夏が目前まで迫っている。




0/summer has come.(夏は来ぬ)

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