一緒に帰ろうよ、と言って隣りを歩きだした親友の歩幅が不意に遅れた。いつも通りの他愛ない会話の延長線上、急にエネルギー切れでも起こしたような停滞に違和感を覚えた。最近多い違和感。理由は……知っている、と思う。本人は頑なに話題に上げようとしない人物の顔が瞼裏に浮かぶ。つい先日、急な転校で学園を賑わせたプリンス。
「西本さん」
「ん、何?」
「わたしね、最近、新しい得意技ができたよ」
「と、得意技!?」
「うん。いつでも涙が流せるの」
 見てて、と言って目を上向けた彼女の両目のふちに、みるみる透明な滴が盛り上がった。零れ落ちる直前に自分の人差し指で透明な水をすくってみせて言う。
「ね?」
 指先の涙とは裏腹におどけたような笑顔。ちょっとした手品でも成功させたような悪戯っぽい笑み。こんなの、手品でも何でもないだろうに。それでも、悲しいのを無理に笑いで包み込もうとする彼女がいじましくて。
「すごいやん! どうなってんの、それ?」
「ふふふ企業秘密〜」
「えええズルイ〜」
 返した笑顔は上手く笑えていただろうか。


泣く魔術
[title:にやり/11.05.26/441文字](*元ネタは天.然.コ.ケ.ッ.●.ー)


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