何だか、いつも忙しそうでクタクタだなあって思ってた。
何か手伝えることはないかなって、そう思った。
疲れてるのを見てるだけ、というのはイヤだなあ、たくさんだなあって。


つまりまあ、ことの原因はそういうことだったりする。






2日目)
並んだ二人、
微妙な距離






朝、学校に向かって海沿いの道を歩いていると、見つけた。見慣れた後ろ姿を。


「佐伯くーん!」


名前を呼びながら駆け付けると、佐伯くんはうるさそうに眉を少し顰めて振り返った。いつものことながら。


「おはよう、いい天気だね!」
「おはよ。おまえ、朝から元気よすぎ」
「朝から元気がなくてどうするの。ね、一緒に学校行こう」


佐伯くんはまじまじとわたしの顔を見つめてきた。“マジか?”みたいな表情。ひとつ頷き「マジですよ」と返しておく。ため息が上から降ってきた。


「おまえ正気か……つか、あれ本気なのか?」
「正気だし、本気です。佐伯くんこそ、もう忘れちゃったの? 一週間限定でわたしたち恋人に――」
「声がデカイ。あと、もう少しぼかして喋れ。恋人っておまえ……」


遮るように大きい声で言われた。後半はぶつぶつと呟くような小さな声になってしまったけれど。
気まずそうに視線をずらした佐伯くんの顔を見上げ、呟く。


「そんなに恥ずかしがらなくても……」
「おまえの感覚がおかしいんだ」


じろりと睨まれてしまう。そうかなあ? 本当の本当に手伝いたいだけなんだけど……。


「でも約束したでしょ。一週間付き合うって」


一昨日、帰り道で交わした約束。こんなので大丈夫なのか、とぼやく佐伯くんを説得するために取り付けた約束。
一週間だけの付き合うフリ。それでうまくいくようなら、計画続行。ダメなら、計画失敗。潔くキレイさっぱり白紙に戻す。そういう約束。


「ちゃんとそれらしく振舞わないと意味がないよ。一週間しかないんだし」


他人を欺くには、まず自分から。見えない場所でもちゃんとそれらしく振舞って訓練しておけば、きっとみんなにもそれらしく見えるはず。そういう持論だった。


「だからほら、普通の高校生のカップルらしく一緒に仲良く登校しよう?」


佐伯くんはしばらくわたしの顔を見つめ、やがて諦めたように深くため息をついた。


「おまえってホントにこわいもの知らずなのな。……いいのか? 本当に」


念を押すように訊かれた。わたしは頷きを返す。


「大丈夫、大丈夫。行こう?」


手を差し出して、指先だけ触れた途端、まるで電気でも走ったような勢いで手を引かれた。


「うわっ!?」
「な、なに!?」
「おま……バカ!」
「バカってなによ!」
「なにって、手、繋ぐとか…………ありえないだろ!」


力いっぱい否定されてしまった。思わず首を傾げてしまう。


「そうかなあ? 付き合ってるなら、ありえることだと思うけど……」
「俺には、ありえないの。ほら俺、手とか繋がない主義だから」
「はあ……」
「なんだよ、その目!」
「なんでもなーい」


そう言って歩き出す。一歩遅れて佐伯くんも歩き出す気配。すぐ隣りに並んで、でも距離は決して近くない。指先が触れ合う前よりも距離が離れてしまった気がする。
……これから一週間、大丈夫かなあ。ちゃんと付き合ってるように振舞えるのかな、わたしたち。
思いのほか、難航してしまいそうなミッションに、少し不安を感じた。何か対策が必要かもしれない。




2011.01.22


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