11.雨宿り



降りだすか、降りださないか、判断に迷うような空だった。降りださない方に賭けて、バイト中、傘を持たずに買出しに出た。そうして今、雨に降りこめられ、どこかの公園の軒先で雨宿りをしている。数十分前の自分の甘い判断をうらめしく思う。
腕時計で時間を確認する。本来なら、もうそろそろ戻っていてもおかしくない時間。早く珊瑚礁に戻るべきだ。雨が止む気配はないけれど、そろそろ覚悟を決めて雨の中へ飛び込むべきなのかもしれない。
そうして覚悟を決めようとしたところで、エプロンのポケットに入れた携帯から微かなメロディが聞こえてきた。表示された着信元は予想通りの人物からだった。

「はい」
「おまえ、今どこ」
「えっと、公園。ごめんね、すぐ帰るから」
「いい。動くな。公園だな? そこで待ってろ」
「佐伯くん? ……切れちゃった」

通話時間が表示された液晶画面を見つめる。――待ってろ? ここで? 軒先から見上げた雲はたっぷりと水分を含んで、灰色に染まっている。霧のような雨に視界が煙る。空の色と雨のせいか、心身共に寒々しい気分になる。

どこかの駅の忠犬よろしく、言われた通り大人しく待っていると、見慣れた人の姿が遠くに見えた。傘を手にバイト着のまま。

「佐伯くん」
「やっぱ、おまえ傘もってなかったんだな。ほら、これ使えよ」
「ありがとう」

傘を受け取って、矢継ぎ早に聞く。

「ごめんね? 迎えに来てくれたの? お店大丈夫?」
「雨だし、この時間はあまり人が来ないし、じいちゃんが迎えに行って来いって」
「そうだったんだ……」
「ほら、行くぞ。いくら忙しくなくても、一人じゃたいへんだろうし」
「うん」

歩き出そうとしたら、佐伯くんが手を差し出してきた。――手?

「お手?」
「違うだろ! 荷物」
「え?」
「荷物、こっち寄越せよ。俺が持つから」
「いいの?」
「その方が早いだろ」
「そっか……ありがとう」
「その代りダッシュで帰るぞ。そんで、コマネズミのように働け。いいな?」
「うん!」

元気よく頷いたら、佐伯くんが目を細めるようにして笑った。それから、二人で雨の中、珊瑚礁へ急いで帰った。
霧雨の中を走ったせいで、傘をさしていたのに、珊瑚礁に着くころには二人ともしっとりと濡れてしまっていた。濡れネズミになって帰ってきたわたしたちを見て、マスターは『おやおや』という顔をした。それから「おかえり」と言ってタオルを渡してくれた。コーヒーの湯気と香りがふわふわと漂うお店の中は明るくて温かかった。



2011.04.22
Q.バカップル要素はどこですか?
A.強いて言えば、「荷物持つよ」の下りかと……(苦しい)
雨降りのシリアス的空気に流されバカップル度が低くなりました猛省。


(*お蔵入りバージョン)
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