「……ただいま」
「おかえり。……なんだ? おかしな顔して」
「してない。着替えてくるよ」

じいちゃんが何か言いたそうにしてたけど、何も言われたくなくて、何も言いたくなくて、すぐ2階に上がった。
支度を済ませて、店に出る。仕事は……滞りなくこなしたと思う。何も考えないようにして、何とかこなした。







帰りがけ、じいちゃんから声をかけられた。もう遅い時間で客足はほとんどない。

「それじゃあ、あとは宜しく頼む」
「ああ、うん。了解」
「そうだ、瑛」
「何?」

じいちゃんが上着のポケットから、何か紙切れを出してきた。差し出される。何かのチケットが2枚。

「……何これ?」
「お客さんからのもらい物だよ。『おまえに渡してくれ』だとさ」

ほら、と差し出される。受け取らないでいたら「お客さんの好意だ。受け取っておきなさい」と諭された。

「でも、何でじいちゃんに?」
「今日のおまえは取り付くしまがなかったからね」
「え?」
「完璧すぎて、世間話をする隙もなかったんだろう。チケットさえ渡せなかったらしい」
「…………」
「日曜日は休んでいいから、それで気晴らしでもしてきなさい」

ぽん、と肩を叩かれた。受け取れなかったチケットはカウンターの上に乗せられていた。







閉店作業に掃除、発注……仕事を済ませて、自分の部屋に引き揚げる。渡されたチケットを机に置いた。すぐ風に飛ばされてしまいそうな薄い紙きれ2枚。気分が重くなる。
こんな状況で遊ぶ気にはなれなかった。何より、一緒にいたいあいつとあんな風になって。

『迷惑だ』

それなら、最初から拒絶しておけばよかったんだ。こんな形でダメにするくらいなら。
上手くいかないって、分かってたんだ。でも、受け入れてしまった。理由はどうしようもない理由だ。あんな形でも、結局、嬉しかった。本当にバカみたいだ。それがどんな結果をもたらすか、考えれば分かることだったのに。あいつが……あかりが女子のいざこざに巻き込まれるのだけは、御免だった。だから、これで良かったはずなんだ。
でも、あかりの泣きそうな顔を思い出してしまう。傷付いたような声で『迷惑だった?』って訊いて来た声も。

「…………どうしろって、言うんだよ」

どうしたら、良かったんだろう。

全部、好意からだった。
チケットをくれたお客さんも、じいちゃんの気遣いも、学校でのいざこざさえ、あかりの提案も、きっと。
全部が全部、好意から始まったことのはずなのに、何でこんなにうまくいかないんだろう?



2011.06.10


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